真剣勝負(本当の意味で)!

「エリーナ、大将は?」

二千花にちか、一番奥のツインテールの子。彼女がいないとたぶん、連携が取れなくなる」

「わかった」



「動きは見えた、そう何度もかわせるなどと。……思うなよっ!」


 先ほどと同じく、なんの躊躇も無くガイトを袈裟懸けにするべく大太刀が大上段から落ちてくるが。

 ――キイーン!

 いつのまにか彼の左手に握られたペティナイフに切っ先は弾かれ、ブレる。


「果物ナイフ、だとっ!? どこから!」

「もちろん、技術だけなら俺より上だしな。舐めたことは当然思わん」

 相手が刃物を持っていることも気にせず、ガイトは間合いをグンと詰める。

「ただの当て身など……」

 

 一息で相手に密着したガイトは、半身で当て身を喰らわせたように見えたが、少女は剣を手放しつつ派手に吹き飛んでいく。


「……ぐはぁ!」

「なんちゃってレベルだが、発勁はっけいだ。さすがに俺の動きに付いてくるヤツは厄介だ。しばらく寝てろ」



千弦ちづる くっ……、簡単にあたしを抜けるなんて、おもわないで下さいね!?」

「お前は護身術だったな? 別に抜かねぇよ、正面からぶちあたるさ。むしろ受けてもらうが覚悟は良いか? 少々痛いぜ?」


 ガイトに向けて正面から薙刀が突き出されるが、

 ――ぱん! すちゃ。

 いつの間にかペティナイフをしまった素手で払いのけて奪い取り。

 そのまま一歩踏み込むと、突き出されたガイトの肘が鳩尾みぞおちに突き刺さるが。


「く、……この程度で」

「……浅い? 胸の大きさで、ウエストの位置を読み違えただと!」


 セーラー服の上着の裾は。大きく胸に持ち上げられていて、実際のウエストはガイトの想定よりも三センチ以上細かった。


 ――エリーナの言う胸の大きさの話も有用な情報だった、


 と思いながら奪い取った薙刀の柄が彼女の足を払い、バランスを崩す。


「え? ……な!」

「……しっ!」


 その隙を逃さず、同じく鳩尾にもう一発。今度は蹴りがまともに決まる。


「が、は……!」

 彼女はくの字に曲がったまま浮き上がり、口から吐瀉物を零しながらその場に連れ落ちる。


 ガイトは、 

「動きは悪かねぇが、移動のたびに下半身がぶれるうえ、上半身がついて行ってない。足裁きからやり直しっ! ……ってとこだな」

 と言い放つと手放した薙刀を、――がらーん、カラカラ。遠くへと放り投げる。



和沙かずさ……!」

 ガイトは低く構えた姿勢から背筋を伸ばし、声のした方を見やる。

 視線の先には小柄な少女が薙刀をかまえて立っている。



「……! まさか、こんなに簡単に二人を……!?」

「見ててわかったろ、全然簡単じゃなかったさ……」


 ガイトは両手をおろしたまま、ゆっくりと前に出る。


「しかし。薙刀は捨てた以上、無手だと言うなら接近されなけれ、ば……?」

 言葉が終わる前には、彼女の首に変わった形の矢が刺さり、膝から崩れる。

「なんで俺が素手だと思った?」



 いつのまにかガイトは右手に持った棒を咥えていた。


「それ。吹き、矢。です、か?」

「刃物で切ったら死んじゃうからな。カワイイ女の子は殺したくない」

「どこまで、……本気。なんで、す?」


 膝を付いてそのままうつ伏せに倒れる。



「よくも二千花にちかを! おっさん、ふざけるなよ……!」

 

「お兄さんだ、そこは訂正してもらおう」

 千弦、と呼ばれた少女が正面から、拳を握って立ち向かってくるが、ガイトはそれを全く意に介さず、一歩も動かずにかわし。


「そして。かたなが無いのに実戦の経験値も、筋力の男女差も越えて俺に勝てると、本気で思ってるか?」


 右手に持ったままだった吹き矢の筒を、

 ――とん。

 と、軽くうなじに当てる。


「貴様……!」

「別に吹き矢だからって、必ず吹かなくても良いだろ? 矢が刺されば」

「ふざ、け……」


 吹き矢を意にも介さずガイトに掴みかかるが。

 そのままのカタチで突如意識を失い、ガイトにもたれる様に崩れ落ちる。



 ガイトは、まだえずいている和沙と呼ばれた少女に近づき、背中をさすってやる。

「あれをまともに喰らって、まだ意識保ってんのかよ。結構鍛えてんのなお前。……いくらか落ち着いたか?」

「自分で、ごふ、やっておいて、……なんのつもり、ですか?」


「うん? あぁ、吐いたものがあるとさ、意識を無くすと窒息する危険があるんだ」

 そのまま首筋に、――ぷす。何事も無くどこからか取り出した針を刺す。

「あ、やっぱり……」 

 彼女は、ガイトに抱きかかえられながら意識を手放した。




「そのジャケット、ドンだけ武器仕込んであるの……?」

「今回はあと二つくらいだ。重くなるのは好かん」


「じゃなかった! ……あの、ガイトさん?」

「あぁ、大丈夫だ。お前の時より薬は弱い。最短一時間で目覚める」

「いつの間に薬、打たれてたの私。……そうじゃ無くて! ――あのね?」

「……うん、気がついてくれて助かる、だからお前を連れて来た。手先は器用か?」


「も、もしかすると。その」


 ガイトはビジネスバッグの中から、細くて短めの蛇腹ホースの様なものが付いた機械を取り出す。

「さすがに素人じゃ目で見ないとわからんだろ。水道管で使えるくらいに細い。スコープとライト、ピンセットが一緒になってるんだ。モニター見ながら、ほれ。こんな感じで使えば良い。三人とも入り口近くまで運ぶぞ。電源はクルマにあるから今、コード延ばしてくる。ちょうどスカートだし、パンツだけで良い、全員脱がしとけ」

 

 ガイトはそう言って、腕の中の少女をそのまま抱えて立ち上がる。


「意識がオチてるから何も感じん、多分痛くはないし、仮に気持ちよくても本人は意識がないから覚えてねぇ。但し場所が場所だからな、結構簡単に出血する。そうなったらあとになって痛いかも、だ。どう痛いかは、俺にはわかりようがないが」

 

「あの……」


「あぁ、刀のも俺が運ぶ。――大丈夫だ。カメラは細いし、ライト点けりゃ反射で光ってモニターでもすぐわかる。画像は録画しない、俺は横を向いてる。友人達の身体の中心にある信仰・・を、お前が取り除け」

「それってつまり……」


「さっきも言ったがガキには興味がない。その上、淫行呼ばわりなんてなぁ、もうまっぴらだっての。友達どうしでどうにかできるなら、その方が良いだろ?」


「あの、私。あとでどうやって説明、……するの?」

「そのまま言えば良いんじゃねぇの?」


「んー。……あ。でもちょっと待って。説明の過程をなんか間違ったら、友達じゃ無くなっちゃうんじゃない……?」

「あるいは、お友達以上の関係性になれるかも、だぜ?」

「そんなの、絶対にいやあっ!」

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