第19話 悪役騎士団長、逃げるんだよおおお!!



 コットルク村の近くにある森。


 斥候たちの情報によると、この森の奥地にオークが集落を作ったらしい。


 すでに日が沈み、辺りが暗くなった頃。


 俺とサクナは夜闇に紛れながら、オークの集落を目指していた。



「ふふん♪ やはりラース殿は拙者と同類ではないか!!」


「一緒にしないで欲しいが……。まあ、否定はできないな。俺の提案は戦闘狂のそれだ」


「拙者は戦闘狂ではない。貴殿と一緒にするな。拙者はただ強くなるのが好きなだけだ」



 こ、この女……。



「しかし、俺の提案に乗る者がまさかサクナ殿一人とは思わなかった」


「オークの住処に少人数での夜襲を仕掛けて奴らの体力を消耗、あるいは隙を見て暗殺。数を減らして優位に立った後、総力戦を仕掛けて殲滅する。戦略的に見ても良い作戦だ」



 俺の提案したオーク攻略の作戦をサクナが改めて口にする。



「俺としては、理に適った作戦だと思ったのだが」


「拙者もそう思うぞ。油断を許さない状況は、それだけで脅威になる。いつどのタイミングで襲撃してくるか分からなければ、オークたちはただ体力と精神力を消耗するのみ」


「だったら増々分からん。ティアナの私兵たちは尽く反対してきたぞ」



 俺の作戦を提案した時の私兵たちの反応は同じものだった。


 要するに『絶対に嫌』である。



「見誤ったな。連中はそれなりの訓練をしてはいるが、夜間の行軍訓練などしていない。国軍ではなく、所詮は私兵だからな」


「……む、そうか。アズル王国では夜間の行軍訓練は当たり前にやっていたから失念していたな」


「アズル王国!! ラース殿、彼の国の騎士団について知っているのか?」


「ああ、まあな」



 すると、サクナが目をキラキラと輝かせた。



「おお!! 実は一度行ってみたかったのだ。聞けば彼の国の騎士は一人一人が一騎当千の武を誇ると言う!! 是非、戦ってみたい!!」


「……う、うむ、そうか」



 一騎当千と言っても、どいつもこいつも俺との模擬戦で簡単にバテてしまう。

 たまに気骨のある奴もいるが、何故か騎士団を辞めてしまうのだ。


 それも俺が騎士団長になった途端にである。


 前世の記憶を取り戻す前、嫌われてるのかと思ってガチで凹んだことは一度や二度ではない。


 しかし、記憶を取り戻して分かった。



「まあ、なんだ。アズル王国の騎士団はスパルタだからな」



 原因は俺だった。


 俺の、というかラースの考案する訓練がどれもこれもアホみたいにハードなのだ。


 そりゃあ、騎士たちも騎士団やめるよねと。



「ところでシエル嬢はどうしたのだ?」


「後方支援だ。あの子はポーションを作ることができるからな」



 シエルがこっそり付いてきたことは、何も悪いことばかりではない。


 本来なら、この防衛戦で私兵団の半分が死ぬ。


 それは怪我の治療に必要なポーションが底を尽いてしまったから。

 しかし、そこにポーションを作ることができる人物がいたらどうなるか。


 結果は大きく変わるだろう。


 まあ、それでもやっぱり心配なので、防衛戦の必要が無いくらい手早く終わらせる。


 そうすればシエルが怪我をする確率はぐんと下がるし、ついでにティアナの私兵団も無駄に死ななくて済むからな。



「というわけで、だ」



 俺は小さな丘の上で地に伏せて、そこからオークの集落を確認する。

 どうやらオークたちは火を囲み、宴を開いているようだった。


 宴の席で食べられているのは……。



「うーむ。連中が生きるためとは言え、人が丸焼きにされて食べられている様は見ていて気分の良いものでははいな」


「同感だな。しかし、拙者ら人間も国や文化によってはオークを食うからなあ。それを咎めることは出来まいて」


「それもそうだな」



 オークは人を喰う。でも人もオークを喰うからお互い様だ。

 連中からすると人間は同族の肉を食らう害獣に見えていることだろう。


 だから連中が人間を食うことに関しては本当にお互い様である。


 オークの肉ってまんま豚肉なんだよな。


 子供の頃に豚肉だと思って食べていたものが実はオーク肉だった時は衝撃を受けた。


 だってオークってさ。

 個体によって変わるけど、賢い奴なら人間と同じ言葉で話すんだぞ?


