第三章 ~『決勝前の準備』~


 沖田との戦いを終えて、現実世界に戻ってきた僕は、昼休憩が丁度終わったことを知る。剣道部の皆が集まる体育館へ向かうと、すでに部員たちは防具を身に着け準備していた。


「才谷くん、とうとう決勝戦が始まるね」


 部長の立川は感慨深そうに体育館の観客席に視線を巡らせる。そこには今までの戦いで敗れ去った生徒たちの姿があり、優勝するのがどの高校か決まるのを観戦していた。


「この戦いに勝利すれば、俺たちはこれだけ多くの剣士たちの頂点に立つことになる」

「なんだかワクワクする話ですね」

「やはり男なら頂点を目指さないとな」

「…………」

「今年こそは取りたいな、頂点」


 立川は拳をギュッと握りしめる。僕はそんな彼を尻目に、テキパキと防具を身に着けていく。


「さて今回の作戦だが……説明する前に改めてメンバー表を見て貰おうと思う」


 立川はメンバーの並び順を示す。先鋒が小泉。次鋒が大崎。中堅が杉田。副将が立川。そして大将が僕である。


「海王高校で怖いは怪物の藤田だけ。先鋒から副将までは小泉、お前なら倒せるな?」

「任せてください」


 僕は立川の狙いに気づく。海王高校の大将は間違いなく藤田だ。だからこそ立川は早々に彼を試合へと引きずり出し、体力を削ることで、大将戦の僕を有利にしようと考えているのだ。


「……ですが先輩たちがあの男の体力を削れるでしょうか」


 失礼だが実力差は歴然だ。一秒以内に倒されたのでは体力を削るどころの話ではない。


「才谷くん、男はね、数日あれば変われる生き物なんだ。剣道部員は皆、君が思っているよりも強くなっている。必ず一矢報いてみせるさ」

「立川さん……」

「それに俺たちは手の内を見せていない。さすがの藤田でも知らない相手と戦うのは恐怖があるはず。その緊張が彼の体力を削ることになる」


 人は未知に対して警戒心を抱く。得意な構えや得意な距離感が分かっていれば、その安心感からいつも通りの戦い方ができるが、知らない敵を相手する場合は探るような戦い方をしなくてはならない。


 もっとも相手に警戒心を抱かせるには、開始と同時の面打ちで敗れるような実力では駄目だ。少なくとも一撃を防御できる実力が必要だが、自信に満ちた部員たちの顔を見ていると、その心配は杞憂だと気づかされた。


「さぁ、戦いの始まりだな」


 試合開始時間になる。互いが向かい合って整列し、五対五の総力戦が始まる。大将である僕と藤田は正面にいる互いを見据えて、火花を散らすのだった。




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