第2話 聖女になんかなりたくなーい!

「つい先日のことです。我らがジョルスキヌス十二神教の大神父、『預言者』カミッテル様が新たなお言葉を神より授かりました」


 場所は変わって村長宅。この部屋にはエラソンを含む村長一家、なんかわかんないけんど当事者?である私と両親、この村のお爺ちゃん神父、そして例の神父さんが集っていた。

 まぁ、窓の外ではソンダケ村村民が全員集結してるんだけどね。四方八方の窓から顔を覗かせて、終いには壁に覗き穴を開け始めている始末。プライバシーもクソもないよね、田舎って。


「お前ら後で直して帰れよ」

「「「「「「「「ぬぅ???」」」」」」」


 エラソンパパの言葉も村民たちには馬耳東風。お、また壁が一枚剥がされた。やるねぇ。

 ちなみにジョルスキヌス十二神教とは、この国でポピュラーな宗教だ。ジョルスキヌスという主神をメインに十二の神様からなるらしいけど、正直あんまり知らない。

 村のお爺ちゃん神父が悲しそうな表情でこっちを見てきた。あ、あはは。そういや昔習ったかも。

 ん?お父さんどうしたの?冷や汗だらだらで私のことジロジロ見てきて。


「ハリナ。ずっと思ってたんだがなんだそのえちえち踊り子姿は!」

「ん?あ〜〜忘れてた。ちょっと…ね?」

「ちょっとって何!?パパやだ娘のそんな破廉恥な格好!エラソンと何かあったか!そうなのか!?」

「あらあらあなた?ハリナもそういう年頃なのよ。親が口を挟むものではないわ。…来年には孫の顔も見れるかしら?楽しみねぇ」

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!嘘だよなハリナ!?嘘だと言えエラソン!!!」

「もう!お父さんうるさい!お母さんも茶化さないで!ね、エラソンも言ってあげて!」

「あ、あぁ…」


 む…?エラソンの歯切れが悪い。さっきまでの賢者タイムは終了したみたいだけど、どうもニコニコ笑顔のイケメン神父を警戒しているみたいで心ここに在らずって感じ。

 

 こほん


 ざわざわしていた野次馬村人たちも咳払いの主に注目する。


「…改めまして私、名をライデス。ライデス・デルデモントと申します。この度、教会からの任を受け、聖女たるハリナ様をお迎えに上がりました。どうぞよろしくお願い申し上げます」


 深々とお辞儀する神父さん、もといライデスさん。相も変わらないニコニコ笑顔が恐ろしくも感じられる。

 …そうそう!その聖女がどうこうって話!それを詳しく聞かせて欲しいの!


「ね、ねぇ神父さん!聖女って何!なんで私なの!」

「そうですぜ神父さん。いやうちのハリナはもちろん我が家の聖女なんですけどね、ガハハ」

「もう、お父さん!恥ずかしいよ!私なんかどう頑張っても村のアイドルが関の山だって!」

「おぅそうかぁ。流石はハリナだなぁ。ガハハハハ」

「えへえへえへ」

「あらあら、もう」

「この幸せバカ一家!いやぁすみませんねぇ神父様。…ちなみにうちの娘も我が家の聖女なんですけどね。わはははは、ぐっ」

「あなた恥ずかしいから黙ってて?…一生涯」


 権力に弱いと噂のエラソンパパこと村長が便乗してきた。それを殊更に強いと噂のエラソンママが一撃でぶちのめした。ズドン、とおよそ人体が出してはいけない音がエラソンパパのお腹から聞こえた。聞かなかったことにしよう。

 駄目だよエラソンパパ、柄にもないこと言っちゃあ。もう聞こえちゃいないか…。なーむー。


「…」


 神父さんの視線を感じて私を含めたみんながどうぞどうぞ、と話を続けるよう促す。みんなノリがいいから遠慮してたら延々とコントをしちゃうんだよね。さ、どうぞどうぞ。


「では気を取り直して、聖女様についてのお話です。聖書にて確認された先代の聖女様についての記載は、おおよそ500年前。

『暴虐の悪魔』と呼ばれた大陸を破壊せしめんとされた大災害の折の出来事です。突如として現れた聖女様は主神ジョルスキヌス様の御力をお使いになり、未曾有の大災害と闘われたとか。彼女は主神の巫女を名乗り、権能の一部を下賜されていたとのことです。その力を持ってして、彼女は無事大災害を食い止められました。その聖女様の生まれ変わりがハリナ様であるとのことなのです」

