スタート

紅野素良

スタートライン

 高校卒業まで残り2ヶ月を切り、皆が残りの高校生活を謳歌しようとしている時期に、僕は1つのネットニュースを眺めていた。



『 高卒と大卒の収入についての違い 』



 大学生活。

 人生の夏休みとも言われている貴重な時間を僕は過ごすことができない。


 なぜなら………………




「おい、どうした?なんか元気ないな」

 呑気に声をかけてくるこいつは俺の幼なじみだ。こいつは中学生の頃から赤点ギリギリの点数を取り続けていて、卒業すらも危ういとされていた。しかし、推薦と言う制度のおかげで大学へと入学が確定した。なのでこいつも例に漏れずに浮かれているやつのひとりだ。


「いや、別に…………」


「そうか?それより聞いてくれよ、この前一人暮らしする予定のアパート見てきたんだけどさ、案外いい感じでさ、俺、大学生活が楽しみでたまんねーよ!」


 こいつは春から東京で一人暮らしだ。




 僕の方が学力は高いはずなのに。




「そうか、よかったな」


「でもさー、大学はちょっとめんどいかも。経済学なんて全然興味ないんだよねー。ま、東京で遊べるからいっか」


 こいつは学びたいこともないのに、大学に進学することができる。




 僕はまだまだ学びたいことがあるのに。





「はははは…………」



 僕には2人の弟と1人の妹がいる。両親は僕が幼い頃に離婚して、母が女手1つで養ってくれている。1人目の弟は野球が上手く、県内の強豪校に入学が約束されていて、将来有望だ。2人目の弟も頭が良く、将来は医者を目指すため猛勉強している。妹はまだ幼く、家に帰ると楽しそうに小学校であったことを話してくれる。

 ただ、やはり生活は厳しく、母も僕もバイトを掛け持ちして、日々生きていくのに必死だ。


 そんな中、大学進学なんてできるはずもない。


 せめて、弟と妹には自由に将来の夢へと進んで欲しい。そんな思いを秘め、卒業後、僕は県内の企業に就職する。



「もう少しで楽しい大学生活がスタートだ!」


 なにも知らないこいつは呑気でいいな。









 僕はスタートラインにも立てないのか。















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