第2話
私は、ぎこちない笑みを浮かべながら挨拶を交わした。そんな私を他所に、ヴィルフリート様はアリスさんとアルフォンス様にも声をかけていた。「アリス嬢とアルフォンス殿も、おはよう」しかし、彼女は私を見つめたまま返事を返さず、それどころかさらに強く手を握り締めてきた。
そして私は助けを求めるようにアルフォンス様とヴィルフリート様を見たのだが.............二人とも完全に固まってしまっているようで全く使い物になりそうもない.............もうどうしたらいいのよ!?私が頭を抱えそうになったその時だった。
そんな私に、救世主がやってきたのだ。
「皆さん、席に着いてくださいね。授業を始めますよ」
チャイムと同時に教室に入ってきたのは、学園長だった。
助かった..............。私は安堵の息を吐く。
皆は、学園長の号令で各々席に戻っていった。
アリスさんも手を離してくれたので、私は安心して授業の準備に取り掛かることにした。
授業が始まってからも、アリスさんは私の様子をちらちらと窺っているようだったが、あえて気付かないふりをした。
しかし、その後も彼女はどこか落ち着かない様子だったため、ついには私の方から話しかけることにした。「あの..............、アリスさん、どうかなさったのですか?」私が尋ねると、彼女は少し躊躇った後で口を開いた。「昨日、ヴィルフリート様と何かありましたか.............?」突然の不意打ちな質問に動揺しつつも、平静を装って答える。「え?いえ特に何もありませんでしたが.............。」
すると彼女は少し考え込んだ後で言った。「そうですか..............わかりましたわ」そう言って微笑む彼女の瞳の奥にある感情を、この時の私は読み取ることができなかったのだった。
「リーゼロッテ様、一緒にお昼を頂きませんか?」
授業を終えて教室を出たところで、アリスさんに声をかけられた。断る理由もないし了承しようと思った時、ヴィルフリート様とアルフォンス様が近付いてきた。
そして、そのまま私たちの会話に割り込んでくるようにして口を開く。
「君たちが良かったら、今日は俺たちも一緒に食事を共にしたいんだけど、どうかな?」アルフォンス様がそう言うと、ヴィルフリート様もそれに頷いた。
二人に詰め寄られた私は困り果ててしまった。どうしよう、今日はアリスさんと二人でお昼を食べるつもりだったんだけど.............。ちらりと彼女の方を見ると、彼女は少し不満そうな顔をしていたが、それでも私の返事を待っているようだったので仕方なく了承することにした。
三人で庭園まで移動すると、私たちはそれぞれ食事の準備をして席についた。
しばらくすると、アリスさんがぽつりと呟いた言葉を聞いて私は目を見開いた。
どうやら、彼女は私と一緒に帰りたかったようなのだが、途中で私をヴィルフリート様が送っていくことになったことを、気にしているようだった。
アルフォンス様も、どうやらアリスさんに同意見らしい。
でも二人ともそんなこと言われても困るよ...........。私が返事に困っていると、今度はヴィルフリート様が口を開いた。
「大丈夫だ。2人で夕焼けを見ていたんだ。」思わず言葉に詰まってしまった私を見て、ヴィルフリート様がすかさずフォローしてくれた。
「ヴィルフリート様!羨ましい限りですね!!!」そう言って、咎めるようにヴィルフリート様を睨みつけるアリスさんを見て、私は内心ひやひやしていた。彼は頼りになる人だ。
その後も三人で色々と話し合った結果、私は久しぶりに一人で帰ることにしたのだった。
(でも、これで良かったんだよね?)私は自分にそう言い聞かせると、帰り支度を始めた。
そして教室を出てしばらく歩いたところで、不意に声をかけられたのである。
「リーゼロッテ嬢!」振り返るとそこにいたのはアルフォンス様だった。
驚いて立ち止まると、彼はこちらに向かって歩いてくる。
「これから帰るのだろう?一緒に帰ろう」そう提案されてしまい、断ることもできずに頷くことしかできなかった。仕方なく隣に並んで歩きながらも、私は気まずい思いをしていた。
(一体何の用なんだろう............?)
