港湾地区
半分空いた「立ち入り禁止!」と書かれたバリケードをすり抜けて、少々くたびれた白いミニバンが敷地の駐車スペースを抜けて、倉庫の大きなシャッターの前に止まるとライトを消す。
「女子高生はこんなところにいちゃいけない時間なんだが」
「私が来る、とメッセを流した以上はみんな待ってる」
「刃物をもって、な」
ジャケットを羽織ったガイトと、その後ろにエリーナが続く。
「別に寒くないのに、なんで着替えたの?」
「ポケットがいっぱいあるからだ。荷物が増えるのは好かん」
と言いながら、リアシートから出した大きめのビジネスバッグをエリーナに渡す。
「これは増えても良いの?」
「多分あとで使うヤツ。戻ってくるとしても取りに来るのが面倒だ。持つの、お前だしな」
「私が持つの前提なんだ。……うわ、
「筋肉を鍛えるとか、そう言うのは俺の趣味じゃないんでね」
「私も別にボディビルダーになろうとか思って鍛えてるわけじゃ……」
「適材適所ってのがあるさ。……ついてこい」
大きなシャッターの横。
人間用のドアが軋みながら開く。
「一応、お友達の名前だけ聞いておくか」
「カタナを持ってる背の高い
「スーパーゼネコンの一角、元の村主組。専務の娘ってことは創業家の直系か。ウキシマロジに負けず劣らずデカいな。そして妹、関係ねぇだろうよ……。あとは?」
「背が低くてショート、そして明らかにおっぱいの大きい
「今の話、おっぱい情報は必要か? ――しかしロジカルシンク……? あぁ。去年、史上最高値でアメリカのミニマルウエア社に買収された会社だよな。なんか世界が違うぜ」
「最後。ちょっとロリっぽくておっとりして見えるのが
「カネハチグループと言えば世界でも指折りの総合商社、傘下のスーパーとコンビニも業界トップだぞ!? しかも鐘屋八丈商店の創業者、旧華族の青葉小路男爵といえば、普通に歴史の教科書に載ってるだろ。そんな人の直系だってのか? もうアタマおかしいだろ、お前のまわりだけ」
「ウチの学校、わりと普通に居るよ? そう言う
「……入学の時に家族や家柄まで審査がある、って噂はホントなんだな」
「よく言われるけれど、私は興味ないし、知らない。……でも襲い掛かってくる、かな? 私のときとはだいぶ状況が違う気がするよ?」
「状況はかえって悪化してる。俺に付き従う薙刀も持っていないお前、そしてお仲間であれば当然、"神気"が抜けたのは見える。……となると」
「お前は誰だ! エリーナに何をした!!」
――ほらな?
――逆にそこまで読めちゃうガイトさんがおかしいよ……。
小声で会話を交わしたあとで、ガイトが声を張る。
「俺はそこら辺のセコい拝み屋でね、こいつから悪い憑き物を落としただけだ。お前らにも憑いてるが、ひっでぇニオイだ。素人が文献だけで真似するからこんなことになる! もっともお前ら自身でどうこうしたわけじゃあ、ないんだろうがな!」
「なんの話ですか! あたし達には何もニオイなんか……!」
「戦国時代よりも前、平安中期から後期の民間伝承的な名もなき神様、……ってとこか。どう解呪したら良いんだよ、全く。つくづくめんどくさいのに見込まれたな、お前ら」
「なにかわかってしまったんですか? わたくしたち自身が知らないのに」
「そこは専門家なんでな。一目見りゃわかる。まぁ、今なら裏が見えなくても、術式解体はさほど手間じゃない」
――ある意味簡単だよね、パンツ脱がすだけだもん……。
――黙ってろ! あれは他にやりようがねぇンだよ!
「あたしらをどうにかなんか、できるわけない! はったりだよ!」
「ただ、エリ-は洗脳されちゃったようですが。あの方をやっつけたら、もとに戻るのでしょうかしら?」
「あぁ。いずれ剣が語りかけてくるんだ、コイツだけは
始めに
高い位置に結んだポニーテールがまるでちょんまげのようだ、とガイトは思う。
「そう言う
「寝言は寝て言うと、相場は決まっているのだ! ……この場にて、切り捨てる!」
声と共に物理法則を無視したと見える踏み込みで、大太刀がガイトを袈裟懸けにしようとするが。
ガイトは最小の動きで完全にかわしきる。
「
「はっ! 外見を褒めようがなにも出ないぞ! 切ったら死ぬかも知れない! もちろんわかっている、覚悟はあるっ!!」
もう一度、今度は太刀がガイトの胴を
「全然違うな。士道不覚悟、と言ったらお前には通じそうだ。……刀ってのは一撃必殺、言葉通りに必ず討ち取る気で振るんだよ。何故なら」
いつのまにか彼女の後ろに回ったガイトが、――つぅ。首筋に一本、指で線を書く。
「……なっ!」
「今のでわかったよな? ……討ち損じたら、次は自分が切られる。当たり前だ」
「……ち!」
一瞬の後、二人の間合いは一気に広がる。
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