第5話 時渡りの秘術
賢しいな、その事に気づいたか
ヤマタノオロチは嫣然と笑ってみせた。
だが、今さらそれに気づいたとてうぬらには何もできまい
再び八首の大蛇が、抵抗することもできないイクサビトたちを喰らっていく。
実際には皆、刃で斬りつけ、矢を射り、あるいは呪符を投げて必死の反撃を行っているのだが、魔神王の体には文字どおり傷一つつけることができないのだ。
「いいえ。時渡りの秘術をもってすればイクサビトの皆さまを魔神が現れる前の天ツ国に送る事ができるのです。これまでの抵抗はその秘術を完成させるまでの時間稼ぎ。今達せられました」
ククリ姫、いやキッカの放つ光はさらに強まり、もはや目を開けていられないほどの輝きだ。
しかし、魔神王はおぞましい漆黒の妖気を体から噴き出して妨害をはかってきた。
そうなる前に貴様ら全て喰ろうてくれるわ
「か、体が崩れ……」
黒い妖気に包まれたイクサビトは、次々と体が炭のように黒化して崩れ落ちていく。
このままでは過去に渡る前に全滅してしまうのではないかと思われたが、時渡りの秘術の方が完成が早かったようだ。
黄金の光に包まれたイクサビトの姿が、次々とこの場からかき消えていく。
俺の体も眩い光に包まれた。
「キッカ、お前も早く……!」
「ごめんなさい、ショウヤ。この秘術は自分には使えないの」
……え。
自分には使えない?
俺の頭は真っ白になった。
「何を言ってるんだキッカ……?そんな……いきなり……」
「ごめんなさい。皆さんに伝えたらきっと反対されてしまうと思って秘密にしていたの。……でも、本当のことを言えばショウヤ、あなたにだけは生きてほしかった、だからこの秘術に頼ることにした」
下半身が光に包まれ、この世界から俺という存在が消えていくことが感じられる。
待ってくれ!
俺はまだ伝えたいことをまったく伝えきれてないんだ……!
「何を言ってるんだよ、キッカ。俺はお前のためにイクサビトになったんだぞ!お前が生きられないなら俺は、俺は……!」
キッカに伸ばした俺の手も光に包まれ消えていく。
くそ、なんでこんなことになるんだ。
そうだよ、キッカの性格を考えれば、こういう選択をするのはわかりきっていたことじゃないか。
自分よりも他人が傷つき苦しむことを何よりも嫌い、自分が犠牲になることで他人が助かるのであれば、喜んで自分の身を捧げるヤツなんだ。
なんでこんな当たり前の事に俺は気づけなかったんだ。
「ショウヤ、生きて!!!!」
キッカは涙で潤んだ瞳で、光に溶けて消えていく俺の顔を最後まで見つめ続けていた。
そして完全に光に包まれ俺は世界から消えた。
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