しばらく沈黙が続いた後で、アルフォンス様が口を開いた。「............少し寄り道して行かないか?」「寄り道、ですか.............?」私が首を傾げると、彼は微笑んで頷いた。
そして歩き始める。
一体、どこに向かっているのか分からなかったけれど、私はアルフォンス様と一緒についていくことにした。しばらく歩いた後、辿り着いた場所は町外れの高台だった。見晴らしの良いこの場所からは遠くまで見渡すことができるようだ。「ここは...........?」私が尋ねるとアルフォンス様は微笑みながら答えてくれた。
「私のお気に入りの場所だ」そう言って私を見つめる彼の目にはなぜか熱が籠っているように感じられて少し落ち着かない気持ちになった。
私が困惑していると、アルフォンス様が不意に手を差し出してきた。「ここからは危ないから、私の手を取って歩こう。」その言葉を聞いた途端、心臓が早鐘のように鳴り響き始める。
どうしよう!どうしたらいいの!?パニックに陥りながらも私は恐る恐る手を伸ばし、彼の手を握ったのだった。
アルフォンス様に手を握られて、ドキドキしていた私だったが、やがて彼がゆっくりと歩き始めたので私もそれに倣うことにした。そして無言のまましばらく歩き続けた後、突然立ち止まった彼はこちらを振り向いた後で言った。
「リーゼロッテ嬢、君に伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるかい?」真剣な眼差しで見つめられると、心臓が飛び跳ねてしまいそうになる。私は緊張しながらも、こくりと首を縦に振った。すると、彼は安堵したように息を吐き、そして静かに語り始めた。
「私はずっと君のことを見てきたが、君はいつもアリス嬢のことばかり見ていたね.............私の存在など眼中にないようだった」
そこで言葉を区切ると、彼は悲しげに目を伏せた。そんな仕草に、胸が締め付けられるような痛みを覚えると同時に、罪悪感に苛まれる。
「あの、アルフォンス様................?」
私が恐る恐る声をかけると、彼はハッとしたように顔を上げてこちらを見つめてきた。そして再び話し始める。
そして再び話し始める。「だが今は違う。君の視界には、私が映っている。」「.................っ」
突然のことに動揺しながらも、私は何とか言葉を絞り出すようにして尋ねた。「アルフォンス様?それってどういう..............」すると、彼はさらに距離を縮めてきて、真剣な眼差しで見つめられた。
「リーゼロッテ嬢、君のことが本気で好きだ」そう言って私の手を取ったまま、跪いたアルフォンス様は、じっとこちらを見つめている。
私はどうしたらいいのかわからずに、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「あの、アルフォンス様.............?えっと............その...........」私が言葉に詰まっていると、彼はゆっくりと立ち上がり口を開いた。「返事はいつでも構わないよ」そう言って微笑んだ後、彼は背を向けて歩き出したのだった。
(どうしよう!)
私は一人取り残されたまま、立ち尽くしていた。頭の中には、アルフォンス様の言葉が何度も響いている。
(私のことが本気で好きって言ってくれたんだよね..............?)
ドキドキと心臓が早鐘を打っていて苦しいくらいだ。頬が火照っているのを感じる。
(でも、どうすればいいの.............?)
