第21話 悪役騎士団長、フラグを立てる
オークたちの集落を襲撃し、戦力を少しずつ削ぐ作戦は成功した。
最初は150体以上いたオークたちも、今や三割ほど数を減らして120体程度に。
このまま敵方の戦力を削れるところまで削っておきたいな。
「と、思ったのだがな……」
「攻められるばかりでは勝てぬと悟り、逆に攻めてくるのは道理であろうよ。拙者が敵の大将でもそうする」
「どうしてお二人共そんなに落ち着いてるんですかぁ!! 村がオークたちに囲まれてるんですよぉ!!」
「シエル嬢、慌てる必要は無い。コットルク村を囲む防壁は木材だが、私兵団には結界魔法の使い手もいてな。防御力に関しては要塞並みだ」
俺はシエルやサクナと共にコットルク村の
村を取り囲むのは数十体のオークの軍勢。
オークたちは結界魔法を破れないために村を攻めあぐねているが、それはこちらにも言えることだった。
「ふーむ、矢を射掛けても大して数は減らせんなあ」
サクナが唇を尖らせて言う。
私兵団はサクナの指示で、村に張った結界の内側から矢を放っている。
しかし、オークたちに被害は皆無だった。
「オークの皮膚は分厚いからな。矢が刺さっても大したダメージにはならん」
稀に目や金的に矢がヒットして悶絶しているオークもいたが、仕留め切れてはいない。
むしろ怒らせて結界への攻撃が苛烈さを増すだけだった。
「さて、これからどうするべきか。やはり気になるのは……」
「ジェネラル一体の不在、だな。拙者が見かけた奴がおらん」
「……オークの顔が判別できるのか?」
「む? ああ、割と人の顔を覚えるのが得意でな。こう、顔の皺の数や輪郭をよく見ると違うぞ」
驚いた。
オークの顔を判別できることにも驚いたが、何よりサクナがオークを人として見ていることに驚いた。
いや、魔物と言っても人と同じように言葉を発する以上、そういう考え方があるのは不思議ではないのだが……。
彼らを人として見ている割には何の躊躇なく斬るんだよな、サクナって。
そこが怖いよ。
……冷静に考えてみたら、俺はそういう設定を意図して練っていない。
しかし、たしかにサクナに関しては『魔物も人として扱った上で斬る』描写を書いた気がする。
ということは、この世界は俺の練った設定よりも、実際に書いた物語を元に動いている?
謎は深まるばかりだな。
っと、いかんいかん。
また考え事に耽って目の前の問題から目を逸らしてしまった。
俺の悪癖だな。
「今はとにかく、村を囲むオークをどうにかせねばな。俺が突撃して注意を引く。サクナ殿はキングを頼む」
「む、大物を拙者が貰っても良いのか?」
「先日のリベンジをしたいと顔に書いてある」
「カカカ!! ならば任されよ。拙者の絶技を以って首級を上げて見せようぞ!!」
サクナが鞘から刀を抜き、俺も盾と槍を両手に握った。
「え!? お二人共、あの群れに突っ込む気ですか!?」
「「うむ」」
「う、うぅ、だったらこれ!! 持って行ってください!!」
シエルが手渡してきたのは、ポーションが詰まったポーチだった。
小瓶に特殊な加工が施されており、蓋を触れば指の感触で中身が分かるようになっていた。
「これは……治癒ポーションと、スタミナポーション。それから、これはなんだ?」
「力のポーションです!! この辺りに生えている植物を使って作りました!! 初めて作ったので効果に自信はないですけど……気休めにはなると思います!!」
「……そうか。流石はシエルだ」
力のポーション、か。
俺は原作では登場しなかったポーションの誕生に驚愕する。
原作のシエルが売ってたのは治癒のポーションやスタミナポーションだし、戦闘で使っていたのは毒ポーションや爆発ポーションだ。
力のポーション。
おそらくは筋力を強化するポーションだろうが、シエルの無意識強化魔法で効果も数倍になっているはず。
さて、効果は如何ほどか!!
