終盤で裏切る悪役騎士団長に転生したので真の勇者である追放少女と一緒に偽勇者パーティーを辞めようと思いますっ!〜主人公を近くで見守ってたら、いつの間にかシナリオをぶっ壊してた〜
第12話 悪役騎士団長、悪霊の除霊に物理で臨む
第12話 悪役騎士団長、悪霊の除霊に物理で臨む
その日は雨だった。
青い空は分厚い雲に覆われており、大粒の雨が窓を激しく叩く。
遠くで雷の鳴る音がする。
俺たちがポーション専門店〝もふもふ亭〟の看板を作ったりして、着々と開店の準備を進めていた時。
もふ丸が天井を見ながら低く唸った。
「がるるるる……」
「もふ丸? 天井に唸ってどうしたの?」
大きな牙を剥き出しにして警戒するもふ丸。
しかし、よく見ると股にもふもふの尻尾を挟みながら小刻みに震えていた。
シエルが震えるもふ丸を優しく撫でる。
「もふ丸、大丈夫だよ。……ラースさん」
「ああ。噂の幽霊だろうな」
するか、除霊。
「もふ丸、例の武器を持って来い」
「わふ!?」
「何のためにお前の小屋を作った時に出た廃材でアレを作ったと思ってる? そう、幽霊とやらを成仏させてやるためだ」
「……おふっ!!」
この家に出ると噂の幽霊は、よほど現世に未練があるのだろう。
ならばその未練を捨てられるまで、ぶっ叩いて成仏したくなるようにしてやる。
それが現世を生きる俺たちなりの気遣いだ。
「わふ!!」
もふ丸が物置き部屋から持ってきたのは、大きな板に棒を取り付けたようなもの。
でっかいハエ叩きという表現がベストだろう。
俺は槍のように柄が長いハエ叩きを、もふ丸は剣のようなハエ叩きを口に咥え、シエルは両手に普通のハエ叩きを持つ。
「以前話したことは覚えているな?」
「わふっおふっ!!」
「幽霊は物理的に倒せる!! って言ってます」
「そうだ」
レイスやゴーストのような魔物は斬撃が効きにくいが、それは連中が霧のようなものだから。
逆に言えば、連中は突風や範囲攻撃に弱い。
「さっさと出て来い!! ここはもうシエルの家だぞ!!」
「がうっ!! ぐるる、がうっ、ばうっ!!」
「居候するならシエルに家賃を払え!! 払う気が無いなら疾く失せろ!!」
少し乱暴な口調だが、大抵のレイスやゴーストは物音に反応を示す。
理由は俺にも分からない。
たしか物音で生者を探し出して、自らと同じ亡者にしようと集まってくるみたいな設定を考えていたはずだが……。
ぶっちゃけよう。覚えてない。
一時期アンデッドを物語に出そうと思ったが、設定を考えるのに疲れて結局は登場させなかったのだ。
俺がアンデッドの対処法を知っているのは、騎士団で培った経験があるから故。
だから連中が生者を襲う理由などどうでも良い。
肝心なのは、シエルの家に幽霊という種族の不審者が住み着いていること。
それを誘き出し、除霊すること。
「……ぁ……あ……ぃ……許さ……ない……」
「っ、そこかっ!!」
「がうっ!!」
俺ともふ丸が反射的にハエ叩きを振るう。
振り向いた先、二階へと続く階段の前辺りには人の形をした黒い靄のようなものが漂っており、俺たちの攻撃で形を崩した。
「……許、さ……ぁ……ぁの……」
「もふ丸!! そこだ!! もっとぶっ叩け!!」
「わふ!! ばうっ!! がうばうっ!!」
「……あ……あの、や、やめて……形……崩れ……」
「その調子だ、もふ丸!! 形を元に戻させるな!! 成仏するまで続けるぞ!!」
「わふっ!!」
「ぁ、あの、ちょ、本当にやめて!! 召す!! 天に召しちゃう!!」
「ん?」
「わふ?」
俺ともふ丸は何者かが言葉を発したことに気付いて手を止めた。
「シエル、何か言ったか?」
「いえ、私じゃないです。そっちの……女の人? です」
シエルの指さした先、二階へと続く階段の前辺りをもう一度見る。
「ぐすっ、なんなんですかぁ、この人たち、私を怖がらないとかおかしいですよぉ」
「この女の人が……」
「幽霊、なのか?」
「わふっ?」
しくしくと啜り泣く二十代前半くらいの若々しい女性だった。
ティアナに負けず劣らずのボンキュッボン。
髪は栗色をしており、雰囲気は地味なものの顔立ちが整っていた。
目の前にいるにも関わらず、その気配はちっとも感じられない。
何より半透明だし、この女が幽霊なのは間違いない。
ならば……。
「討伐せねば」
「わふっ」
「ひいっ!? 泣いてる相手に更なる追い打ちとかどこの鬼畜ですか!? もう少し優しくしてくださいよぉ!!」
ハエ叩きを構える俺ともふ丸を見て大泣きする女幽霊。
そんな女幽霊を哀れに思ったのか、シエルがおずおずと手を上げて言った。
「あの、可哀想ですし、話くらいは聞いてあげませんか? 暴力で成仏させるより、お話して成仏できる方が幽霊さんも嬉しいでしょうし」
「……まあ、それはそうだがな……」
「おふっ」
問題は目の前の美女が確実にレイスやゴーストのような魔物であることだ。
アンデッドは決まって生者を襲う。
ただ、目の前のアンデッドに会話できるだけの知性があるのもまた事実。
仕方ない。
雇い主が会話で成仏させてあげようと言うなら、従うのが労働者というものだ。
「シエルを攻撃したら、除霊を再開するがな」
「ラースさん!!」
シエルに怒られたので黙る。
「もう怖くないですよ、幽霊さん。私とお話しませんか?」
「……うぅ、ママぁ……」
「ママじゃないです」
この幽霊、シエルにばぶ味を感じてやがる……。
「ぐすっ、私、元々はここで道具屋をやってたんです。三ヶ月くらいですけど」
「三ヶ月、ですか? 短いですね」
「うぅ、私だって、もっと長くお店をやりたかったですよぉ!! でも、お店を開いてからできた彼氏がお店のお金を持ち逃げしやがったんですぅ!!」
「そ、それは……なんというか……」
「しかも!! その彼氏だった男は私から奪ったお金で私の友人だった子と付き合ってたんです!! 私のことを散々弄んだ挙げ句、『お前は身体がエロかったから付き合ってやっただけ、地味な女は好みじゃない(ゲス顔)』って!! 友人も友人で『私たちの結婚資金を稼いでくれてありがとう(ゲス顔)』って!!」
お、おおう、思ったより可哀想だった!!