私は自分の感情を持て余していた。
そして、高台から降りていき通学路に戻った。
とぼとぼと歩いていると「リーゼロッテ様..............?」とアリスさんに声をかけられたことで、我に返った私は慌てて返事をする。「えっ?あ、はい!」「どうかしたのですか?」心配そうな表情を浮かべるアリスさんに首を振って答えた後、私は話題を変えることにした。
その後は、いつも通りの他愛もない会話が続いたのだが、アルフォンス様のことが頭から離れずにいる私だった..............。
家に帰ってからも、悶々と考え込んでしまい夜もあまり眠れなかったくらいだ。
(アルフォンス様が私を.............あの告白は、嘘じゃなかったのね)
思い出すだけでも、ドキドキしてしまう自分がいる。でも、本当に?夢じゃないんだよね..............?不安な気持ちに襲われつつも、私はなかなか眠れずに一夜を過ごしたのだった。
(ああ............ダメだ...........)寝不足で頭もぼんやりしているし、身体の調子も良くない気がする。完全に体調を崩してしまった私は、何とかベッドから這い出したものの、立っているのもやっとの状態である。
「リーゼロッテ様、今日は学校をお休みになられた方がよろしいかと存じますが.............」
心配そうに私の顔を覗き込むアリスさんに向かって、私は曖昧に笑って見せた。「いえ、大丈夫ですわ。少し休めば良くなると思いますから.............」そう言って立ち上がろうとしたものの、足元がふらついてしまった。「危ない!」倒れそうになったところをアリスさんに抱き止められたことで何とか事なきを得たものの、結局ベッドに連れ戻されてしまうことになったのだ。
「..............リーゼロッテ様」私を見つめるアリスさんの瞳には心配の色が浮かんでいる。私は苦笑しながら口を開いた。「ごめんなさい、あなたに迷惑ばかりかけてしまって..............」
私が謝ると、彼女は首を横に振って言った。「迷惑なんてそんなことはありませんわ。それより、何か欲しいものはありませんか?遠慮なくおっしゃってくださいね」そう尋ねられたものの、特に思いつくものはなかったので、私は首を横に振った。
「そうですか..............」彼女は少し思案した後で再び口を開いた。「では、今日はゆっくりお休みになって下さいませ」そう言い残して部屋を出て行った。一人残された私は、ベッドの上で天井を見上げていた。
(それにしても、どうして急に体調を崩したのかしら...............?)心当たりがないわけではないが、とりあえず今は何も考えたくないと思い、目を閉じることにした。
やがて訪れた睡魔に身を任せていると、いつの間にか眠ってしまっていたようで、次に目を覚ました時には窓から差し込む光が、茜色に変わっていた。
どうやら、かなり長い時間眠っていたらしい。
体調の方も少し楽になったような気がするし、これなら学校に行けるかもしれないと思い、立ち上がろうとした瞬間、再び視界が歪むような感覚に襲われた私は床に倒れ込んでしまった。「う...............」情けない呻き声を上げながら、私はその場に蹲っていた............。
しばらくしてようやく動けるようになった私は、ゆっくりと立ち上がったものの、まだ足元がおぼつかない状態だった。それでも何とか着替えを済ませて、部屋を出たのだが.............玄関ホールにはアリスさんが待ち構えていた。
「リーゼロッテ様!?どうか安静にしていてください!」私の顔色を見たアリスさんが、血相を変えて駆け寄ってきた。「もう大丈夫ですわ」そう言って彼女を安心させようと微笑むと、彼女は少し不満そうな表情を浮かべたものの、渋々といった様子で引き下がってくれた。「何かあったらすぐにおっしゃってくださいね」念を押すようにそう言うと、彼女はお辞儀をして去って行った。
学校には何とか間に合ったものの、授業の内容はほとんど頭に入ってこなかったし、お昼を食べる元気もなかったので、私は鞄を持って教室を出たのだ。
(早く帰ろう..............)そう考えて足早に廊下を歩いていると。後ろから声をかけられた。振り向くと、そこにはアルフォンス殿下が立っていた。
