第14話 悪役騎士団長、迷惑客を追い払う





「それでは――ポーション専門店〝もふもふ亭〟を開店します!!」


「おおー」


「わふ、おふっ!!」


「おめでとうございますっ」



 シエルが営業開始を宣言し、俺がぱちぱちと拍手、もふ丸が器用で両手にぽふぽふ拍手、レイは満面の笑みだった。


 お店の鍵を開けて客が来るのを待つ。


 しばらくしてやって来たのは、すっかり顔馴染みになった冒険者だった。



「ちーっす!!」


「いらっしゃいませー!!」


「シエルちゃん、ポーション買いに来たぜ!!」


「はい、ありがとうございます!!」



 売れ行きは上々。


 開店と同時に冒険者が数人ほど来て、ポーションをいくつも買って行った。



「クエスト、頑張ってくださいね!!」


「お、おう!!」


「また明日も来るからね、シエルちゃん!!」



 冒険者の中にはシエルが目的っぽい人もいた。


 シエルは普段の可愛らしい笑顔ではなく、営業スマイルだったが。


 知らぬが仏とはこのことだろうか。


 しかし、俺の作った作品の主人公がこうして色々な人々と交流する様を見るのは、何とも不思議な気分だな。



「おふっ!!」


「む。どうした、もふ丸」



 もふ丸が吠えた先を見る。


 すると、ちょうどそのタイミングで冒険者の中でも柄の悪い連中が店に入ってきた。

 リーダーと思わしき男がカウンターでシエルに怒鳴り散らす。


 ハンデルの街で活動してしばらく経つが、見たことが無い連中だ。


 他所の街から来たのだろうか。



「おい!! ポーションを寄越せ!!」


「……ご希望の数はおいくつでしょうか?」



 シエルはかすかに怯えながらも、笑顔を崩さないで応対する。


 俺はまだ動かない。


 前世ではコンビニで店員に怒鳴る客だって珍しくなかったのだ。

 多少態度の悪い客が来たところで、用心棒の出番は無い。



「あるだけ全部だ!!」


「申し訳ありません。お一人様に付き二つまでとさせていただいてるんです」



 もふもふ亭ではポーションの購入制限がある。


 理由は単純に、シエルのポーションを欲しがる冒険者の客が多いから。


 こうでもしないと即完売して、欲しい人に行き渡らないのだ。



「ああん!? 買ってやるっつってんだよ!! 良いからあるだけ寄越せ!!」


「申し訳ありません。了承しかねます」



 それにしても、この柄の悪い冒険者たちには俺の姿が見えないのだろうか。


 自分で言うのは少しアレだが、シャツとズボンと兜だけの大柄の男とか、普通に存在感があると思うのだが。


 しかし、俺の見てる前でシエルに怒鳴るということは本当に見えていないのだろう。


 出入り口正面に待ち構えたら客を怖がらせてしまうかも知らない、という配慮が裏目に出てしまったか。



「このガキ、こっちが下手に出てたら調子に乗りやがって!!」


「ガキにしては良い身体してんじゃねーか」


「泣かせた後でどっかの娼館に売り飛ばしてやるかあ?」



 あ、はい。恐喝なのでアウト。


 俺は用心棒としての仕事を全うするべく、柄の悪い冒険者たちの肩を後ろから叩いた。



「あん? な、なんだ、てめぇは」


「この店の用心棒だ。他のお客様の迷惑になるので、退店していただく」


「は、はっ!! やる気かあ? こっちは三人だぞ!!」



 俺はリーダー格の後ろでニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている冒険者二人の頭を掴む。



「ひぎっ!? や、やめっ、つ、潰れっ」


「いだいいだいいだいっ!?」


「すまないな。お前たちのような客は見せしめとして念入りに潰すと決めているんだ」



 最近はこの手の輩が減ったものの、ポーションを売り歩いていた時はそれなりに同じような手合いがいた。


 そういう連中はよりエグい方法で潰す。


 そいつらの仲間が報復に来たりしないよう、俺たちを「逆らってはならない相手」と認識するよう徹底的にやる。


 前世の平和な日本とは違い、この世界はそこそこ治安が悪いのだ。


 下手な温情など与えようものなら、相手はすぐ図に乗って報復を考える。

 こちらが見逃してやったとすら考えない馬鹿が多いのだ。


 だから潰す。物理的に。



「「ひぎゃぇ!?」」


「ひっ、な、何してんだてめぇ!!」


「見ての通り、こいつらの顔を潰した。なに、案ずるな。目が潰れて鼻は砕け、歯が何本か二度と使い物にならなくなっただけだ。それなりの神官に見せたら治るだろう」



 まるで屠殺寸前の家畜のような声で呻く柄の悪い冒険者二人。


 俺は残りの一人に向かって言う。



「で? 三人と言っていたが……。一人になってしまったぞ」