「お金も彼氏もなくなって、なんか吹っ切れて人生一からやり直そうとしたら、彼氏が私名義で多額の借金をしていて、もう生きるのがどうでも良くなってお酒を大量に呷ったら死んじゃって、ぐすっ。本当に私の人生ってなんだったのかなって、うぅ」
「えっと、じゃあやっぱり未練が?」
「ぐすっ、あ、いえ、もう未練は無いんです。皆まとめて呪い殺したので」
「え?」
おっと、話の流れが変わったぞ。
同情の色があったシエルの目が一瞬で困惑へと変わった。
「私を捨てた彼氏と、私を裏切った友人を呪ったんです。少しずつ、じっくりと。彼らの親しい人たちを死なない程度に不幸に遭わせて孤立させてから、彼らから大切なものを少しずつ奪ったんです。例えば彼らの乗った馬車を事故に遭わせて半身不随にした後、彼らの愛の結晶である赤子を目の前で生きたまま魔物に食べさせたりとか」
「ガチの悪霊ではないか。シエル、やはり除霊した方が良いと思う」
「わふっ!!」
「うぅ、私だってやり過ぎたと思ってるんですよぉ!! 当時はレイスになったばかりで自制心が効かなくて、無差別に人を傷つけてしまいましたけど!! 今は後悔してるんです!!」
「……ふむ。なるほど」
何故この悪霊が知性を残しているのか、俺は何となく察した。
こいつは普通のレイスではないのだ。
レイスの上位種、おそらくは進化してエルダーレイスとなった魔物だろう。
魔物は基本的に長生きな個体ほど強くなり、何度も進化を繰り返すことで高度な知性を獲得するからな。
だが、そうなると疑問が浮かぶ。
エルダーレイスは物理除霊ができないほど強大なアンデッド。
高位の聖職者ですら、完全に祓うのに入念な準備が必要な存在だ。
しかし、この幽霊は復讐を終わらせてとっくに現世での未練を無くしている。
そういうアンデッドは消滅するはずだ。
ということは……。
「まだ何か、別の未練があったりするのではないか?」
多分、俺の予想は間違っていない。
憎い相手を殺して復讐は果たしたが、復讐だけが彼女の未練ではなかった。
そう考えるのが妥当だろう。
俺の推測を聞いたエルダーレイスがハッとして何かに気付いたらしい。
「そ、それは、まあ、心当たりはありますけど」
「幽霊さん、教えてください。私たちにできることなら、何でもしますから」
シエルがエルダーレイスの手を握り――握ろうとして触れられず、空振った。
まあ、幽霊だからな。そりゃ、すり抜ける。
しかし、エルダーレイスの方はシエルの言葉だけで十分だったらしい。
「実は私、またお店を、やりたいんです。またこのお店で、お客さんの欲しいものを売ってあげたいんです……」
「じゃあ一緒にやりましょう!! お店!!」
「……え? え!? あ、あの、もう少し躊躇とか、自分で言うのは何ですけど、私ってかなりガチの悪霊ですよ?」
「それはそうですけど、今はもう無闇に誰かを傷つけたりはしないですよね?」
「それはまあ、はい。というか、連中を呪い殺すのに力の大半を割いちゃって、今は建物内の物を動かすくらいしかできないですし……」
ポルターガイストって奴か。
「じゃあオッケーです。一応、私が店長なので指示には従ってもらいますけど……。だから、私たちと一緒に働きませんか?」
「っ、やります!! やらせてください!!」
こうして、幽霊がもふもふ亭の新たな仲間になった。
まあ、エルダーレイスは聖職者に依頼して祓ってもらおうにも、彼らが来ると途端に隠れて出て来なくなるしな。
この家に住み着いていて、除霊もできないならシエルの提案は悪くはないのかも知れない。
「まあ、なるようになるか」
いざとなったら俺ともふ丸で物理除霊してやれば良い。
いくらエルダーレイスでも二十四時間交代制でハエ叩きでぶん殴り続けたら消滅するだろうしな。多分。
――――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント作者の一言
作者「人類には、年端も行かぬ少女の優しさにおぎゃりたくなる時がある」
ラース「貴殿だけでは?」
「思ったより不幸で草」「ガチの悪霊やんけ」「あとがきで作者に同意した」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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