第12話優秀なチームメイト

ピーッ


「あー、もう終わりか。」


大会前練習試合

南高山小学校対箱田サッカークラブ


1-3


「これじゃああいつらに引き分けたのもわかるわw頼りの綱?にもなってなかったけどw高永ってやつがちょっと速かっただけだったなw」


「他はゴミだわ。あんなん俺らの足下にも及ばない。」


(そこに足を乗っけるなよ…!)


俺のチームメイトは腐っている。今だって、監督が丁寧に掃除してくれただろう白いベンチに、砂だらけの足を乗っけながら、相手を馬鹿にする発言を何度も繰り返して…。


どこまでも腐ってる。。


でも俺にとってこいつらはチームメイト。しかも、県ではトップクラスの実力を持っているチームメイト。それでも、将来有望なんてこいつらが言われる資格はないんじゃないか?


最後まで諦めずに走っていた南高山の選手を、こんなに声高に笑うこいつらを、なぜ将来有望という?有能という?おかしいだろ!


「マジあいつら滑稽だったなw」

「わかるわーw」


言うんだ、言わなきゃ!


「あれれ?慶介くんじゃん。今日はベンチ温めてくれてありがとうねーw」


「スポーツは、勝てば終わりじゃねえよ…。寧ろ、そっからだろ!」


「何言ってんのw勝てば全部解決だよ?勝って勝って勝ちまくれば、何やってもいいんだぜ?」


「スポーツマンシップも知らねえような奴らが勝てるわけないじゃん。」


「は?」


「勝てるわけねえって言ってんだろ!」


「何が言いてえんだか。事実だろ?勝てば誰も文句は言えねえんだ!なのに、そこにスポーツマンシップとかいるか?」


「いるとかどうとかじゃなくて、守るべきマナーだろ!」


「もうやばいって。監督に怒られるからさっさと帰ろうぜ。こんなやつ置いてこ」


「ざけんなよまじで。ペッ」


「うわ、」


幸一は俺の手を目掛けて唾をかけてきた。最悪だ。


マジで腐ってる。幸一だけじゃなくてチームメイトのほとんどが同じような性格なんだから…。


幸い、あいつらと帰る方向は逆だった。これで同じだったら終わってた。


「あいつら強かったなぁ。ふくなが。」


「…もう何も言わなくていいか?」


「やっぱ、俺がもっと幅広くパス出来なきゃダメだよなぁ。」


「ま、今日はお前だけじゃなくロストを多くしてしまった俺も悪かった。」


「ああ、それはお前が1番悪いわw」


「は??」


「自分で言ったんだろw」


帰りのベンチ。もう帰る時間なのにまだ話している声が聞こえた。


俺はなんとなく足を止めて、見つからないように屈んだ。


「それで?今回でわかったのか?あいつらとの戦い方。」


「なんとなくどうやったら突破できるのかはわかった。あいつらの弱点は、ミッドフィルダーだと思ってる。」


「でもお前のポジションだと関係なくね?」


「何言ってんだ、奪えばいいんだよ!俺も走るからお前も走れ!これをみんなに伝えろ!」


「極論…、だけどありだな」


(やっぱすげえ…こんなに分析してる。)


「カァー!にしても今日は悔しかったなぁ。」


「煽られたよな試合中…」


(あ…。やっぱり)


心がなんだか気持ち悪い。すっきりしない。モヤモヤ、ぐるぐる…。


「あの!すいませんでした!」


「…え?」


気付くと俺は話していた2人の後ろから謝っていた。


「スポーツマンシップ、もっと持つべきでした。」


あいつらに文句は確かに言った。でもそれは試合後の話で、試合中はあいつらに注意なんて1回もしなかった。


「大丈夫だよ!気にしなくていいんだ、勝てなかったのが悪い!」


「お?ふくなががまともなこと言ったw」


「…」


「ふくながさん!ありがとうございます!」


「あ…、俺ふくながじゃないんだよな、」


「え?へ?どいうことですか?」


「いや!こいつがふざけてるだけ!」


「はあ…?」


「よし!じゃあ俺たち帰るからさ、ありがとね!」

「無理やり進めやがって…」


「はい!ありがとうございました!」


「あざした!」


そう言うと、2人は荷物を持って走って行った。


「いい人たちだなぁ…。おかげでスッキリした。」


俺は昔から気持ちの整理が苦手だった。気に入らないことがあっても、怒れなかったり、辛いことがあっても涙が出なかったり。サッカーもたまたま才能があっただけで、別にあいつらほど上手くはない。たまたまなんだ、全部。


調子が上がらない時もあれば、上がったらとことん上がってしまって、いつもの自分ってのがよくわからなくなる。


変わった人間、気持ち悪い人間。


だからこそ、堂又あいつらに勝たなきゃ。


勝ってやる。俺は俺なりのやり方で、優秀なチームメイトなんて黙らせてやるよ…!!


─県大会当日─

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