第4話

 彼女との待ち合わせ場所は横断歩道を挟んだ先にある神社に向かう参道の前であり、どうやら彼女が先に到着していたようだ。振袖ではなく、洋服で待っていた。格好にこだわりはないけど、それはそれでアリ。普段見慣れたものでなく、今日のために用意したとも言えるものだったから、可愛げがあって泣けてくる。

 新年の挨拶とともにその姿を褒めたかったから、走っていた。横断歩道の信号が青になると同時に駆け出した。

 しかし突然、車に飛ばされた。

 車道の信号は赤なのに、ブレーキかけず、ぶつけられた。

 その接触のせいで辺りが暗くなった。

 そして次に目を開けたとき、俺は道路に横たわっていた。

 瞬きはできたけど、声を上げられなかった。体を動かせず、首を動かせず、俺を轢いた車がどこに行ったのか見ることもできない。

 見えるのは彼女が待っている方向だけ。後ろで周りが騒いでいることは分かるけど、何をしているかは見えない。

 その状況で気づいたのか、彼女はスマホから目を離し、こっちを見てきた。

 事故に遭った俺に気づき、心配して近づいてくるのかと思えば、実際は違く、後ろから軽く抱擁された男の方を振り向いていた。俺に目を合わせたわけではなかった。途中差し掛かった際に見ただけであり、俺がここにいることに気づいてすらもいない様子だった。

「きっさんは、いったい、だれっだあああああああああああああ」

 俺を差し置き、仲良く笑いあう姿を目にしたことで叫ぶことができた。驚愕な事実で怒りを覚えたおかげか、今までできなかったことがウソのようだ。体を起こして、2人の傍まで駆け寄ることはできなかったけど、問い質そうと声を張り上げることはできた。

 しかし答えを聞く前に状況が大きく変わった。

 辺りが急に明るくなり、それどころではなかった。辛うじて輪郭が分かる程度であり、人だったり風景だったり、はっきりと周りを見られなくなった。

 血管が切れたせいで目がおかしくなったのか。ただでさえ混乱しているのにさらにややこしくなった。

「俺、死ぬんだな」

 そう悟った。もう、どうにでもなれと思った。どうにもできないから。

 そう諦めると、目の前に女性らしき人影が現れた。

 長髪だから女性と決めつけているだけ。性別は判別できない。

 少なくとも彼女ではないことは確か。

 だって彼女は長髪じゃないから。

 肩に届くか届かない程度の長さだから、似ても似つかない。腰に届くかもしれないというほどの長さだから全然違う。俺を待っていたときに見かけた姿、正確に言えば、誰だか分からない男を待っていたんだろうけど、ともかく、そのときに見た姿とは異なっていたから、間違いない。

 それならば、一体誰なのか。

 さっきの叫びで喉が潰れたのか、問うことができなかった。考えを巡らすことしかできない。

 もしかすると女神だったりするのか。

 事故に巻き込まれると、異世界転生だったり、異世界転移だったりに発展する流れもあるから、そういうことなのか。不幸な最期を遂げた俺を憐れんで、新しき世界に導こうとしているのか。 

 それならば、いざ行かん、新しき世界へ。

 彼女に振られた世界に未練もない。新たな場所で人生を一から始めてやる。

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