第6話走るだけの脳筋野郎

「みんな!この声で聞こえてるか?」

「あいっ!!!」

「よし、それじゃあ…」


今日は俺が監督になってから初の練習試合。しかも相手はいきなり中堅から強豪あたりの実力のあるチームだ…。でもだからこそ、蒼の鼓舞がかなり大事だ!


「新監督初の練習試合、みんな!絶対に勝つぞ!見せてやろうあいつらに…舐めんなって言ってやろう!そんじゃ、せーの!」


「うああああああいっ!!!」


(なんか…前監督の指導なのかなんなのかやっぱテンション高ええええ…大人の俺が普通に声量で負けてるわ)


「監督、お願いしゃっす!」

「お、ベンチ組か!後半から出す可能性が高いからみんなよく準備しておくんだぞ!」

「うえっす!」


ピーッ!


「ホイッスルか…。試合、」


「かあああいしいいいい!!!」


「ああ、みんなそれ言うんだ…。」


(さて、まずはあっちボールからのスタート。奪わないと…)



「誠!」

「はい!キャプテン!」

「試合中くらい敬語じゃなくていいぜ?まあとりあえず聞いてくれ。俺たちはできるだけボールをギリギリまで取らない。なんならむしろゴールに入れられてもいいくらいだ。わかるな?いつもの作戦で行くぞ?」

「うっす」


トントンっ


「相手の11番はっや!!!嘘だろ!」

「誠!大丈夫、絶対止められるさ!」



「監督、相手の11番やばそうっすね」

「ああ。」


(相手の11番、堂又と同じ左ウイングが主戦場か。ん!?いや、違う!?)


「中央!ガラ空きっ!」


(サイドバックを避けて一気にペナルティーエリア内へ?もうあっちゅう間にゴール前じゃねえか!てっきりウイングって中央にいるセンターフォワードにアシストするものだと…)


「おりゃあああああっ!」


「がっ!ああ」


11番、高永たかなががキーパーの前へと来たとき、すでにセンターバックの2人に近付かれていた。だが、そのセンターバックの足にボールをあえて当てることによって高永のシュートはキーパーの予測した方向と真逆の方向へと飛ぶ。


「よし!!!まず1点っ!!!」

「おおーよくやったぞ高永ー。」


「げっ、あんま嬉しくなさそうだな…完全に舐められてるし!!」

「みんな、一旦落ち着いていこ。いきなり入れられたのは確かに俺も驚いたけど大丈夫!ここからがこの戦術の醍醐味でしょ?」

「うっす!」


「おい!高永。お前いきなり相手に本気でドリブルして…お前マークされたらどうすんだよ。そこんとこちょっとは考えろ!」

「なんで怒るんだよマサ。俺が今1点入れたのは事実ですけど!」

「別に怒ってねえよ、ちょっとチームが心配なだけだわ」

「ならいちいち言うなし!」

「は??」

「やっぱ怒ってんじゃん!!!」


……


小学校に入って最初に感動したのは、サッカー部があったことだった。てっきり地域のスポ少とかそういうのに入るしかサッカーをやる方法はないと思ってた。だから、入った当初は毎日が本当に楽しかったのを覚えている。

……だけど2年生の確か夏だったかな。脳筋野郎の高永ってやつがうちのサッカー部に入ってきやがったのは。


「お前さ!ただまっすぐ走るだけでなんの戦術もないし、監督の指示もまともに聞かねえでボールロストしまくって…何してえんだよ!!」

夏の合宿があって、その時の練習試合で何回も高永が同じミスをしまくった時、俺は早くも限界を迎えてしまった。

「お前だって、ミッドフィルダーのくせになんもしてねえじゃん!守備サボってんじゃんか!それに俺には俺の考えがあってやってんだわ!お前に言われる筋合いはないね!!」


「もういいよ!」


俺はそう言って自販機の横にあったペットボトル専用のゴミ箱に天然水のペットボトルを勢いよく捨てて高永を避けるように廊下を走って自分の部屋へと向かった。

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