「なるほどわからん」

「…ハリナの言う通りでさぁ。そんな話聞かされても一体なにがなんだかわかりやせん。ハリナがその聖女様の生まれ変わりだとして、つまりはどういうことですかい?」

「ええ、そうですね。結論から言います。預言による聖女の降臨が意味すること。我々ジョルスキヌス十二神教はこれより先、未曾有の大災害の発生を予測しているのです」

「なっ…」


 ざわめきが強くなる。私馬鹿だからわかんねぇけどよぉ、つまり危ないってことなんじゃねぇの?

 お父さんが難しい顔で腕組みをする。


「予測は予測。そんなわけのわからんことにウチの可愛い娘はやれませんなぁ。なぁ母さん」

「あらあら、そうねぇ。ハリナが本当に聖女様でも、そんな危ないこと任せられないわ」


 当たり前だよなぁ。スーパーウルトラアメージングめっちゃビューティフルウルトラウルトラはんぱないダイナマイトボデーヤングガールのかよわい私には少し危険が危ないかも…。はわわ。ちわわ。

 難色を示す両親を前に、神父さんは大きく頷いた。


「それはもちろんそうでしょう。そう仰られると思い、聖女様への福利厚生は手厚くサポートして参ります。その一例といたしましては…」


 神父様がやり手の商人みたいな営業トークを繰り広げ始めた。難しくてよくわかんないけど、王都の一等地に家族みんなで移住、衣食住のサポートから身の回りを守る騎士の用意、週休3日などとツラツラ並べ立ている。おいしいご飯は魅力的だけどねぇ〜、この程度じゃ私はゆるがないかな〜?


「ちなみに月のお給料は…」

「「「わ〜お!」」」


 こ、こここ、この程度じゃわたわたわた私は揺るがにゃいか、かな〜??

 目が飛び出そうなほどの額を提示されて、家族一同少し動揺してしまった。


「どうですか聖女様ご本人のお気持ちは?」

「なしよりのなし」


 いや〜、聖女様だなんてそりゃ昔は憧れたよ?ん、激痛ポエム?こらこら、その話を出すんじゃあない。ぶち殺すよ?王都での生活とか、美味しいご飯とか魅力的なことはたくさんあるけどさ、私は今の生活で十分なのよ。家族みんなもうんうん、と頷いている。

 神父さんはというと、どこか残念そうに、だけどニコニコ笑顔は変わらずのまま首肯してくれた。


「…そうですか。聖女様がお受け入れくださると一番よろしかったのですが。そうそう、『預言者』様のお言葉には続きがありました」


「彼はこう言われました。『聖女様は王国の東の果て、なんかキモめの羊が特産の特にパッとしないクソ田舎におられる』…と」

「てめぇぶっ殺すぞ!」


 村長がキレた!どうどう。

 村のみんなは「事実だしね」とあはあは気楽に笑っている。ノンキだなぁ。


「そしてこうも仰られました。『汝、その村で一番パッとしないモブっぽい顔の少女を探しなさい。なお性格は面白い女とする』、と。このお言葉からハリナ様を見てピンと来ました…。おや?どうされました?そんなに顔を赤くされて?おや?おやおやおやおや?」


 こ、こいつぅ〜!とんだ煽りカスじゃねぇか!その上等なツラで福笑いしてやろぅか、あぁん??誰がモブ顔じゃコラぁ〜??

 煽りカス神父にメンチを切り倒す。神父はその間も笑顔を絶やさない。サイコ神父がよぉ〜?

 しかし、私のぷんすこタイムも束の間のこと。背後からとんでもない怒気を感じ、冷静さを取り戻すことになった。

 ばっと振り返ってみれば顔面を真っ赤にしたお父さんが見るからにブチギレている。


「ごろ゛ず…!ごろ゛ずぅ…!!」


 お父さんの家族愛が爆発した…!肌が赤熱して、全身から熱気が…!このままじゃかつて『血染めの木こり(単独事故)』の名を欲しいままにしたお父さんの真の力が解放されちゃう…!

 私は慌ててお父さんを落ち着かせる為に、ヘッドロックを敢行する。「うっ」

 お母さんもお父さん止めて!


「ア アララァ ア アァ!」


 Nah Wake Up People Yo!秘めた巨大なPower!が解放されちゃう!お母さんも落ち着いて!私はお母さんを落ち着かせる為に慌てて延髄斬りをぶちかます。今は暴れる時じゃない!わかってんだろ?「ペィス」


「まあまあ落ち着いて落ち着いて。何をそう怒ってらっしゃるのですか」


 笑顔のクソ神父様が両親の殺気を真正面から受け止めながら、さらに笑顔をニコニコ深める。

 クソ度胸だなぁ。なんでこの人こんなに余裕かませるの?真にやばい時にこそ笑えって教えられたタイプなの?

 というかまずい!このままじゃぁ、本当に血の雨が降っちゃうよう!

 私は未だ怒り心頭の両親をなんとか宥めに入る。


「ちょ、ちょちょちょ!ステイステイ!はいー落ち着いて、お父さんお母さん。ほら深呼吸ー!ひっひっふー!ひっひっふーーー!!!」

「う、産まれる…!」

「産まれねぇよ!」

「あらあら産まれましたー!」

「産まれるのかよ!」

「わぁ可愛い!見てエラソン!玉のような『にゅるり♡堅物熟女お嬢様、恥辱の踊り子転職♡なんと破廉恥スライム堕ち♡』ですよ〜」

「オレを巻き込むな!」

「うわ性癖えぐ」

「もう殺してくれ!」


「待ちなされ…」


 わぁきゃあ、みんなでコメディかましてたら誰かが声を上げた。エラソンが心にダメージを負ったが、お母さんお父さんは無事戻ってきたみたいだ。エラソンパパが本の中身をチラチラ見てる。お、エラソンママに顎を砕かれた。

 めでたしめでたし。安心して声の主の方を振り向く。そこに立っていたのは…お、お爺ちゃん神父!お爺ちゃん神父じゃないか!

 説明しよう!お爺ちゃん神父とは!私が生まれるずっと前からこの村の小さな教会で働いているお爺ちゃんなのだ!

 お爺ちゃん神父がライデス神父の前に立つと、彼を非難するような厳しい視線を向けた。


「神父ライデス…。卑怯な手を取るのは止めたまえ。彼女たちの怒りを引き出し、暴力を振るわれたことを理由に無理矢理ハリナちゃんを連行しようと考えたのだろう。

 折角の王都からの来訪ご苦労だが、ワシはこの招集には納得できん。そもそもその様な報せ、ワシのところには届いておらんではないか。

 大災害の再来など…ワシから言わせれば眉唾物もいいところだ。根拠のない話で無辜の民の不安を煽るのはよしなさい。

 まったく…この平和な時代に聖女などと、十二司教も何を考えているのだ。権威の為の神輿にでもするつもりなのか。

 いずれにしても、如何なる理由であろうとハリナちゃん、何も知らない婦女子に預ける責の重さではない。

 帰るがいいライデス。責はこのワシが取ろう」

「…おや。どなたかと思えばモービック司教殿。いえ、今は一介の神父でしたか。

 モービック神父殿。どうも貴方は勘違いされておられるようだ」


 大きく被りを振ったライデス神父が笑顔を崩さず、自信たっぷりに言った。


「これは十二司教様方の決定ではない。

 教皇様の勅命なのです。貴方も知っておられるでしょう。他の何よりも優先される、最も尊ぶべき奇跡たるお方のお言葉を」


 きょーこー?

