爆走!!デスバースト自動車

有本カズヒロ

火を吹く車

「赤下君、出来たぞ! 完成だ!」


 アンドリュー博士の大声によって、青年・赤下は目を覚ました。

 ガレージに設置されてあるソファから起き上がると、目の前にはメタリックレッドを基調としたスポーツカーがあった。いかついゴテゴテとした装飾を多数取り付けられたそれは、力強くガレージの照明を反射している。

 その車を目の前に興奮した赤下は、即座に立ち上がり車体に近寄る。


「ついに完成ですか! これで、これでやっと!」

「ああ、そうだ。これで奴と決着をつけられる。発明品No.1234『デスバースト自動車』の完成だ」

「そのネーミングは何とかならなかったんですか……」


 赤下はドアを開け、中に乗り込む。マットな質感のハンドルは、初めて握るというのに赤下の手にとてもよく馴染んでいた。


「では今からこの車の能力を説明する。時間が無いので手短に済ませるぞ、よく聞いておいてくれ」


 博士は車について事細かに話していくものの、赤下の飲み込みが早いからか説明はものの五分ほどで完了した。


「以上がデスバースト自動車の能力だ。いいか、赤下君。奴との決戦でピンチになった時は、先ほど言った三番ボタンを必ず押してくれ」

「わかりました、博士。今は……深夜の三時ですか。奴はまだエリアEにいるでしょうか?」


 博士は懐からスマホを出すと、しばらくそれを見つめていたが。


「ああ、いるようだ。移動しながら建造物を破壊してまわっている。軍が応戦中だそうだが、いつまで持つかわからない。早速だが出動してくれ」

「わかりました、奴を今度こそ……倒してみせます!」

「本来ならば、私がこの手で決着をつけないといけないというのに、すまない。君の健闘を祈っている」


 赤下は博士からもらったキーで車のエンジンをかけると、今一度姿勢を正す。

 博士がガレージのシャッターを開けるのを待った後、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

 デスバースト自動車は、夜の市街地へと走り出した。


 ― ― ― ― ―


 デスバースト自動車の発明者、アンドリュー博士は二年前、とある発明をした。

 その名前は発明品No.1233『絶対零度ワイバーン』。吹雪を口から吐き出す、人造ドラゴンだった。学会にそれを発表した博士はしばらく世間を賑わせたが、半年前にその名声は地に落ちてしまう。


 絶対零度ワイバーンが突如暴走、博士の研究所を脱走し市街地で暴れまわるようになってしまったのが原因だった。博士は軍と協力し応戦するもあえなく敗北、今日まで人々は絶対零度ワイバーンから逃げ続け、怯えながら生活を送るようになっていた。


 大勢の被害者を出した責任を取るため、博士は対ワイバーン用の発明品を作ることになる。それこそが、デスバースト自動車だった。


 ― ― ― ― ―


 デスバースト自動車は、光のような速度でエリアEまでたどり着いた。


「……!? クソッ!」


 車の窓から顔を出した赤下が見たのは、悲惨な光景だった。

 建物のほとんどが氷漬けにされてしまっている。

 それどころか、恐怖に顔を歪めたまま凍り付いている人間が多数、道端に立ち尽くしていた。

 軍の兵器であろう戦車や重装備の歩兵たちまでもが、皆等しく氷に包まれている。


 赤下は顔を車内に戻すと、氷漬けが続いているエリアEの中心部まで向かう。しかし。


「ギャアアアアアッ!!」


 一キロほど走ったところで、デスバースト自動車のすぐ前方に、咆哮と共に突然氷の壁が現れた。


「くっ!」


 赤下は一番ボタンを押し、車のメイン能力である火炎放射器を作動させて氷壁を溶かす。

 