「んぐっ」
俺は力のポーションを一気に飲み干した。
しかし、これと言って、あまり身体に変化は見られな――う゛っ。
「な、なんだ、これは!! 力が、み、漲るぞ!!」
初めての感覚だ。
今までも治癒のポーションに含まれていたであろう強化魔法で身体が軽くなる感覚があったが、今回は違う。
俺の内側で凄まじいエネルギーが暴れ回っている感じがする。
「サクナ殿!! 俺も前に出るぞ!!」
「ほう!! では獲った首の数を競おうではないか!!」
俺とサクナは同時に櫓から飛び降りた。
そのまま結界の外側で着地し、槍の穂先をオークたちに向かって叫ぶ。
戦う前の口上は大事だからな!!
「俺の名はラース!! 貴様らのお命、我が槍を以って頂戴する!!」
「我が名はサクナ!! 我が銀桜流の刀技、見せてやろう!!」
俺とサクナが同時に名を名乗り、オークたちに肉薄する。
ここ数日に及ぶ夜襲で俺たちの顔を覚えていたのか、オークたちが殺気を放つ。
「あのニンゲン共ダッ!! 殺セッ!!」
「アイツ、食ウッ!!」
「死ネッ!!」
向かってくるオークたちに対し、俺は槍を力任せに振り回した。
今更だが、ラースの身体能力はかなり人間離れしている。
具体的に言うと、ラースは死の山脈に棲むギガンテス等の超大型の魔物の全力攻撃を盾で受け止めることができる。
そんなラースが力のポーションなるものを飲み、全力で槍を振るったら?
「「「ぐおおおおおおおおおおッ!!!!」」」
アンサー。ただの風圧で敵が吹っ飛ぶ。
しかし、吹っ飛ばした程度では敵を仕留めるに到らない。
そこにトドメを刺したのは――
「――
サクナだった。
彼女が刀を振るうと、宙を舞って身動きの取らないオークたちを真っ二つに寸断してしまう。
お、おお、凶悪コンボだ。
俺の攻撃で空中に投げ出され、回避できなくなったところをサクナの斬撃で滅多斬りにされる凶悪コンボ。
強い、強いぞ!!
「ぬぅん!! どうした、オーク共!! 我らを食うのではなかったのか!! 殺すのではなかったのか!!」
「図に乗るナ!! 人間の分際デ――が!?」
オークジェネラルが何やら長々と喋り始めそうだったので、その前に喉元へ槍を突き刺した。
そのままジェネラルを持ち上げて、振り回し、地面に叩きつける。
何百キロとあるジェネラルをぶん投げるとか、本格的に今の俺は人間離れしてるな……。
「来い!! オイ、どうして逃げる!! 仲間を殺した俺が憎くないのか!? 仇を討とうとは思わぬか!!」
ジェネラルを瞬殺したせいか、オークたちが俺を見て逃げ始めた。
すると、逃げ惑うオークたちの中から一際身体の大きなオークが前に出てくる。
ジェネラルよりも更にデカイ。
何かの大きな骨を削って作ったような棍棒を片手で軽々と振り回している。
間違いない、こいつが……。
「キングか!!」
オークたちの王。オークキング。
オークキングは逃げ出すオークたちを尻目に、俺を睨みつける。
仲間たちが逃げるための時間を稼ぐ気だろうか。
「そうだ、おでが王だ。おめーを食って、おではもっと強くなるッ!!」
「ならば相手にとって不足無し!! でぇやぁあああっ!!」
俺は足腰のバネを利用して、槍で一突き。
オークキングは俺の渾身の一撃を片手を犠牲にして受け止めた。
俺の攻撃を封じたオークキングが、ニヤリと笑って棍棒を振り上げる。
大円盾で防御すべきか――否、攻める!!
「ふんぬぅおおおおっ!!」
オークキングの手を貫いた槍を引き戻さず、そのまま突き出す!!
そのオークキングにとって予想外であろう一撃は、奴の喉元に届いた。
「がふっ」
オークキングが、口から大量の血を吐き出す。
勝った!!
「第三部、完!!」
あ、やっべ。つい勢いに任せて言っちゃったけど、これフラグ立てちゃったかも。
次の瞬間、オークが光り輝いた。
魔物がある程度の年月を生きた時、極稀に生じる現象……。
進化である。
――――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイントラース設定
実はフラグ建築士。
「最高にハイッ状態で草」「ほぼワンパンでやられるオークたち可哀想」「負けフラグ立ててどないすんねん笑」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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