終盤で裏切る悪役騎士団長に転生したので真の勇者である追放少女と一緒に偽勇者パーティーを辞めようと思いますっ!〜主人公を近くで見守ってたら、いつの間にかシナリオをぶっ壊してた〜
第20話 悪役騎士団長、考えるのを後にする
第20話 悪役騎士団長、考えるのを後にする
「ふぅ、どうにか撒いたな……」
乱れた呼吸を整えながら、夜の森を歩く。
オークジェネラルが数匹のオークを連れて追撃を仕掛けてきたが、暗闇と森の地形を利用すれば容易に撒くことができる。
ついでに深追いしてきて孤立したオークを一体仕留めた。
俺は合計で三体のオークを仕留めたが、本命のサクナはどれほど敵を始末したのか気になるところだ。
「おお、ラース殿。そちらは無事なようだな」
「む?」
上の方から声が聞こえたかと思えば、木の幹に腰かけるサクナの姿があった。
どうやら俺よりも一足先に集合場所に集まっていたらしい。
お互いに無事で良かっ――
「って、なんだその怪我は!?」
「ああ、これか? オークキングを見かけてな。思わず仕留めようとしたらこのザマよ。まったく、拙者もまだまだ修行が足らんん」
カカカと笑うサクナだが、その姿は今にも死にそうだった。
全身が血で真っ赤に染まっており、腕に至ってまともに動かせないのか、だらんと垂れ下がっている。
ま、まじかよ!!
「い、急いで村に戻るぞ!! シエルのポーションなら治せるはずだ!!」
「いや、問題ない。血はほとんど返り血だし、この程度の複雑骨折など数日も経てば治る。それより次の夜襲はいつ――」
「ド阿呆ぅ!!」
「あだ!? な、何をする!?」
はっ、いけないいけない。
サクナは重傷なのに思わず木の上から降りてきた彼女に全力チョップをしてしまった。
でも俺は悪くない。
片腕が複雑骨折してまともに動かせないのに次の襲撃をいつにするか笑顔で問いかけてくるサクナが悪い。
誰だよ、このバーサーカーの設定を考えた奴。
……俺だよ!!
言い訳すら虚しくなるほどの100%、俺のせいだよ!!
「はぐあっ!? な、なんだ? 急に痛くなってきたぞ」
「アドレナリンが切れたんだろう。とにかく戻るぞ!!」
「ちょ!? お、降ろせ!! これは拙者が恥ずかしい!!」
俺はサクナを両腕で抱えて運ぶ。
盾と槍を背負う必要があるせいでお姫様抱っこの形になってしまったが、事態は急を要する。
「な、何をそこまで焦っているのだ、貴殿は」
「サクナ殿が死にでもしたら、俺が困る。あとかなりショックを受ける」
「なっ……」
ここでサクナが死ぬのは駄目だ。
オークの集落夜襲作戦にはサクナの協力が必須だからな。
何より彼女が死ねば、今後の物語に大きなズレが生じてしまう。
ただでさえ色々と変化があるのだ。
これ以上何か問題が起こったら対処できる自信が無い。
何より作者として!!
