第4話 魔神王

声。

いや、意思とでもいうのであろうか。

この場に居合わせた全ての者の脳裏に響く言葉。

そしてソレは俺たちの前にいた。

風にたなびく長く艶やかな黒髪の臈たけた美女。

しかしその身体の後ろには、巨大な八首の大蛇が生えている異形の存在。


「ヤマタノオロチ……!」


その声が早いか、構える隙も与えずに八つの大蛇が一斉にイクサビトたちの体に喰らいつく。


「うわぁぁぁぁあぁ!」


歴戦の抗うこともできずに次々と大蛇の頭に貪り喰われ、飲み込まれていく。

悪夢のようなこの光景を俺たちは何度も見せられてきた。

そうこの化け物こそが、天ツ国を滅ぼす存在魔神王ヤマタノオロチだ。



脆弱よな、人間ども



魔神王はその顔に壮絶な笑みを浮かべて、再び思念のような声を発する。



うぬらがいくら抗おうと結果は同じ これよ



絶対的な力を見せつけ、イクサビトを嬲り殺しにしていく絶対の王。

しかしここで思いがけない人物が言葉を発した。


「いいえ、その逆です」


なんとククリ姫が魔神王のほうに歩き出したのだ。


「巫女姫さま!」


「危のうございます、お下がりを!」


慌ててイクサビトたちが彼女の前に飛び出しかばおうとするとが、ククリ姫はそれを手で制すると魔神王の前に進み出る。


小娘、確か巫女姫とやらだったか……その細腕で何ができるというのだ


「私にできることは限られます。しかし、イクサビトの皆さまならば可能性があるのです」


ククリ姫の体から黄金に輝く光が放たれる。

温かくやさしいあのイクサビトになる時に与えられた加護と同じ光。

ただ事ならぬ事態に思わず俺は声を上げた。


「何をするつもりなんだ、キッカ!」


「ショウヤ……黙って貴方も巻き込んでしまうことを許してください。今から皆様を過去に送り届けます」


「過去だって!?」


「私たちが魔神に敗北した理由は、覚醒が遅らされたためとお告げがありました。理由は分かりませんが、私たちの力は魔神が現れると同時に目覚めるはずだったのです。しかしそれが何者かの力によって阻まれてしまった……。このため魔神の侵攻に対して大きな後れをとることになったのです」


確かに歴史では、魔神が天ツ国に現れてからしばらくして巫女姫が誕生したと記されている。


「この遅れが致命的でした。私たちは魔神に対する備えが遅れ魔神の跳梁を許してしまった。彼らの討伐がもっと早くできれば、魔神たちはこれほどの力をもつことはなかったのです」

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