 すると、目の前に現れたのはこの氷の世界を作った元凶、絶対零度ワイバーンだった。

 ワイバーンは今にも飛び掛かってきそうな体勢で、こちらを睨み据えている。


「そっちから来てくれたか、手間が省けるな……! いくぞ!」


 空中に飛び上がったワイバーンを追うため、赤下は車の二番ボタンを押す。

 すると車体のドアが左右へ延びるように形状を変え、一対の翼となった。


「これで空中戦も出来るってわけだっ!」


 デスバースト自動車は飛翔し、空中でワイバーンと対峙する。

 ワイバーンは咆哮すると、車に向けて氷の息吹を吹き付ける。


「そんなもんかよ!」


 再び一番ボタンを押し、火炎放射器を作動させる赤下。

 ワイバーンの氷の息吹は瞬く間に炎にかき消されていった。

 しかし、ワイバーンは氷の息吹が通用しないとわかっても、諦めることなく車の周りを羽ばたいている。


 やがて、ワイバーンの足の爪が徐々に巨大な氷に包まれる。

 次にワイバーンの足に出来上がっていたのは、巨大な氷の剣だった。


「ギエエッ!!」


 足に出来た氷の剣を、ワイバーンは器用に車目掛けて振り下ろす。

 すんでのところで赤下は回避するが、氷剣の連撃が止むことはなかった。

 しかし、氷剣をギリギリで回避し続けたことでバランスを崩した車は、地上へ向けて落下してしまう。


「ぐあっ!?」


 氷漬けの地面に衝突した車だが、車体に傷はついていない。

 衝撃吸収素材に埋もれた顔を上げる。

 するとそこには、ワイバーンが氷の息吹を吹き付ける体勢で構えていた。

 火炎放射器で応戦しようとする赤下だったが、着地の衝撃で故障したのか、一番ボタンは全く反応を示さない。


 次の瞬間、ワイバーンの氷のブレスによって、車全体がみるみる内に凍り付いてしまった。


「クソッ、動け、動けよ!」


 赤下はハンドルを動かそうとするが、びくともしない。

 その間に、もう一度ワイバーンは足に氷を纏わせ、巨大な氷剣を作り上げていた。

 再びワイバーンが氷剣を振り下ろそうとした時、博士の言葉が咄嗟によぎった赤下は三番ボタンを押す。

 

 振り下ろされた氷剣は、赤色の機械腕に捕まれた。


「これが……この車の底力! 人型走行モードだ!!」

 

 デスバースト自動車は車から形を変え、人型のロボットへと変形する。

 デスバースト自動車・人型走行モードの完成だった。

 人型になると同時に、車内……赤下が乗るコックピットにも熱がこもる。

 博士から『三番ボタンの力は強力だが、熱が籠り過ぎるため長時間の使用は搭乗者を死に至らしめる可能性がある』ことを赤下は伝えられていた。


「これくらいの熱さなら我慢が効くぜ!! サウナみたいなもんだ!! さぁ来いよ絶対零度ワイバーン!! ファイナルラウンドだ!!」


 ワイバーンは咆哮すると両足に氷剣を纏わせる。

 回転しながらその氷剣を振り回すと、ワイバーンは巨大な氷の独楽と化した。


「ギィィィアアアアアアッ!!」


 超スピードで回転する氷の独楽は、デスバースト自動車へと突進するが、しかし。


「はっ、何のために変形したと思ってるんだ! お前を捕まえるために決まってるだろうがッ!!」


 両腕でワイバーンを掴むと、デスバースト自動車は胸部を大きく開けた。


「これで、終いだ!!」


 ワイバーンに向けて至近距離で、胸部から強烈な熱線を吐くデスバースト自動車。


 ワイバーンは断末魔を上げる暇もなく、黒い塵と化して宙へと消えていった。

 席にもたれかかり、赤下は息を吐く。


「やった……か」


 人型走行モードを解除すると、車内の温度も少しずつ下がっていった。

 赤下はスマホを取り出し、耳に当てる。


「もしもし、博士? ……やりましたよ」


 こわばっていた肩の力を抜きながら、赤下は博士に報告する。

 ワイバーンを倒したことを祝福するように昇ってきた朝日が、赤下の顔を明るく照らしていた。

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