私を見た瞬間、すぐさま駆け寄ってくれたのだ。そして私の腕を掴むと、そのまま歩き出した。「あの、アルフォンス殿下?」私が戸惑いながら声をかけると、彼は足を止めて振り返った後、口を開いた。「顔色が悪いね.............体調でも悪いのかい?」
私は否定しようと口を開きかけたものの、すぐに閉口した。このまま誤魔化したところで、無駄だと思ったからである。「実は昨日から体調が優れなくて..............」私が正直に答えると、彼は眉根を寄せて言った。「それなら尚更早く帰った方がいいだろう?家まで送るよ」
有無を言わせぬ口調だったので、私は大人しく従うことにした。
家に着くまでの間、会話は無かったのだが、沈黙が気まずいと思うことはなかった。むしろ、心地良いとさえ感じていたくらいである。「名残惜しいけれど、それでは私は失礼するよ」家の前についたところで、アルフォンス殿下は微笑んで言った後立ち去ろうとしたが、私は思わず彼の制服の裾を掴んで、引き止めてしまったのである。
「え..............」自分の行動に驚きつつも、すぐに手を離そうとしたけれど、彼はそれを許してくれなかった。
それどころか、逆に私の手を取り握りしめてくる始末である。
「どうした?何か辛いことでもあるのかい?」心配そうに見つめてくる彼に、慌てて私は言った。
「あ、えっと、胃に優しいものが食べたいです!ゼリーとか..............」
それを聞いた彼は、微笑みながら「分かった、用意するよ。キッチンを借りさせてもらうよ」と言って、屋敷に入って行った。私はその後ろ姿を見送ってから家に入ったのだが..............すぐに後悔することになった。
(あんな恥ずかしいことを言ってしまった............!)
悶々としていると、しばらくしてドアをノックする音が聞こえてきたので、慌てて姿勢を正した。
入ってきたのはアルフォンス殿下だった。彼はトレイの上に小さな器を乗せていた。「リーゼロッテ嬢、こちらをどうぞ」差し出された器に入っていたのは果物をすりおろしたものに蜂蜜を加えたゼリーだった。
甘くて優しい味がして、とても美味しい............。私がスプーンを口に運ぶ度に、彼は嬉しそうに微笑んでいた。「食欲があるなら安心だ」彼はそう言ってその笑顔を見ると、私も嬉しくなると同時に胸が締め付けられるような痛みを、覚えた。
それからしばらく後、私は自室で休んでいたのだけれど、いつの間にか寝てしまっていたらしく目を覚ますと窓の外はすっかり暗くなっていた。
起き上がって時計を見ると、時刻は午後10時を過ぎていることが分かったのだが..............それだけではない。アルフォンス殿下がベッド脇の椅子に腰掛けていたのだ。
彼は私が目を覚ましたことに気づくと、ほっとした表情を浮かべてから言った。「具合はもう良いのかい?」私がこくりと頷くと彼は安心したように息を吐いた後、私の手をそっと握った後離そうとしなかったのである。
(................まさか、こんな時間まで一緒にいてくれたの?)
そんな言い方をされて断れるはずもなく、結局私は彼が帰るまで一緒に過ごすことになったのだった。
翌朝目が覚めると、既にアルフォンス殿下の姿はいつの間にかなかった。枕元の時計を見ると、時刻は午前7時30分を指していた。
支度を済ませた後、朝食を食べようと、リビングに向かう途中でアリスさんとすれ違ったのだが、彼女は何かもじもじと何かを言いたげな様子だったので、どうかしたのか尋ねようとしたところで、先に彼女の方から話しかけてきた。「あのっ!リーゼロッテ様..............!」
彼女は意を決したかのように口を開いた後、深呼吸をしてから続けた。「リーゼロッテ様、昨日アルフォンス殿下がいらしていたのですが、本当ですか!?」
私は思わず固まってしまった。
まさか昨日の看病を見られていたなんて。
恥ずかしさのあまり顔が熱くなるのを感じたけれど、何とか平静を装って答えた。「えぇ.............ありたがいことに、お見舞いに来てくださったのよ」私が答えると、彼女は納得がいったような表情で頷いた後、満面の笑みを見せた後で深々と頭を下げてきた。