 よく分かんないけど多分偉い人なのだろう。見るからにお爺ちゃん神父の顔色が悪くなる。喉を鳴らし、お爺ちゃん神父は震える口を開いた。


「…ま、まさか。教皇、キュクロースク様が…?あのお方直々に命令を下されたというのか!」

「えぇ、貴方が、いえ何人たりとも口を挟む余地などないのです。理解なされましたか、モービック神父殿」

「…ぐ、ぐぅ。しかし、」

「余地、など、ない。二度も言わせないで頂きたいものです」


 さて、と彼は悔しそうに俯いたお爺ちゃん神父の肩にぽんと手を置いた。ニコニコ笑顔の胡散臭神父が私の目の前まで歩みを進める。ひょえぇ…最早暴力しか手は無いのか…!血が滾ってきたなぁ。


「待ちねぃ!」


 !この声は…、まさかと思い声の主を振り向く。そこに立っていたのは…


「む、村人A!」

「おれ馬鹿だからよくわかんねぇけど、人の嫌がることはやっちゃだめなんじゃねぇか?」


 む、村人A…!ありがとう!たまたま直立したダイコンの上にたまたま座ってしまい村医者に掛かっていた村人A!


「おうともさ!」


 こ、この声は…!?まさかと思い声の主を振り向く。そこに立っていたのは…


「む、村人B…!」

「おれも馬鹿だからよくわかんねぇけどさ、ハリナちゃんが嫌なんだったらダメなんじゃねえの?」


 む、村人B…!ありがとう!乳毛をどれだけ長く育てられるかが最近の趣味なんだよって嬉々として語ってた村人B!


「おでもそうおもうど!」


 こ、この声は…??


「だ、誰ぇ…??」

「おでばかだからなにはなしてるかよくわかんねぇど!」


 ば、馬鹿…!ありがとう!触れちゃいけないタイプのやばい人!うわ床板剥がして食ってる…!


「なんかよく分かんねぇけど嫌がってんならやめるべきだよなぁ!」「いかんでしょ」「やめなよ」「あ」「あ」「やば笑」「なんか草」「☺︎☺︎☺︎」「私はそれを悲しい( ; ; )」


 村のみんな…!なんか妙に腹立つけど、みんなの気持ちが嬉しいよ…!

 やいやいと抗議する村人たちを背に、私は神父さんの反応を伺う。どうよどうよ?もちろん私らは抵抗するで?


 はぁ…


 小さなため息が聞こえた。ため息の主はもちろん正面に立つ神父。立つ位置は丁度、彼の顔が私の視界にしか入らないところ。

 う。

 そこにはもう、一片の笑顔すらありやしなかった。氷のように冷たくて、心底うんざりした表情で彼はこう吐き捨てる。


「田舎は嫌になる。糞の純度が無駄に高い」


 ほへぇ…?


 どうやらすぐ近くにいた私にしか聞こえなかったみたいだけど、なんかとんでもないこと口走らなかった!?えぐい悪口言ってたよね!?ね!?

 そんなエグ悪口神父が懐に手を入れた。取り出したのは一枚の紙だった。縁に仰々しい金の装飾のなされた高価そうな紙面には、不似合いな赤黒いインクで何やら長々と文字が殴り書きされている。その紙を広げて彼は言った。


「…ジョルスキヌス十二神教教皇特別代理人、ライデス・デルデモントがここに命ず」


「略式信奉術式『統べるは遍く小さき大地』、発動」


 神父が何やら呟くと、手に持った紙が怪しい光を放ち始め、瞬間私の意識がスゥッと遠くなるのを感じた。


 …

 ……

 ………


「ほへぇ??」


 あれ?

 確か私、村長の家で聖女になるやらならないとかやってたと思うんだけど…。

 なんでか今は眩しいくらいの白色の馬車の前に居た。というかこれ馬車なのかな?よく見たら馬車を引く馬がいないじゃん。どういう仕組み?魔法?


