第8話「憧れ」
「後半スタート!胸張って行ってこい!」
「あああっす!」
俺はたくさんの選手によって消えかけた白線を完全に消して、ピッチに入った。
「堂又くん。俺と交代っす」
「え?まじ!?もう交代!?もっとやりたかったわ。てか、大輔ってミッドフィルダー《真ん中》だろ?なんで、俺と?」
「すいません。俺がこのポジションどうしてもやりたいって頼んじゃって…」
「そういうことか!大輔すげえな!がんばれよー」
「うっす。」
エースに対してこの雑な会話、返事。これにはわけがある。俺はずっと別のことを考えていた。このウイングに入ってきた理由はあの人から…。あの、憧れから!
***
「君!もしかして、サッカー少年?」
「そうだ!どうだ?俺上手いだろ!」
「ふふん、お主はまだまだじゃな。」
「なに…!俺のこと舐めんなよ!ちょっと、身長高いからって…」
「ほら、ボール。やろうぜ、オフェンス、ディフェンス!」
中学校3年生の、超身長でけえやつが俺に勝負を挑んできたっ…!俺ってもしかして上手い!?認められてるんじゃね!!?
「はい、突破ー。」
あまりの驚きに俺は言葉を失う。俺は足の速さでは学年トップ。なのにも関わらずボールに触れることすらできなかった。まあ冷静に考えれば当たり前のことだが、俺はその圧倒的実力差を年齢と経験のせいにしなく、むしろ悔しさを真面目に噛み締めていた。
「どうだ?驚いたか?ちょっと大人げがなさすぎたかな。」
「にいちゃん…。ポジション、どこ?」
「ポジション?左ウイング。」
「君は?」
「ミッドフィルダーだよ。」
「なら守備頑張んないとさ!ていうか、萎えたりしないんだ…。しょうがないとかじゃなくて…。ひょっとして、真面目に悔しがってる?」
「静かにして!俺、今にいちゃんに勝つ方法考えてるからっ!」
「君、おもしろいなwなあ、今度県大会があんだけどよ、小学生は無料で見れっから、来てみない?」
俺の目線に合わせるように、しゃがんでそう言った。
「うん!行くよ!」
県大会までの毎日、当然、にいちゃんに勝つためにサッカーに全て費やした。何回もイメトレしたし、実際にドリブルの練習もして…
「さ、大輔くん。ドリブル見せてみてよ!鍛えたんでしょ?」
「今にみてろっ!今日こそ突破してやるからな!」
「うおおおおお!」
(タッチ、ボールの置き場所、完璧っ!突破ああああああああ)
「ひょいっと」
「雑魚だううううん!!」
「うっざ!中学生うっざ!」
「ごめんごめん、冗談冗談。」
今日もダメだった…。
今日こそは!
「よっと。」
「……クッソ。」
今日こそは!
「ふいっ」
「なっ、」
今日こそはあ!!
「ういっと、」
「クソ、なんで…そんなうめえんだ。何が違うんだ…。」
「年齢と、経験…。」
「にいちゃん。そんなの関係ないよ、俺はどんなに負けてもにいちゃんが負けるまで負け続ける!年齢が、経験が、それが原因で負けてるって思ったら本当に負けだから」
「大輔はやっぱすげえな。ポジティブおばけかよw」
「てか、にいちゃんも絶対に負けんなよ、県大会!俺の師匠なんだから勝ってもらわないと困るもん。」
「余裕だぜ、勝つよ!ていうか、いつのまに俺師匠になったんだよ。」
トーナメント1回戦ではにいちゃんは見事に守備を突破していた。しかし、2回戦の守備は1回戦よりも遥かに上手かった。にいちゃんは完封された………
今日こそは!
「やろうよ!にいちゃん、にいちゃん!」
「大輔、ごめんな。負けちまって」
「期待させといて、俺のせいだ」
「別にいいじゃん…1回負けたくらいさ!」
「ダメなんだよっ!」
声が…変わった?なんか、違う。
「俺もう3年なんだよ…。負けられなかったんだ。なのに、負けた。俺が足引っ張ったから!」
「……」
「今日こそ、今日こそは!って大会じゃな、出来ねえんだよ……何があっても90分なんだ。90分で勝負をつけるのがサッカーなんだよ。俺はそれが正しく出来なかった。」
「俺、こんなんだけどよ。やっぱりサッカー選手にはなりてえんだ。だから、夢に向かって名門クラブに入るために、都会に行くんだ。だからこそ、勝ちたかった」
「正しいとか、どうとか。そんなこと俺はにいちゃんより遥かに下手だから知らないよ。でも、にいちゃん。まだ終わってないよ、終わりじゃないから。だって、勝ちたかったんでしょ?それがある限り諦めてないってこと。本当に負ける時は勝ちたいって思わなくなった時だと思うもん!だから、まだ終わってない!」
「今日こそはって!言ってよ!俺は何度でも言う。勝ちたいもん!負けても負けても何回もやってやる、にいちゃんを突破してやる!」
にいちゃんでも突破できなったやつがいるなら俺なんてミジンコ以下だよ。でも、にいちゃん…。俺はいつかそれも超えてみせる。だから今は、また俺に勝ってくれよ!
「大輔…。こい!」
「今日こそはあああああああ!!!」
***
「なあ、下田。」
「なに、マサ。」
「あの25番確か、ミッドフィルダー登録だったぞ。なのに、なんでウインガーやってんだよ!しかも、ドリブル、うますぎだろ、」
「ああ、まあさすがにうちの
「いいや、そういうことでは無さそうだ」
「25番っ、新しく変わったウインガー!!かかってこいやっ!!」
「俺…、ミッドフィルダーだぜ?ういっと!」
「こっち、、いや、こっちか!」
「へっ、シザーズ《フェイント》だよッッッ!」
「ほらみろ、突破されてやんの。」
「うっそ……シザーズ使えんの?」
できたっ、できたぞ、にいちゃん。俺、勝てそうだ!!
今日こそは!入ってみせる!突破してみせる、ペナルティーエリア内に!!
「10番左ウインガー、柿沢、ここで新技、シザーズだあああああ!見事に突破、そして、」
にいちゃん。俺、にいちゃんになれたかな。
「シュートーーーッッッ!!」
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