まさか乙女ちっくな従者に愛されるなんて!
スカイ
第1話
「リーゼロッテ様! お慕い申し上げております!」
学園に登校してすぐのこと。私............リーゼロッテ・モナールは、朝から熱烈な告白を受けていた。
相手は.............私の従者の、アリスさんである。
彼女は所作から美しく、よく手入れが施された艶のあるブロンドの長い髪の毛に、深い緑のギンガムチェック柄のワンピースが、とても似合っている。
「えと、あの............っ?!」
さすがに、彼女くらいの年齢の方に迫られると戸惑いが先に立つ。私は、視線をさまよわせながら困惑の声を上げた。
そんな私に気づいたのか、アリスさんは一歩下がり優雅にお辞儀をする。
「失礼いたしました。私ごときがリーゼロッテ様に恋情を告げるなど、身の程知らずにも程がありますわね..............」
「れ、恋情!?」
私は驚愕の声を上げる。
そんな私を、優しく諭すようにアリスさんは告げる。
「私はずっと............この感情を抑えてきました。それが、リーゼロッテ様のお望みだと知っていたからです。そして、大切なあなたを困らせないために............。」
..............いやいや待って! 私の希望とかじゃなくてね? ああもう! 何がなんだかわからないよ!
「ですが、仮とは言えど先日のご婚約発表...........さすがにもう我慢ができなくなってしまいまして............。」
頬を染めて恥ずかしげに俯くアリスさん。
いや待って! それって乙女の恥じらいとかいうやつですよね! 私相手にどうしてそんな!?
ま、まあ、私としても素直な好意を向けられると、ちょっぴり嬉しいけれど............!!
「リーゼロッテ様の望みとあらば、私はどんなことでもいたしましょう。ですから、どうかお側においてくださいませ」
わああもう、すっごく誤解されてるー!!
いやまあ確かに、アリスさんの見た目は超絶美少女だけどさ! 野薔薇のように美しいけれど...........。
わたしに恋をするって、本当のことなの!? ..............と、言いたいところだけど...........今はアリスさんをどうにかするのが先決だよね。うん。
「えっと、アリスさん.............」
「はい」
私の呼びかけに顔を上げたアリスさんの瞳を見つめ返しながら告げる。
「私には婚約者がいますから、アリスさんのお気持ちには応えられません」
「.....................」
沈黙するアリスさん。彼女の瞳には絶望が宿っているように見える。ああ...........そんな顔をされると辛いのですが............。
私はアリスさんの手を取って告げる。
「..........だから、どうか私のことを諦めてくださいまし」
「................はい」
少し涙ぐんだような声色をアリスさんから感じとり、私も思わず泣きそうになった。
なんかしおらしい返事きたー!
.............ちょっと可愛いと思っちゃったけど、危ない危ない.............っ。
私がそんなことを考えてると予鈴の鐘の音が聞こえてきた。
あ、急がないと!遅刻しちゃう!!
「ほら、遅刻しちゃいますから、早く教室に行きますよ!」
私は、アリスさんにそう伝えて教室へと急いだ。
手を引っ張った際に、アリスさんの手の温もりが伝わって、私も体中が熱くなった。
..............これは決して、恋愛的なときめきとかそんなんじゃなくって!!
「はぁ.............」
私はアリスさんに聞こえないようにそっと溜息をつく。
ここは魔法学園。少年少女達が通う特別な学び舎である。かくいう私もとある事情でこの学園に通っているのだけど、私こと『リーゼロッテ・モナミ』の役回りは悪役令嬢なのだ。
ちなみにこの役割には、いくつかパターンがあるようで.............。
1つは私が乙女ゲームのヒロインになるというストーリー?
最後に、私の役回りはとある王子ルートの悪役で、アリスさんはその攻略対象だというパターンがあるらしい?
とりあえず、私にはどれも当てはまらないので安心しているけど.............。
「リーゼロッテ様?」
「............っ! あ、ごめんアリスさん.............」
いけないいけない。今は授業に集中しないとね!