自分の考えたキャラクターが目の前で死んだら凄くショックである。
え? 勇者パーティー? あれはほら、あんまり心が痛まないように作ったキャラクターだから大丈夫だよ、うん。
「ま、待て待て!! 拙者、〝そういう〟ことは剣の道を極めてからと決めていて!! そもそも貴殿にはシエル嬢が――」
「舌を噛まないようにな」
「ほわ?」
サクナを抱えて全力で森を駆ける。
木々の合間を縫うように、多少の障害物は体当たりで破壊しながら。
「ちょ、ラース殿ぉ!? もう少し揺れをどうにかッ!?」
サクナが俺に何かを言おうとして、勢い良く舌を噛む。
喋っちゃだめだよ、危ないよ。
時折サクナが舌を噛みながら森を移動すること、およそ数十分。
俺たちはコットルク村に戻ってきた。
「ラースさん!! 大丈夫ですか!?」
慌てて帰ってきた俺たちをシエルが心配した様子で出迎える。
夜食でも作っていたのか、可愛らしいフリルのついたエプロンを着て。
やだ、うちの子ったら。めちゃくちゃ似合ってるじゃない。
「ああ、俺は平気だ。だが……」
「ひゃあ!? サクナさん!? なんで口の周り血塗れになってるんですか!?」
「最初は骨折だけだったのに次第に悪化してしまった。喋るなと言うのに喋るから……」
「らひらいらーひゅひょののへいらぞ(大体ラース殿のせいだぞ)」
舌を噛みすぎてまともに話せなくなってしまったらしいサクナが、何かを必死に伝えてくる。
敵討ちを頼むとかだろうか。
「と、とととにかくポーションを!!」
シエルがポーションの入った小瓶を躊躇いなくサクナの口に突っ込む。
ぐほっ、とサクナがむせるが、お構い無しだ。
「ぶはあっ!! ポーションで溺れ死ぬかと思ったぞ!! ……な、なんと。あれだけ舌を噛んでズタズタだったのに、もう話せるように? しかも腕が一瞬で……」
「シエルの作るポーションは特製でな。お買い求めは大通り沿いにあるもふもふ亭まで」
「ラース殿のせいであれだけ舌を噛んだのにぬけぬけと……」
え? 何? 俺のせい? ちょっと人のせいにしないでよ。
元はと言えばオークキングなんて大物を独断で襲撃したサクナのせいでしょうが。
「……して、ラース殿は幾体仕留めた?」
ひとまずサクナの治療が終わり、俺たちは成果を報告し合う。
シエルが作ったというシチューを受け取って、それを食べながらの報告会だ。
「俺は三体だ。そちらは?」
「ふふん♪ 六体だ!! 拙者の勝ちだな!!」
「別に競っていたわけでは無いが……多いな」
「うむ、調子に乗って『これ、キングの首も
すっかり治った腕をぺしぺし叩きながら、自慢気に言うサクナ。
ついさっきの出来事なのに、よく誇らしげに語れるものだ。
「問題は上位種、だな」
「うむ。拙者の方でハイオークを一体仕留めたが、オークジェネラルは討ち損なった」
「……そっちにもジェネラルがいたのか」
「つまり、ジェネラルが二体ということか。ハイオークは十数体だったし、まだまだ敵方の主力は健在だな」
オークの戦力は原作通りだ。
この調子で少しずつオークの戦力を削りながら、オークたちの体力と精神力を奪う。
作戦に問題は無いはず。
ただ一点。
俺にはどうしても不安を拭い切れない理由が一つあった。
世界の補完力。
俺が練っていない設定を既存の設定と矛盾が無いように調整する謎の力。
それだけが、俺の不安を煽る。
「ラースさん? 大丈夫ですか? やっぱりどこかに怪我でも?」
「ん? ああ、いや。少し考え事をな」
大丈夫だ。大丈夫なはず、だ。
「ラースさん!!」
「ん? なん――むぐっ」
シエルに名前を呼ばれて反応すると、不意に口へスプーンを突っ込まれた。
シチューを飲まされたらしい。
ゴロゴロと入ったジャガイモやニンジンが舌の上で蕩ける。
「……美味しいな」
「ふふっ、やっと笑ってくれました」
「む」
「ずっと難しい顔をしてましたから。今はとにかくシチューを食べてください!! 冷めちゃいます!!」
「……ふっ。そうだな、すまない」
たしかにシチューは冷めたら美味しさが数段落ちてしまう。
俺はシチューが冷める前に、器の中のシチューを全て頬張った。
考えるのは後にしよう。
――――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント作者の一言
作者「もう告っちゃえよ、シエル!!」
シエル「え、ええと、あはは」
「大体犯人がラースじゃん」「サクナがチョロい。チョロくない?」「作者がまともなこと言ってて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます