拉致された少女

「やぁ、おはよう。……思ったより寝てたがそんなに疲れてんのか? 高校生。夜更かしなんかしないで、若いうちから早寝早起きを徹底した方が良いぞ」


 彼女が目を覚ますと、ベッドとテーブルしかない小さな部屋。



「コレからいろいろ話をしようと思うが、大声は上げるなよ?」


 さっきの男が、テーブルについてノートパソコンをいじっている。


「なにしろこのアパート、壁も床も薄くてさ。隣のチャイムに反応して玄関のドアを開けて、上のスマホの着信に気が付く。といった具合なんでね」


 彼女は、友人の部屋がまるで同じ間取り、どころか家具の形状や配置まで同じなのに気が付く。

 月契約の家具付き賃貸アパートである。


「全国的に全部直した、ってHPに書いてあったわ」

「工事の理由が耐火だし、だったら火事には強くなったんじゃねぇの? 防音と耐火って、工事でやること結構似てるらしい。この部屋の防音力は、さして上がんなかったようだが」

 

 


「で、……拉致されたの? 私」

「狭義ではそうなる。俺として放っておきたかったんだが、いくらガキとは言え。女を地べたに寝せておくのは趣味じゃないんでね。保護せざるを得なかった」


 ――作務衣の連中も気に喰わなかったしな。

 男はノートのフタをパタンと閉めて彼女に向き直る。


「もう一度言う、デカい声は出すな。……騒ぐようならもう一度締め堕としたうえで、今度はセンター街に捨ててくるからな?」


 ――都心は駐車場が高いしさ。なにかと面倒くさいから静かにしててくれ。

 彼はそう言いつつ部屋の外へと向かい、キッチンのついた廊下に置かれた冷蔵庫からスポーツドリンクのボトルを2本出して、一本を彼女の目の前に置く。


「……!」


 その時点で彼女は、自身が手足を拘束されていることに初めて気が付いた。

 彼はもう一本のふたを開け一口、口に含むとボトルをテーブルの上、ノートPCの横に置く。

 

「そういうのも技術でね。長めの結束バンドが三本もあれば、拘束自体はたやすい。ムリに動かなきゃ跡なんか残らんから安心しろ」

「何の技術に精通してるのよ! もしかして、その、へ……、変態なの?」

「アホ抜かせ。ジャンルはともかく、フリーのエージェントだ! ……とまぁ、ここまではいつもの話だが」



「いつも、って。……暴行、未成年者略取に監禁、立派な犯罪よね?」

「凶器準備集合、銃刀法違反、並びに殺人未遂。俺とおまえ、どっちの罪が重いと思う? ちなみにあの場での俺の行為は全部、正当防衛の範囲内だからな?」


「現状はどうなのよ?」

「もちろん、法に照らせば俺は有罪ギルティ。暴行と監禁だ、現行犯なら逮捕状はいらんな」


 彼は少女の前にしゃがみ込むと、床に置いたボトルを開け。どこから出したのか、冗談グッズの様なやたら長いストローを飲み口に入れて、先端を彼女の口元へと持っていく。



「余裕がある理由はわかってる。”オトモダチ“が駆けつけてくることになってるんだよな?」

「急に何の話を……」


「ブラの右のカップやや上。そしてパンティのクロッチ部分上部。場所的に着用者が気が付かないわけがない。……おまえこそどこの国のスパイだよ。そんなところに発信器を付けた女子高生がどこにいる?」

 

 彼女は、やっとドリンクが口元まであがってきた長いストローを吹き出す。


「み、見たの……?」

「オトモダチは今頃、臨海地区の廃倉庫の中を探してるだろうな。発信器だってそうそう簡単には見つかるまいが」

 

 彼はそう言いながら、彼女が吹き出してしまったストローを再度咥えさせ、自分はテーブルへと戻る。


「仕事柄仕方がない、というのはあるんで多少は勘弁してくれ。サブのサブとは言え、簡単に隠れ家やさが割れちゃ困る。ここに連れてくるなら、その前に色々クリーンにしとかないとな」

 

 彼自身もボトルを傾け、もう一度ドリンクを口に含む。



「それに発信器もそうだが、処女かどうか。これはどうしても確認しなきゃならんし」

「見てわかるかっ!!」


 彼女はストローを吸うのをやめて叫ぶが、今度はストローは口から離さない。


「普通にわかるぞ。仮に膜が無くても俺が見ればわかる」


「なんでわかるのよ変態!」

「処女じゃない、ってだけでへそを曲げる狭量な神様もいるからさ。その辺は大事なんだよ」


「んー。ちょっと待って。……今までの話をもう一度整理させて」

「ん? なんだ?」

「というか。……見ないと。わかんない、んだよね? その、下着の、なか。……も」

「そういう意味では体中くまなく、見せてもらった。特に女は色々仕込む場所が多くて、意識があると厄介だしな」


「痴漢と淫行も追加じゃない、この変態……!」

「今回に関しては医療行為に限りなく近い。強制わいせつは微妙だが、断じて性行為はしてないから淫行も強制性交も成立しない。それに多少興奮したことは認めるが、基本的にはガキの裸、しかも手入れもせずにぼうぼうの下半身なんてものには、ほぼ興味はわかない」

「ぼ、ぼうぼうって……」


「せっかく髪とお揃いなんて、まぁまぁの希少価値があるんだから、せめてきちんと手入れくらいしろ。」

「な! お、おそろ、い……?」

「同じ色だろ? 髪の毛と」

「それ、は。……ホントに、ホントのホントに、見たのね? ……この、変質者っ!」


「だから見た、つったろ。そのうえで。最低D85、尻周りも80を超えなきゃ、俺の興味の対象外だ。だいたい、ブラジャーのカップをなんだと思ってる。くだらん詐称をするな。浮いたところを男子に見せつける作戦か?」


「詐称なんかしてない! 脱がしただけで無くて着せたんでしょ! だったら今のこれでジャストサイズだってわかるよね!? それに、なんで見るだけでなく触ったくせに偉そうなのよ! 痴漢の被害者だよ!? 私!!」


 ――ガシガシ! 拘束されたベッドがぐらぐらと揺れた。

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