 意思疎通が可能な相手を食べるとか無理。


 だから俺は前世の記憶を取り戻す前からオーク肉は食べないようにしていた。


 記憶を取り戻した今なら尚更無理だな。



「さて、連中の数は……」


「拙者が数えた限りでは、150匹くらいか?」


「凄いな。俺は火の周りにいるオークしか把握できん」


「拙者これでも夜目が利くのでな」



 それは羨ましいな。



「貴殿は見えていないのか?」


「月明かりがあるなら輪郭がぼんやりと。それも近づかないと駄目だな。だから基本的には気配で位置を把握している」


「……拙者からすると、その方が凄いぞ」



 まあ、隣の芝生は青く見えるって言うしな。



「しかし、150匹か。斥候の報告より多いな。狩りにでも出ていた連中が帰ってきたのかも知れん」


「どうする? 拙者が前に出て斬り伏せるというのが一番良いと思うが」


「それはサクナ殿が楽しみたいだけだろう」



 サクナを一人で行かせては駄目だ。腕が千切れかけて戦力外になってしまう。


 この段階でそれは流石に不味い。



「俺が正面に出て敵の注意を引く。サクナ殿は隙を見て敵の始末を。無理にやる必要はない。一匹でも確実に減らして欲しい」


「それだとつまらんが……。まあ、承知した」


「……不安だ」



 不安だが、俺は丘の上から駆け下りて、正面からオークの集落に突撃した。



「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


「ッ、敵ダ!! ニンゲン!! 敵ッ!! 襲撃ダーッ!!」



 俺の雄叫びに気付いたオークたちが石器の槍を片手に群がってくる。


 その数はおよそ十匹。いや、もっと多い。というか増えている。


 騒ぎを察知したオークたちが集落の至るところから続々と集まってきた。



「ニンゲンッ!! 死ネッ!!」



 オークの一匹が手に持った石器の槍で殺意の籠もった突きを放つ。


 オークは人間の成人男性の何倍もの膂力を誇る。

 その剛力から放たれるその一突きは、人体を容易く貫くだろう。


 しかし、残念ながら俺は鎧で覆われている。


 相応の武器でなければ、俺の鎧を貫くことはないだろう。

 少なくともオークたちの持つ石器製の槍ではどうにもならない。



「ぬぅん!!」


「グギィ!? コイツ、強イ!!」



 俺は槍を力任せに振るい、前に出ていたオークの一匹を吹っ飛ばした。

 倒れ伏すオークの脳天に槍を突き刺し、しっかりトドメを刺す。


 俺の役割はあくまでも陽動。


 本来敵を仕留めるのはサクナだが、殺せる時に殺しておくべきだ。


 そして、もう一匹を始末した時。



「将軍ダ!! 将軍ガ来タ!!」



 突然、大きな歓声を上げるオークたち。


 オークたちの視線を辿ると、そこには一際大きなオークがいた。



「……上位種のオークジェネラルか」


「グハハハ!! 一人で来るとは無謀だナ!!」


「随分と流暢に喋る」



 背丈は俺よりもデカイ。


 手に持った武器はまるで木をそのまま引っこ抜いたような棍棒だ。


 あれは鎧だと受け止め切れないな。


 俺の自慢の大円盾を使えば問題なく攻撃を往なせるだろうが……。


 俺の役割はあくまでも陽動。囮である。


 だからここで俺が取るべき選択肢は戦闘でオークジェネラルを倒すことではない。


 俺はオークジェネラルに背を向けた。



「ア?」


「逃げるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」



 夜の森の中を全力疾走する。


 オークジェネラルは背を向けて逃げ出した俺を睨みつけた。


 そして、顔を真っ赤にして叫ぶ。



「貴様ァ!! 逃げるナ、卑怯者ッ!! 逃げるナァアアアアアアアアアアッ!!!!」



 オークジェネラルが必死に追ってくるが、奴の体格では森の木々が邪魔になる。


 俺は上手くオークジェネラルを撒いて、サクナと合流を果たした。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントサクナ

スレンダーな体型。大きさではなく形が良い。何がとは言わないが。


「唐突なジョジ◯ネタで草」「情報助かる」「大きいのも良いけど形も大事だよね」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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