ようやく自己紹介

「で。だ、エリーナ・ヘングスト。お前は何故、ひのもと学院瞿麦なでしこ女子高校のコスプレをしている?」

「なんで私の......! 名前がわかるならスマホとか生徒手帳とか見たんでしょ! コスプレじゃないわよ、生徒そのものなの、私! 本物のJKなの! 18歳日本人なのっ!! なんなら区役所に行って住民票、取ってくるっ!?」


「生徒手帳もスマホの定期も本物だと?」

「なんで偽名で生徒手帳作って、学割の定期まで買ったうえでコスプレしないといけない。と思うのか、むしろこっちが聞きたいわよっ!」


「こだわり派なんだと思ってたよ、お嬢様学校の制服なのにぼうぼうだし」

「そ、そこは学校とか全然関係ないでしょ! 肌が弱いから水着の季節以外はあまり、お手入れ。しないの……!」


「脇は処理してんのにな」

「う、く……。すいませんド変態さん。ホントもう、マジで口、閉じてもらっていいですか……?」


「見せる相手がいないにしろ、せめてはさみで切るくらいしろよ。そのうちパンツ、盛り上がるぞ?」

「盛り上がるかっ!!」


「確かに若干、下の色がやや濃いとこも含めて”上下“で脱色してるわけでもなさそうだった。眼もカラコンじゃないし。それになにより、黄色人種としては色素がかなり薄い。お前の肌の色は、それは化粧じゃねぇよな?」


「……真面目にハーフなのよ、ママがドイツ人なの。私はドイツ語なんかあいさつくらいしか話せないけど」

「ふむ。異人の血の入った瑠璃色の瞳の少女に抵抗なく巫女を任せる……。むしろ結構古い神の可能性もあるか。なら、戦国時代よりも前……。鎌倉か、室町。あるいは平安時代とかか? ……厄介な」



「ところで。あんたとか変態じゃよびずらいンですけど! せめて名前くらい教えてよ。偽名でも良いから」

「そういや名乗ってなかったな。俺はガイトだ」

「雑過ぎない? 偽名にしたってもう少し。……思い切り日本人の顔してるんだし」

「漢字で書ける名字なんだぜ? あとで返すからスマホで調べてみ?」


 そう言いつつ自分もノートPCの隣で、ケーブルに繋いであったスマホを取り上げる。

「せっかく新しくしたのに。誰かさんのせいで、また毎日充電に逆戻りだよ」

「そこはホントだったんだ……」



「ちょっと電話かけるから口開くなよ? 黙ってジュース飲んでろ」


 と言いつつ、電話をスピーカーに切り換えて呼び出し音が鳴る。


『信仰文化研究者中央評議会、本部事務局です』

「外局の請負でガイトというものです、監査部調査課のオオヌサさんはいらっしゃいますか?」

『オオヌサですね? ……はい。所内におるようです。お繋ぎいたしますのでお待ちください』


 ごく普通に保留の音楽が鳴り響くこと、約30秒。


『はい。デンワ変わりました、オオヌサです』

 ガイトよりも多少上、と聞こえる明るい中年男性の声。

「お世話になります、オオヌサさん。ガイトです」


『そろそろかかってくると思った。隠ぺい工作も楽じゃないんで、積極的に連絡くれると助かるんだけどねぇ?』

「ごめん、都合があって電話できなかった」


『いつかみたいに料金未払いで止まったんじゃないの? その辺、マジで頼むよ? 僕としては課長にも、ガイトを全面的に推してるんだからさ。……で、使った車と国道のNシスは勝手に手を回したけど、良かったよね?』

「Nは文句言わない。でも車は、今日のうちにもっかいつかうんだが。まぁ良いや。じゃ、別のヤツ用意してくれ。――ところで、ただの狐憑きの案件じゃなかったっけ? あのさぁ、オオヌサさん。毎回毎回、言いたかないけど……」


 PCの画面を見ながら文句を言うのだが。


『言いたいことは理解するけど、古代の土着神が降りてる可能性もある。とはきちんと電話で断ったはずだし、添付資料にも載ってるよね?』

「資料? ※の9番、ファイルの一番下に一回り小さな字で書いてあるからかえって警戒してたんだよ。絶対重要な事項の書き方じゃないよね? 隠そうとしてんじゃん、これ」


『そう言う意図はないんだよ、それ。印刷すると一枚に収まらなくなっちゃってさ、一行だけはみ出すともったいないでしょ? だからそこだけフォントを縮めたのよ』

「なんでアンタは無駄なとこだけセコイんだよ。お役所だって資料の見え方くらい気にするだろ……」


『僕みたいな事務屋はね? 意図して地球にやさしくしようとしないと、その辺が雑になるんだよ」

「地球より先に下請けおれにやさしくしてくれっての……」


『それはもちろん。いつだってガイトには優しいじゃないか。――どうやらこの案件、調べてみたら結構裏が深そうでね。このまま継続して受けてくれるんだろうし、だったら報酬は安心してくれ。――なんて。それはそれとして、ガイト。僕の方で抑えきれない案件が一つ』


「はぁ? オオヌサさんが抑えきれない? ……どこの組織だ?」

 ガイトが知る限り、電話の主が抑えきれない組織など、少なくても日本には政府そのもの以外、ないはずだった。


『組織とすれば瞿麦なでしこ女子高。現在17:24、今でもキミが保護したウキシマホールディングス、元の浮島運輸倉庫のご令嬢を廃倉庫で探しているよ。三〇分以内でいつもの駐車場にミニバンを用意する、女子高生”達“の処遇は完全に任せるんだが、できれば全員、生きたまま回収して欲しい。Nシスとオンラインの防犯カメラはこっちで潰すから無視して良い』

「女子高生”達“? 対象は複数ってことか? 敵、ではないんだよな?」


『説明が楽で助かるよ。限定条件付き敵対勢力って感じかな。――課長が超勤になるって騒いでるから今日はこれで。連絡があったら明日8:45以降にね』


「条件の付く敵対勢力ってなんだよ! それに始業は八時半だったろ、なんだよその15分!」

『明日は監査部で全体朝礼があるんだってさ。リモートだけど部長の訓示があるんだよ。だから45分以降で宜しく。んじゃまた』


 電話はごく普通に切れた。

 ――はぁ。ガイトはため息を一つ付いてスマホをテーブルの上に戻す。

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