「て、てめぇ!! オレたちがどこのクランに所属してるか知らねぇのか!?」


「生憎と冒険者の事情には疎い。クランの仕組みは知っていても、貴様らのことは知らん」



 クラン。


 冒険者を統括する冒険者ギルドとは別に冒険者自らが結成した統括組織だ。


 こいつらがどこのクランに所属しているかは知らないが、興味も無い。


 仮にこいつらが有名なクランの所属だったとして、この程度の連中がいる時点で程度が知れるというものである。



「こ、この、ふざけやがっ――」



 剣を抜こうとしたリーダー格の首を掴み、そのまま地面に叩きつける。


 硬い地面じゃなくて木製の床で良かったな。


 石畳だったら、この一撃で簡単に死んでいることだろう。



「がっ、て、てめぇ、ぜってぇに、許さねぇぞ!!」



 ここまで一方的にやられて置いて、まだ反抗的な意志を見せるか。


 仕方ない。



「……シエル、ポーションを一つ欲しい」


「え? ラースさん、アレやるんですか? ……お店、汚さないでくださいよ?」


「ああ、分かっている」



 俺はシエルからポーションを受け取った。



「な、何するつもりだ!?」


「なに、ただの実演販売だ。貴様らを使っての、な」



 治癒のポーションを三人に振りかけて、傷を治させる。


 潰してやった冒険者二人の顔もすっかり元通りになって、困惑している様子。


 俺は極めて淡々と話しかけた。



「良かったな、怪我が治ったぞ。――もう一度潰すがな」


「「へ? ひぎゃぇ!?」」



 同じことを五回ほど繰り返す。


 すると、柄の悪い冒険者たちは最初の態度が嘘のように大人しくなった。


 惜しいな。最高記録まで七回だったのに。



「今後、この店に来て同じような真似をしたら同じことをする。この店や、この店の店主に報復を考えても同じことをする。仲間を連れて来るなら連れて来い。その仲間にも同じことをする。安心しろ、俺は忍耐力に自信があってな。お前たちの心を完全に折るまで続けてやろう」



 この言葉がトドメになった。


 柄の悪い冒険者たちは一斉に店から飛び出し、小便大便を漏らしながら立ち去った。


 一部始終を見ていたハンデルの街の冒険者たちがヒソヒソと話し始める。



「いやー、ラースの『実演販売するぜ、お前でな』を久しぶりに見られたなあ」


「シエルちゃんがポーションを売り始めたばかりの頃はよくやってたよな」


「あの人、普段は穏やかなのにキレると躊躇が無くて怖いんだよなあ。まあ、理不尽にキレる人ではないから良いんだけど」


「しかも相手が誰でも容赦しないしな」


「ああ。この前、有名な金持ちのロリコンボンボンがシエルちゃんを妾にするとか言った時は半殺しにしてたからな。ラースさんがトラウマになって今も寝込んでるって話だぜ」



 先に言っておくが、俺のやっていることは何ら違法ではない。


 暴行罪はギリアウトかも知れないが、結局最後はポーションぶっかけて治療してるから証拠は残らないしな。


 何か言ってきたら逆に名誉毀損で訴えれば良い。


 司法制度のロクに整っていないこの世界ならではのやり方だな。



「はあ。初日からああいうお客さんが来るのは、なんかやだなぁ」


「商売ならそういうこともある。なに、俺が潰せば問題ない」


「……ふふっ、そうですね!!」



 と、その時。客の来店を知らせるベルが鳴った。



「あ、どうもー」


「お前は……。たしか、勇者パーティーの新しいメンバーだったな」


「クロックですー。この前はお騒がせしましたー」



 咄嗟に知らないふりをしたが、この世界の作者である俺は、当然ながら彼の名前は知っている。


 シエルが抜けた後、勇者アレンに雇われて勇者パーティーに入った暗殺者クロックだ。



「今日は何の用だ?」


「そりゃあ、ポーションを買いにですよー」


「……そうか」



 客ならば俺の出る幕は無いと判断し、俺は定位置に戻った。



「ところでラースの旦那ー」


「何だ?」


「勇者パーティー、解散しちゃったんですよねー。三日くらい前に」


「……ふぁ?」



 俺はビックリし過ぎて、間の抜けた声が出てしまった。





――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントレイ

幽霊なのでカウンターの奥で裏方作業に勤しんでいる。



「主人公がバイオレンスだった件」「撃退方法がえぐい」「何があった勇者パーティー」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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