第7話お前だけは

「おーい、高永ーもう喧嘩か?しかもチームでは比較的優しい方のマサと。」


「あいつ!絶対性格悪いって!俺あいつ嫌いだわ」


「うーんそんなこと言われてもなぁ。仲良くしてもらわないとチームが困るんだよ。」


「俺は!あいつのパスなんて受けない、いらない。俺は1人でサイドを突破してやる!」


***


はあ、はあっ。突破、突破しないと。点を取んないと!


「22番マークしなくて大丈夫だわ。あいつ、ただ突っ込むだけの脳筋だよw俺が全部止めてやるわw」


クッソ、クッソ!なんでこんなに思い通りになんねえんだよ。もっと早く!もっと裏に抜けて!イメージでは何回も成功できたのに…やっぱり突破が全くできない。でも…だからって、あいつのパスは絶対にもらいたくない!


突破してやる!


「またさっきと同じwずっと突っ込むだけじゃんw」


(股、空いてる!ここを抜けば進める…?道が見えたら、進めっ!!)


「う?あ?え?股抜き!?こいつ、ボールを間に通した?なんで…脳筋じゃねえのか!?」


「入れてやるっ、入れないと!あいつをあいつのボールだけはあいつのアシストだけは絶対に貰わない!」


「高永ッ!まだ打つな!こっち!フリーー!!!」


「うおおおおりゃあああああああ!」


ガアアアアンッ!


ゴールポストの鉄の音が俺の耳に届く、恐らくみんなの耳にも届いただろう。


「ゴールポストっ……なんでだよ。なんで入んねえんだ………」


チームのみんなが打ったシュートはすぐ入んのに、綺麗なのに。なんで俺のシュートはこんなにも入らないのか…

みんなのため息が俺の耳にだけ届いた。俺のドリブルも、シュートももうみんな誰も信頼なんてしてないような気がした。その後の試合の中でボールが俺に全く来なくなったのがそのいい例…


もう誰も俺にボールなんて、くれないよな。




「おい!ふくながああああああっ!走れっ!」


は?なんで…なんでお前がボールを俺に?


つうか、名前忘れたんかよあいつ!


あいつは一回、試合の中で俺にボールを預けた。だが結局は活躍ができずそのまま俺は後半で交代となってしまった。別にそれをおかしいとは思わなかった。だが、たった一つ、なぜ信頼できないはずの…しかも喧嘩中の仲も最悪の俺にあいつは俺にボールをパスしたのか。これだけは後半の時間をかけてもわからなかった。


「はあ…、あいつはフル出場か。俺は誰にも褒められねえし、なんなんだよ。」


結局フル出場を果たしたのはあいつだった。

そして、仲間から囲まれて褒められてるのもやはりあいつだった。分かってた、俺はなんの成績も残さずなんの戦術もなしで突っ込んでるだってことぐらいは。でも、それでも。俺も1回くらいみんなに

「すげえなお前!」って言われてみたいんだ…。


「高永。す、……げえな。」


「はあ、またあいつ褒められ、て。え?なに?は?え?」


「だから!あの股抜きのシーンすごかったって言ってるんだ、よ。お前、あの時はちゃんと頭使っててちょっとは良かった…ぞ。」


「……なんだよそれ。ちょっとってよ、」


「調子乗ん、」


「ぐっ、すっ、」


「は?は?なんで勝手に泣いてんだよ!きもちわりぃ!これだから脳筋野郎は!」


「マサ…」


「あだ名…!?」


「呼ばせて。マサって。マサ…俺にボールくれてありがとうっ、」



「あのな、よくわかんねえけどよ、俺は俺の仕事をやるだけだ。だから俺はミッドフィルダーで、お前に」


「俺をっ!なんの戦術もない、ただ突っ込むだけの俺を、信じてくれて、ありが、とう。」


「信じるって…俺は別にお前を信じてねえわ!俺は運悪く、超絶運悪くな?お前の仲間になっちまったんだよ!だから俺はお前が仲間だから!ボールをやるんだ!だから、お前は、もっと、もっと突っ込んで突っ込んで決めろよ!」


「ぐす、うっ。うっ、ん。決める、何回も決めるっ」


「たくっ、ほら早く帰るぞ!」


***


ピーッ。


0-1 南高山小学校 


「監督。前半終了っすね。」


「ああ、トイレは大丈夫か?大輔くん。」


「はい!」


「なら、早いかもしれないがアップをしておいてくれ。前半が終わったら堂又左ウイングを変える。」

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