その後、朝食を食べ終えて学校へ行く準備をした後に通学路を通っていると、既にアルフォンス殿下の姿があったため慌てて駆け寄った。
昨日のお礼と謝罪をするつもりだったのだが、彼は私の顔を見た瞬間驚いた表情を浮かべた後で優しく微笑んでくれたのだ。
「おはよう、体調はもう大丈夫なのかい?」
アルフォンス殿下は心配そうな表情を浮かべながらそう尋ねてきたので、私はこくりと頷いて答えた。「はい............おかげさまで良くなりましたわ」私が答えると彼はほっとしたように胸を撫で下ろした後、続けて言った。「それは良かったよ」彼の言葉を聞くだけで、胸が高鳴るのが分かったが、それと同時に少しだけ不安が込み上げてきたのも確かだった。
何故なら昨日の出来事は全て夢ではなかったことの証左であるからだ.............。
(でも、もしかしたらあれは現実だけど、私の願望通りだったわ)
そんな風に自分に言い聞かせて、改めてお礼を言った。
「本当にありがとうございました、またお礼をさせてください!」
そう言って頭を下げると、彼は一瞬戸惑ったような表情を見せた後で微笑んだ。「お礼なんて必要ないよ。君が元気になってくれただけで、十分だからね」
その優しさに触れつつ、私は次に会う約束を取り付けようとしたのだが、残念ながらその日は急な用事が入ってしまい叶わなかったのである。
(はぁ、結局何も出来なかったな...............)
自分の不甲斐なさを嘆きつつ、溜息をついていると、アリスさんがやってきて言った。「どうかされましたか?」彼女は首を傾げながら、私の顔を覗き込むようにして見てきたので、慌てて首を振った後で見せた。
「いえ、何でもありませんわ」そう答えて誤魔化そうとしたけれど、アリスさんはますます怪訝そうな表情を見せるばかりだった。
「リーゼロッテ様、何か悩み事があるのでしたら遠慮せずにおっしゃってくださいね?」心配そうにこちらを見つめてくる彼女に、私は少し躊躇いつつも正直に話すことにした。すると、彼女は真剣な表情を浮かべて言ったのだ。「なるほど............それでしたら私でよろしければ力になりますよ」私は迷った末に、思い切って相談することにしたのである。
それから数日間は何事もなく過ぎていったのだけれど、ある日のこと................。
その日は文化祭が開催された。
数々の露店や出し物を見て回った後、アリスさんの執事喫茶に立ち寄ってみたのだ。
店内はお客さんでいっぱいだったので、入るのを躊躇っていると、「いらっしゃいませ、お嬢様」と声をかけられたのでそちらを見ると、そこにはアリスさんが立っていた。彼女は満面の笑みを浮かべながら私の手を取ると、店内へと案内してくれた。席に着くと、すぐにメニュー表を手渡され、私はそれを眺めつつ何を頼むか考えていたところ.............唐突に声をかけられたのである。
「リーゼロッテ様、来てくださったのですね!」
イケメン執事のアリスさんは、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねていた。
笑ったらもっと美しい顔を引き立たせるわね...............眩しいわ。
「アリスさん、その衣装とても似合っていますわ」そう私が褒めると、彼女は微笑みながら言った。
「ありがとうございます!実はこの執事服はアルフォンス殿下がデザインしてくださったものでして.................」
アルフォンス殿下が!?あの方、手先も器用なのね...........すごいわ。
照れたような彼女の姿を見ながら、私はアルフォンス殿下のことを考えた。
彼は、今頃どうしているのだろうか...............?もしかしたら他の女子生徒と楽しく過ごしているのかもしれない.............そう思うと、胸がチクリと痛んだような気がしたけれど、気づかないふりをして話題を変えたのだった。
「それより、せっかくですから何か注文しようと思いますわ」
私が言うと、彼女も頷いて答えた後に尋ねてきた「何になさいますか?」
私は少し考えた後でこう答えた。
「じゃあ、紅茶とクッキーをお願いしますわ」
彼女が注文を取り終えるのを確認してから私は店内を見回した。
すると、そこには見慣れぬ男性の姿があったのだ!彼は私に気付くなり笑顔で手を振ってきたため、私も手を振り返すことにしたのだけれど...........一体誰なのかしら..............?どこかで会ったことがあるような気がするのだけれど、思い出せない。
(でも、きっと気のせいよね)そう思いながらもなんとなく気になってしまい、チラチラと視線を向けていると不意に目が合ってしまい、慌てて顔を背けてしまった。
その様子を不思議そうに見ていたアリスさんに「お嬢様、大変お待たせいたしました。.............シャーロット様、どうかなさいましたか?」と尋ねられたので、私は慌てて取り繕った後、何でもないと答えたのだけれど、内心では気になっていることがあった。
(あの人............本当に、どこかで会ったことがあるような気がするのよね)そんなことを考えながら、考え込んでいるうちにいつの間にか時間が経っていたようで、注文した品がテーブルに運ばれてきた時には、文化祭が終わる頃となっていた。名残惜しいけれど、そろそろ帰ろうかなと思っていたところ、アリスさんが話しかけてきたので耳を傾けることにした。
なんと、彼女はまだ仕事が残っているから、一緒に帰れないと言ってきたのである。
「あら、そうなの?残念ね...................」私が落ち込んでいると彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべた後で続けて言った。「ごめんなさい、でも今度一緒に帰られる機会があったら是非ご一緒しましょう!」そう言って微笑む彼女を見て、私は思わずドキッとしたけれど、何とか平静を装って答えることができたので安心したわ。
その後は、アリスさんと別れて帰路についたのだけれど、帰宅してもまだ心のモヤモヤが消えずにずっと考え事をしていたせいか、なかなか眠れぬ夜を過ごすことになったのであった...............。
翌日の夕方、私は気分転換も兼ねて王都の街へ出かけることにした。大通りを歩いていると、前方から見覚えのある人影が歩いてくることに気付いた。
その人物は、私に気付くなり駆け寄ってきて声をかけてくれたのである。
「リーゼロッテ嬢!」
それは、アルフォンス殿下だったのである!
まさか会えるなんて思ってもいなかったので、驚いてしまったものの、嬉しくなって思わず飛び上がりそうになったところを、グッと我慢して平静を装うことに成功した私である。「アルフォンス殿下..............、お久しぶりですわね!」私が言うと、彼も嬉しそうに微笑んだ後で言った。
「もう体調は大丈夫なのかい?」彼が心配そうな表情を浮かべるのを見て、嬉しさを覚えたけれど、私はあえて平静を装って答えることにしたのだった。「えぇ、すっかり良くなりましたわ」そう答えて笑顔を見せると、彼も安心したようだった。
それから、しばらく彼と話をしながら歩いていると、不意に彼が立ち止まったので、私も立ち止まって首を傾げたのだけれど.............。
彼の視線の先を見上げると、外壁には可愛い装飾が施された、クレープ屋があった。
どうやら興味を持ったらしい彼は、期待の眼差しを向けながら私に尋ねてきた。「リーゼロッテ嬢はクレープ好きかな?」私は素直に頷き答えることにした。
すると、彼は満面の笑みで私の手を引っ張って走り出したので、私は慌ててついて行ったのだが.............やがて一つの店の前で立ち止まったかと思うと、看板を指差して言ったのである。「これとかいいだろう」
彼が指差した先にある文字を読んでみると、そこには『特製イチゴクレープ』と書かれているのが分かった!
私は、はしゃぐアルフォンス殿下が可愛らしくて思わず笑ってしまいそうになった。
「分かりましたわ、では行きましょう!」そう言って店内に入ると、席に案内されたので早速注文することにした。しばらくして、運ばれてきたクレープを見て目を輝かせる彼を見て、私まで幸せな気分になった。
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