第三章 ~『東京に戻ってきた二人』~
気を失った坂本は救急車で病院へと運ばれていった。僕は一人京都から東京へ帰り、自宅へと戻る。彼女のことが心配で家の中に籠っていると、僕のスマホに坂本からの連絡が届いた。
『昨日は倒れちゃってごめんね。私も東京に戻ってきたよ』
『もう大丈夫なの?』
『かかりつけの病院で謹慎中だから健康とはいえないね。当分、外出はできないかも』
僕はメッセージに目を通すと、罪の意識で心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
『病院へお見舞いに行ってもいいかな?』
『来てくれるの! 楽しみに待っているね!』
僕は坂本から訪れる許可を貰うと、自宅を飛び出し、彼女のいる病院へと向かう。
教えて貰った病院は僕の家から徒歩で十分もかからない位置にあった。丘の上に立つ病院は下界から切り離されたような存在感を放っている。
病院の受付で坂本の病室を確認し、廊下を突き進む。病室の前まで辿り着くと、ゆっくりと扉を開けた。白い壁に囲まれた個室で、窓から差し込む光に照らされた彼女の姿が僕の目に飛び込んできた。
「才谷くん、来てくれたんだぁ♪」
僕が来たことがよほど嬉しいのか、浮かんだ笑顔は夜空に咲く花火のように輝いている。
「ごめん。君が倒れるまで付き合わせたりして」
「才谷くんが謝ることじゃないよ。私から誘って、私が連れまわしたんだから」
「ただ謝らないと気が済まなくて」
坂本が重い病気だとは知っていたのだから、同行者である僕がもっと配慮すべきだった。謝るべきだと、僕は頭を下げる。
「才谷くん、君は何も悪くないよ」
「だけど……」
「だから私のこと嫌いにならないでね。私、才谷くんに嫌われたら生きていけないから……」
死が眼前へと迫っている坂本が口にすると、なんだか冗談には聞こえなかった。だから僕は彼女の不安を吹き飛ばすように、口角を大きく吊り上げる。
「坂本さん、今回のことで僕が君のことを嫌いになることはないよ。だって京都旅行、とっても楽しかったからね」
「本当に? 無理してない?」
「本当さ。龍馬のことは相変わらず嫌いなままだけどね」
「ふふふ、嫌いなのは変わらないんだ」
「僕が世界で一番苦手な男だからね」
「才谷くんらしいや」
坂本はクスクスと笑う。いつも通りの彼女が戻ってきた。
「今日は帰るけど、明日もまた来るよ」
「いいの?」
「いいさ。こう見えても僕は友人が少ないからね。何もすることがなくて暇なのさ」
「やったー♪ 私、才谷くんが来るのを楽しみに待っているね」
坂本は満面の笑みで僕を見送る。人から笑顔で送られるのは悪くない気分だった。
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