第3話
そして住んでいるアパートの駐輪場から自転車を引っ張り出し、駅まで漕いで、電車に乗った。
総武線に、東京メトロ日比谷線に、東京メトロ千代田線に、乗りに乗り継ぎ、1時間30分近くかけて、最寄り駅に到着した。
さらにそれから10分ほど歩き、ようやく目的地が見えてきた。
普段、特に総武線は相変わらずの混み具合だった。平日朝は人が多いが、休日である今日もいつもと同じくらいの数だった。正午過ぎの電車に乗っているというのに数は負けていなかった。ギュウギュウ詰めではないにしても、それなり多かった。
やっぱり、みんなも俺と考えることは同じだったんだろう。
特に信仰深くなくとも神社に参拝する。正月というイベントに託けて、外に出かける。ガラにもなく、神様に願いを叶えてもらうべく、その場所に行く。
家族・親戚が集まり、新年の挨拶をしたり、おせち食べたり、お年玉もらったり、などで過ごす人ばかりではない、ということだ。
かくいう俺もその1人。年末年始、彼女と過ごしたいから、帰省するのを止めて、こっちにいる。親にガミガミ言われても無視して、選んだ。1日にも満たない時間のために、洗濯・炊事・掃除などをせずに済む、実家でのんびりと過ごす時間を捨てても。
そのことに頷いてくれた彼女も含めれば、2人になるわけだ。2人とも家族より恋人を優先したことになる。家族と過ごす時間を取らなかったわけだから、そういうことになる。
正確に言えば、彼女は微妙に違うけど。
彼女の実家は東京にある。
彼女はデートの時間だけ抜け出しているだけである。その時間帯だけ、優先してくれているんだろうけど、無駄を最小限に留めている。兼ね合いを上手くやっている。
彼女をずるいと言うつもりはなく、それに比べてより多くの時間をかけているから俺は偉いと言うつもりもない。
ただ帰ろうと思えば、帰れる距離である、と言いたいだけである。
その割には年末夜遅くまで過ごさなかったわけだが、それは遠いから。アパートに帰り着くのが遅くなるし、電車が止まれば、帰れなくなる。バカ高いタクシー料金を支払う金もない。
彼女と一緒にホテルで一夜過ごすのも手だったが、彼女がそれを許してくれなかった。家族に心配をかけたくない体裁で断られた。夜道を1人で歩き、危険な目に遭うことを不安視する家族の気持ちを汲んで拒まれた。
未成年とはいえ、選挙権を持っているから、ほぼ大人みたいな年頃だから、少々干渉されすぎなような気もしたが、無理強いしなかった。
決して繋がりたい下心を持っているわけじゃないし、そういうことを暗に強要していないことを示すためにも推さなかった。
逸る気持ちはなかったと偽らないが、酩酊に追い込み、抵抗されつつも、無理矢理密室に連れ込む姿をフロント係に見せてまで行う気概はなかった。
時間が経ち過ぎて、証拠不十分・真偽不明瞭とも言える段階になってから、声高に被害者意識で執拗に一方的に相手を悪者に仕立て上げて訴えてくる真似事を起こさせる行為にも及んでいない。
大物でも有名人でも権力者でもないから、いざとなれば、逃げ隠れしやすい部類だけど、相手の気持ちを無視して、そんなことは決してしない。互いに確かめ合った上でしか、やらない。
そんなわけだから、彼女とは年末夜遅くまで一緒に過ごしていない。都内に行くだけでもこんなに遠いから。
その代わりに初詣デートというわけだ。金稼ぎが悪い学生にとって、運賃に優しい時間帯で楽しむつもり。この後、別の場所にも行くから、財布の紐は緩みに緩みまくることになるけど、それは時間帯関係ないことだから、敢えて考慮しない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます