第22話 悪役騎士団長、オークエンペラーを倒す






 オークキングを仕留めたと思ったら、いきなりエンペラーに進化した件。


 なんて考えてる場合じゃない!!



「ぬおおおおおおおおおおッ!!!!」



 俺は大円盾でオークエンペラーの連撃ラッシュをどうにか防ぎながら、心の中で絶叫していた。


 死ぬ!! 流石に死ぬって!!


 オークエンペラーの拳打を盾で受け止める瞬間、足腰の動きで受け流したり、膝を使って地面に衝撃を逃がしたりする。


 シエルの作った力のポーションでドーピングしてなかったら、普通に死んでたと思う。


 身体能力が爆上がりしている今の状態でも防御に精一杯なのだ。

 反撃するチャンスを先程から窺っているが、オークは連打を止めない。


 このままだと俺はともかく、盾の耐久力が限界を迎えてしまう。



「死ねェッ!! おでの子分たちの仇だッ!!」


「ぐっ、ぬぐおっ!?」



 オークたちを殺されたエンペラーは、マジギレしているようだった。


 まあ、そこは仕方ない。


 誰だって部下を殺されたら相手が憎いし、殺してやりたいと思う。


 しかし、怒りに身を任せた戦い方は、本来なら隙を生みやすいものだ。

 でも今のエンペラーはその圧倒的な身体能力に任せて隙を与えない超高速攻撃をしている。


 根本的に身体能力が人間と違うからできる、敵の反撃を許さない戦い方だ。



「くっ、このままでは……ッ!!」



 サクナはオークジェネラルと楽しそうに斬り合いしてるし、他の士兵団もオークたちの相手に手一杯の様子。


 このままじゃ押し切られる!!


 一旦後退してコットルク村に張った結界の中に逃げ込むべきか……。


 いや、今のオークエンペラーなら、あの程度の結界を破壊するのは容易だろう。


 ここで確実に仕留めねばならない。


 多少の大怪我は許容し、自滅覚悟でオークエンペラーを倒すため、一歩前に踏み出そうとした、その時だった。



「っ、この気配は!!」



 コットルク村、シエルのいるやぐらで何か悍ましい気配を放つ何かが顕現した。


 ちらりとシエルの方に視線を向ける。


 櫓の上にはシエルと見知らぬ女が立っており、何かを話していた。



「あれは……」



 いや、まさか。


 あのキャラクターがこの場にいることなど、絶対に有り得ない。


 原作者として断言できる。


 しかし、あの虹色に輝く長い髪は、間違いなく俺の知っている人物のものだ。



「余所見すんでねえッ!!」


「ぐっ」



 俺がシエルの方に意識を割いた瞬間、オークエンペラーが強烈な一撃を放った。


 体重を乗せたその拳を、俺は上手く逸らすことに失敗し、じんじんと腕が痺れてしまう。


 あ、やべ。完全にしくじったわ。


 エンペラーの渾身の一撃を受け流し損ねたせいで腕が痺れてしまい、次の拳を防ぐことは出来そうになかった。


 仮に鎧だけで受け止めようものなら、全身の骨が粉々になることは確定だ。


 結論、俺の生命はここで終わる。


 せめて痛みを感じる間もなく死ねるよう祈りながら、俺は目を閉じた。


 シエルの顔が思い浮かぶ。


 可能なら、もう少しあの子の生きる様を近くで見守っていたかった。


 俺が死んだら、あの子はどうなるのだろうか。


 コットルク村から逃げ出して、ハンデルの街に戻ってもふ丸やレイと原作通りにポーションを売るのだろうか。


 やっぱりもう少し見たかったな……。


 でも、ああ、ダメだ。エンペラーはおそらく、この場にいる人間を誰も生かして返さない。


 いや、女の子なら苗床として子を生めなくなるまで食われることは無いだろうが、役割が済めば用無しの食料だ。


 どのみち生きてハンデルの街に戻ることは無い。



「それはッ!! 許容できないよなあッ!!」



 どうせ死ぬならば、タダでは死なない。


 オークエンペラーの首は、この命が尽きても必ず刈り獲る。

 エンペラーという統率者が死ねば、オークは烏合の衆と化すはずだ。


 そこに勝機がある。


 サクナは直にオークジェネラルを倒すだろうし、そうなったら俺たちの勝利は揺るがない。


 だからこそ、確実にエンペラーの首を獲る!!


 俺が諦観から閉じていた目をカッと見開いた、その時。



「……あ?」


「……え?」



 誰もが手を止めた。


 俺もエンペラーも、サクナさえも今はジェネラルの首を獲るのを止めて上を見上げた。


 シエルがいるコットルク村の櫓の方。


 まるで太陽の如き眩い光が、天から地上に降り注いだのだ。


 というか、俺の方に来てない!?



「こ、これはッ!!」



 その光が俺に当たって弾けた瞬間、俺の全身を包み込むように黄金の光がまとわりついて身体が羽毛のように軽くなった。


 鎧が白いこともあってか、全身金ピカだ。


 そして、鎧や盾の重みが、戦いの疲労感が、怪我の痛みが消えている。


 肉体が凄まじい速度で回復してしまったのだ。


 これは俺の肉体の治癒能力や疲労回復能力が極限まで強化されたからだろう。


 俺はすぐに先程の光の正体を悟った。


 これはシエルが持っている真の勇者の力。そう、強化魔法である。


 しかも、シエルがポーションを作る際に無意識に使っていた強化魔法とは効力が桁違いの、ガチの強化魔法だった。


 でも、何故シエルがこの魔法を使えるようになったのかが分からない。

 シエルが強化魔法を自在に使えるようになるのは、もっとずっと先の未来のはずだ。


 もしかしたら『あのキャラ』がシエルに何かした可能性もあるが……。


 あとでシエルに話を聞く必要があるだろう。



「でも今はとにかく――ぬんっ!!」


「!?」



 俺はオークエンペラーに向かって、全力の一突きを放った。


 さっきとは速度が違う。


 力のポーションとシエルの強化魔法。

 その二つが合わさって、全身から信じられないくらい力が溢れてくる。


 その結果……。



「……ふぁ?」



 ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!!!


 と、いきなりビームが出た。


 槍の穂先から凄まじい熱量の光線を放たれて、オークエンペラーの左半身を消滅させたのだ。


 完全に致命傷である。



「ごふっ、こ、これ、は……。宝具、だど?」


「……そういうことか」



 エンペラーの小さな呟きを聞いて、俺はある仮説を立てた。


 シエルの強化魔法は生物以外にも効果がある。

 ポーションの材料となる魔力水にも微弱な強化魔法がかかってるからな。


 もしかすると、シエルの強化魔法の効果が俺の槍型宝具にも働いたのかも知れない。


 俺の扱うデウラギール伯爵家に代々伝わる槍は、大昔にダンジョンから産出した宝具だ。

 しかし、とうに故障しており、本来の機能が使えなかった。


 今やただ頑丈なだけの槍だったが……。


 シエルの強化魔法で一時的に本来の機能を取り戻したのだろう。


 無生物にも強化魔法を施せることは知っていたが、まさか故障した宝具を使えるようにするとは想像もしていなかった。



「……おでは、ここまで、か……」


「……そのようだ」


「ぐうっ」



 エンペラーが前のめりに倒れる。しかし、まだ辛うじて息があった。


 ……確実に仕留めねば。



「何か言い残すことは?」


「……ねー」


「そうか」



 俺はエンペラーの頭に槍を突き立てた。


 奇跡的に勝った。

 シエルが強化魔法をかけてくれたお陰で大した怪我も無い。


 強いて言うなら凄まじい倦怠感はあるが、強化魔法が解除された影響だろう。


 しばらくはこの状態が続きそうだ。



「む、ラース殿。拙者がジェネラルと戦ってる間にキングを討ち取ったのか」



 全身を返り血で真っ赤にしたサクナが満面の笑みで話しかけてくる。


 どうやらあちらも決着したようだ。



「ああ。だが、まだ終わりではない」


「うむ、心得ているとも。残りのオーク共の首は拙者が貰う」


「……競うつもりはないが、また怪我をしないようにな」



 そう言うと、サクナがポッと顔を赤らめた。



「う、うむ。貴殿に心配はさせぬとも」


「ならば安心だ」


「で、ではな!!」



 サクナがオークたちに向かって突撃する。


 俺も遅れて戦いに参加したが、今度は槍からビームが出ることはなかった。


 シエルの強化魔法の効果がすでに切れているからだろうか。


 数十分後。

 私兵団側にも死傷者は出たが、オークたちの軍勢を包囲、全滅させることに成功した。


 こちらの圧勝である。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントラースの槍設定まとめ

ラースの実家、デウラギール伯爵家が代々受け継ぐ宝具。すでに故障しているため、ただの頑丈な槍扱いとなっていた。現在は借りパク状態。返しに行く予定は無い。シエルの強化魔法でビームを撃てるようになる。


「ビームを撃てる槍は果たして槍なのか」「サクナがチョロインしてて草」「借りパクは許さん」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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