実はお嬢様

「エリーナ。今の話で俺の知らない情報が一つ。ウキシマホールディングスの母体、ウキシマロジスティクスと言えば、日本の運輸、特に宅配業界では最大手、かつかなり極端な同族企業であることで知られてる。その当主の娘なのになんで名前に浮島が入ってない?」


「私の戸籍上の名前は、浮島=ヘンゲスト 恵里那。さっき日本人だって言ったじゃない。どうせ確認するなら。お財布にマイナンバーカード、入ってたんだからそっちも見なさいよ。――公的に必要なもの以外は全部エリーナ・ヘンゲストで登録してあるの。パパもお家も好きじゃない。……さっきの人、誰? なんで私と浮島家のつながりがわかったの?」


「人を見た目や態度で侮るとひどい目に合うぜ? 電話の相手は諜報機関のエージェント、日本でも三指に入る辣腕だよ」

「……諜報、機関?」


「神様とか鬼とか、専門はそっちの方だがな。ただ、公安や内調はもちろん、警察庁に宮内庁、防衛省や外務省。もちろん裏の組織にもつながりがあるから、興味本位で触んない方がいいぞ? できればネットの検索もしない方がいい」

「検索のワードすら浮かばない。その辺の話し方、お互い気を付けてた感じだったけど、向こうも私が聞いてるの前提だったの?」


「……さぁな。いずれ組織の名前で検索かけても、学者の集まりとしかわからん。そのうえどこの誰が検索したかは、これは十中八九、バレる。海外の踏み台を二、三段、通したくらいではまるで無意味だ」

「怖すぎるっ! 絶対触んないです、約束する!」





「そうしてくれ。――いずれオオヌサさんの話で間違いない、ってぇことになると。エリーナを探してるオトモダチは瞿麦なでしこのご学友、ってことになるのか?」

「そう、だね」

「その返事がすべてを物語っているな……。何人いる、獲物は薙刀か?」


「三人、そのうち二人は薙刀だけど刃渡りは私の半分。でも一人。剣道の有段者がいて、その子は大太刀」

「剣、太刀は特に神気がこもるんだよなぁ、めんどくせぇ。だいたいみんなジョシコーセイなのに、なんで全員刃物を持ってんだよ?」

「……もともと私が主催の、おまじないの愛好会だったんだけど」


「学外の誰かに入り込まれた、とか言う覚えは?」

「浮島通商の社長さんにパワースポットだと言われて、あの山を紹介してもらって。そんで、地主もウキシマロジうちのグループ会社で、愛好会活動でだったら自由に使って良いよって」


「で、ラッキーアイテム的なことを言われつつ刃物を渡す。と。ありがちといえばありがちだ」

「ありがち案件なの? これ……。――でも。なんで私も、躊躇なく受け取ったんだろ。あんなの。……あれ?」

「既に神気の片割れが身体に仕込まれてるなら、疑問なんか感じないさ、むしろあるべきものが戻ってきた、程度に感じたはずだ」

「確かにもらったときね。……私が持つのが当然、って思っちゃった」



「やっぱりな。ついでに周囲の認識も疎外されるから、まわりもそれを持っていてもそこまで異常に思えない。部活の道具くらいにしか見えねぇんだよ、恐ろしいことに。……で、社長ってのは……」

「私の従姉妹の旦那さん。良い人だと思ってたんだけど」


「”かんのんさま“に”かんのんさま“を仕込むような良い人はいない、断言する」

「ガイトさんなりに気を使ってくれた、というのはわかったうえで。なにそのおっさんくさい言い方……」

 

「ミニバンを用意したってことは、オトモダチも含めて今晩中に俺が全部、事態ごといったん回収しろ。ってことなんだろうなぁ。……その後どうしろっつーんだよ、ホント」


 ガイトは立ち上がると、ペン立てからいかにも事務用のはさみを取り出す。


「あの、ガイトさん。ごめん、私。何もわかってなくて……」

「気にすんな。実は俺が悪の元締めかも知らんのだからな。全部自分の目で見て自身で判断しろ。――拘束を解く、危ないからちょっとだけ動くなよ」

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