第7話 悪役騎士団長、真の勇者を怒らせる(?)





 ポーションが完売した夜。


 俺とシエルともふ丸は、ハンデルの街でも有名な酒場にやって来た。


 打ち上げとは少し違うが、ポーションの売れ行きが良かったので美味しいものでも食べようということになったのだ。


 もふ丸にも芸の報酬として肉を食べさせてやりたいしな。



「いらっしゃいませ、二名様ですか?」


「えっと、二人と一匹です。ここって従魔も入れますよね?」


「もちろん!! どうぞー!!」


「もふ丸、入ってきて良いってー!!」


「おふっ!!」


「で、でっか!?」



 元気な女性給仕がもふ丸を見て目を剥く。


 まあ、まさかグレーターウルフを使役してるとは思わないよなあ。



「もふ丸はギガ盛りステーキ肉でいい?」


「おふっ!!」


「そっか。えーと、じゃあ私はサラダとパンと肉入りスープにしようかな……。ラースさんは何にしますか?」


「色々あって迷うな」



 メニュー表とにらめっこしながら、何を食べようか考える。

 迷いに迷った結果、自分では決められなかったのでシエルと同じものを注文することにした。


 食事が運ばれてくるまでの間、俺とシエルは明日の打ち合わせをする。



「ラースさん。明日はポーションを五十本ほど売ろうと思ってるんですが……」


「良いのではないか? 今日の売れ方を見るに、売れ残ることは無かろう。ただ、一晩でそこまで用意出来るものなのか?」


「はい!! 徹夜すればなんとか――」


「ならば反対だ」


「え?」



 俺はシエルの提案に賛成しない。



「徹夜は翌日に響く。無理をして倒れでもしたら大変だ」


「で、でも、沢山売って沢山稼がないと!!」



 シエルがテーブルに身を乗り出して言う。


 何かを焦っているような、何かに駆り立てられているような、そういう感じだった。


 続くシエルの言葉で、その様子の理由を知る。



「それに、ラースさんから借りたお金や、用心棒のお給金も払わなくちゃいけないですし……」


「あぁ、そういうことか」



 シエルが自分にとって無茶な提案をしたのは、俺のためらしい。


 早く借金を返したいという気持ちは分かる。


 しかし、それが原因でシエルが倒れてしまったら俺への給料の支払いが滞ってしまう。


 それでは本末転倒だ。


 俺はシエルを諭すように、かつ彼女が納得できるように話を続ける。



「シエル、貸した金に関してはそこまで焦る必要はない。もっと資金に余裕ができてからでも、俺は文句を言わん」


「で、でも……」


「それよりも、シエルが無茶をすることの方が問題だ。徹夜は肌にも悪いと聞く」



 寝不足は美容の敵、とは誰の言葉だったか。


 前世で事ある毎に俺にコブラツイストを仕掛けてきた姉が言っていたような気がする。



「わ、私なんかがそんなこと気にしても仕方ないです。可愛くないですし」


「何を言う。シエルは可愛いぞ」


「ふぇ?」



 シエルのビジュアルは最高に可愛い。


 俺の作品のイラストを担当している絵師さんが凄い人だったからな。


 こういう感じの〜というあやふやなイメージで俺の理想通りのキャラを書いてしまう人だった。

 あの人がいなかったら、クソラノベと呼ばれる俺の小説はアニメ化するほど売れていなかったことだろう。


 その絵師さんが「自分の中で最高傑作」と言うほどのキャラデザだった。


 今はまだ垢抜けてないがな。

 この状態ですら並大抵の美人が霞むほどの可憐さを覗かせている。


 シエルがお洒落に気を使い始めたら、卒倒する者も出てしまうだろう。


 というか、出る。出した。作中で。


 だからシエルの容姿に関して、俺は自信を持ってこう言おう。



「シエルはとても可愛い女の子だ」


「……」



 俺はテーブルに身を乗り出したままのシエルの頭を軽く撫でた。


 こうしていると、前世の姪っ子を思い出すなあ。


 粗野でバイオレンスな姉とは似ても似つかない、素直な可愛い子だった。


 と、そこでシエルの反応が無いことに気付く。

 


「……シエル? む、すまない」



 つい姪っ子を可愛がるみたいに頭を撫でてしまったが、いくら仲の良い女の子でも不躾に触れるのは良くなかったな。


 機嫌を損ねてしまっただろうか。



「ふぇ? あ、い、いえ、だ、大丈夫、です。気にしてませんから……」


「……ふむ、そうか。本当にすまないな」


「い、いえ、本当に大丈夫です!!」



 顔が真っ赤だった。

 本当は怒っているのだろうが、俺に気を遣ったのだろう。


 そこを指摘するほど、俺はお子様ではない。



「じゃ、じゃあ、明日のために用意するポーションは三十本くらいにしておきます。それくらいなら、徹夜まではしなくて良いでしょうし」


「そうか。ならば俺も手伝おう。薬草をすり潰すくらいはできる」


「あ、ありがとうございます、ラースさん」



 話が一段落した直後。



「お待たせしましたー!! ご注文の品でーす!!」


「わわっ!!」


「お、おお、美味しそうだな」



 女性給仕が料理を持ってきた。


 サラダとパンと肉入りスープが二つずつ、あとアホみたいな量の肉の山だ。



「ふむ。冷める前に食べようか」


「は、はい!! いただきます!!」


「おふっ!! はぐはぐはぐ!!」



 もふ丸がステーキの山を勢い良く食べ始める。


 それを見て、俺とシエルも目の前の食事にありついた。


 結論から言おう。めっちゃ美味しい。


 サラダは新鮮な野菜を使ったもので、水々しさが堪らない。

 スープは濃いめの塩味で、肉がごろごろ入っていて腹持ちも良い。


 何より俺が驚いたのはパンだった。



「わ、このパン……」


「ああ、驚いた」



 先に言っておくと、この世界はネット小説でありがちな中世ヨーロッパ風の世界観だ。


 魔法の存在もあって地球のそれよりも発展しているが、魔法を活かしにくい食という面では中世とそう変わらない。


 パンも硬いものばかりで、前世では当たり前だったふわふわもちもちのパンは存在しない。


 はず、なのだが……。



「柔らかくて美味しいです!!」


「もちもち、だな」



 ここまで美味しいパンは初めてだが、こういう設定を練った覚えはない。


 おそらくは俺が書いていない情報の補完によるものだろうが……。


 規則性はあるのだろうか。少し気になるな。



「おふっ!!」


「あれ? もふ丸、もう食べちゃったの?」


「わふっ!! くぅんくぅん」


「ふふっ、今日は頑張ってくれたし、おかわりしても良いよ」


「おふっ!! はっ、はっ、はっ」



 もふ丸がギガ盛りステーキをおかわりし、俺とシエルは食事を続けた。


 その夜、俺はシエルと共に翌日に売るためのポーションを作り、眠りに就いた。









 それから数日。


 シエルのポーションは完売続きで、一部の冒険者の間では有名になった。


 曰く、「ポーション売りの少女から買ったポーションは美味しくて効果も凄い!!」みたいな話が出回ったのだ。


 しかし、ここで問題が一つ生じた。



「ラース、勇者パーティーに戻ってきて欲しい」



 離別したはずの勇者パーティーが、俺を連れ戻そうとハンデルの街に戻って来やがったのだ。


 ちっ、面倒な。







――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントラース設定

鈍感。今どき流行らないだろってくらいの鈍感。


「シエルかわいい」「もふ丸かわいい」「あとがきで、だろうな」と思った方は感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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