「では参りましょうか聖女様」


 肩に手が触れ気がついた。すぐ隣に神父が立っているじゃないか。顔は…すっかり元の胡散臭さ満載のニコニコ笑顔に戻っていた。さっきのチンピラみたいな顔つきはなんだったの?夢?夢だといいな。

 やけに親しげな手を振り払いつつ、激ヤバ神父を問い詰めようとする。


「あ、あなたね!さっき一体なにを」

「頑張れよハリナ!」


 ??


 思わずセリフを止めてしまった。なに今の声援は。…やな予感がする。神父の顔は正面を向いている。もちろん笑顔で。


「さぁ聖女様。皆様にお別れの挨拶をどうぞ」


 えー??やだなー。見たくないなー。見なきゃダメ?でも絶対ろくなことにならないしなー。え?話が進まない?もう、しょうがないなぁ。じゃあ3カウントで正面向くから!3、2、1、せーの!っで見るからね?3、2、1!じゃなくって3、2、い、あだっーーー!?

 胡散臭神父に後頭部を掴まれ無理やり正面を向かされた。そこに映る目の前の光景はなんとなく予想してた通りのもので、なんでこんな状況になったのかはさっぱり分からない。


「ハリナー!頑張れよー!」「うおーん!うおーん!がんばれよハリナー!」

「あらあら、貴方泣きすぎよ?今生の別れって訳じゃないんだから…、あら、嫌だ。貰い泣きしちゃったわ…」

「頑張れよハリナちゃん!」

「故郷に錦飾っとくれー!」


 お父さんもお母さんもエラソン除く村長一家もみんなみんな涙ながらに私のことを見送ってくれている。な、なんか私聖女になる流れになってる!?なんでみんな納得しちゃってるの!?

 ちょっと待ってよ!抗議の声を上げようとしたら、イカれ胡散臭神父が私の肩に手を置いて滝のような涙を流し始めた。


「す、素晴らしい…!ハリナ様はこれ程までに愛されておいでなのですね…。私には見えます…。王都にて正式に聖女様の任命式を受けられた時、貴方様は国民皆から、いや!世界中の皆々様より愛される素晴らしいお方になられる未来が!このライデス、誇らしさに胸が爆ぜてしまいそうです…!!」


 なんだこの演技臭いセリフは…!演技派胡散臭神父にドン引きしている内に、彼は私に有無を言わさず馬車に乗せられる。中には初めて顔を合わせる鎧姿の騎士らしき人が2人。あ、こんにちは。

 ちょ、ちょちょ!あ、ソファふかふか。って、あーーー!!早速発車しやがった!

 せめて、と窓から顔を出して村のみんなに助けを求める。


「うおーーー!攫われるーーー!!!いやだーーーー!聖女になんかなりたくなーーーい!!!」


 私の可憐な助けを求める声を聞いた村民たちが涙を拭き、意を決した表情で互いに向き合い頷いた。


「うう…そうだよな…。ハリナだって辛いんだ…!おい、お前ら!俺らが泣いてどうすんだ!せめて笑って送ってやろうぜ!」

「おう!」

「そうね!」

「せやな!」

「やらいでか!」


 口々に「頑張れ頑張れ」と応援の声が飛んでくる!馬鹿野郎かな?楽しそうに声援をくれる彼らを見て私は、


「ん、んああ」


 と微妙な反応しか返せずにいた。何この、何?ちくしょう元気に手ぇ振りやがって!さっきまであんなに私のことかばってくれてたのに!

 あ、エラソン!エラソン男見せろ!頼む!どうか抵抗してくれ!


「…悪いハリナ。今はどうにもできねぇ。でも、必ずおま」


 こ、心が折れてる!一体なにがあったって言うんだ!エラソンの馬鹿ちん!固結びにしてやる!「なにを!?おい俺の話を」もういいですー!心がメス堕ちしたエラソンなんかもういいもん!

 キッズ!お前らもほら!引き止めて引き止めて!


「ハリナ姉ちゃん頑張ってー!」「冒険者になったらシスター姿のハリナ見て笑ってやっからなー!」「また帰ってこいよー!」「おれらのこと忘れるなよな!」


 うーんこの晴れやかな門出。

 ここはもういっちょ言っておきますか。


「いやだー!!聖女になんかなりたくなーーーい!!!」

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