「えっとじゃあ今日の授業ではこの術式についてやりますね」
先生にそう促され、私はノートに術式の魔法陣を描きはじめた。
アリスさんはというと.............熱心に私を見つめている。何かおかしなところでもあったのかな.........? 授業が終わると、アリスさんはすぐさま私の側へやってきて跪く。
「リーゼロッテ様、貴女にずっとお仕えします」
...........ああ、またこの展開ですかそうですか........。
さすがにもう慣れたけども。っていうかもうこれ何度目よ!?
「だからあの、アリスさん。何度も言ってるけど私は..............」
「わかっています。リーゼロッテ様のお気持ちは承知の上で、申し上げておりますわ」
とてもいい笑顔で宣言されても困るのですが..............。
私がどう断ろうか考えていると、突然数人の生徒に囲まれてしまう。その中心にいたのは、件の攻略対象キャラだ。
彼は私のクラスメイトである。名前は『アルフォンス・ダナー』という。
ウェーブのかかったブロンドに優しそうな垂れ目が特徴的だ。
「あ、あの!」
「アルフォンス様! どうか私の想いを聞いてくださいませ!」
女子生徒に告白されているところを見てしまい、気まずい気持ちに陥った。
隣にいるアリスさんはというと、楽しそうに見つめていた。
「あ、アリスさん...........その、なんかごめんね..........」
「いえいえ。リーゼロッテ様がお気になさることではございませんわ」
笑顔でそう返されては、逆に困ってしまうのだけど。
そんなやり取りをしているうちにも、女子生徒はアルフォンス様に告白を続けていた
。ほんとごめんなさいね.........とか思っていたら、ふと私のほうに視線を向けるアルフォンス様と目が合った。
彼は、こちらに向かって歩いてくる。え、なになに..............?
「君に言いたいことがあるんだ」
私は戸惑いながらも、話を聞くことにした。すると、アルフォンス様は信じられないことを口にしたのだ。
「君のことが好きなんだ」
「はい...............?」
いやちょっと待って! なんでそんな話になったの!? 私が混乱していると、アリスさんが「あらまあ」と呟く声が聞こえてきた。ちょ、ちょっとなんでアリスさんは冷静なのよ!?
ってそうじゃなくて! ああもう、頭がこんがらがってきた!
そんな私をよそに、アルフォンス様は真剣な表情で言葉を続ける。
「君のことを、もっと知りたいんだ」
困惑していると、隣にいるアリスさんが私の目の前に立ちはだかった。
「私もリーゼロッテ様をお慕いしているのです。」
え、ちょ、アリスさんまでどうして!?
「でも、貴女のお気持ちも分かりますわ............-。ですからリーゼロッテ様」
「へ!?」
突然、話を振られて変な声が出てしまう。い、いやどういうことなの!?
「お気持ちは嬉しく思いますが...........」と口ごもっていると、2人は期待の眼差しを向けてきた。
いや、ここで何を言えば正解なのよー!?
「あの、ええと............?」
私が戸惑っていると、アリスさんが口を開いた。
「お返事、お待ちしておりますよ」
アリスさんは、そう言って微笑んだ。そして、アルフォンス様も同様に言葉をかけてくる。
「返事はいつでも構わないから、考えておいて欲しい」
私は、何も言えずに俯くしかなかった。
アリスさんはというと、なぜか機嫌良さげに鼻歌を歌いながら歩いているし.............もうなんなのこの状況............!?
そんな私達の様子を、遠くから見つめる影があったことに気がつくことはなかったのである。
翌日、私は一人で学園までやってきた。というのも、昨日の一件以来なんだか2人が気まずくなってしまったからだ。
「はあ..........」溜息をつく私。
.............まったくもう、アリスさんもアルフォンス様もどうしちゃったのよ!
心の中で愚痴りながら歩くうちに、いつの間にか教室の前に辿り着いていたようだ。
とりあえず、気持ちを切り替えていこう! そう意気込んで扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていたのである!
なんとアリスさん(?)らしき人物が、執事の格好をしていたではないか。
「おはようございます、アリスさん」
私が声をかけると、アリスさん(?)は驚いたようにこちらを見た。いやアリスさんでしょ? この反応..............どう見ても間違いないよね?「リーゼロッテ様っっっ!」
「貴女、どうしたのその格好は............」と答えると、彼女はますます驚いたような顔になった。まあそうだよね、驚くよね普通! でもその反応が面白かったのか、ついクスッと笑ってしまう。すると、彼女も釣られたように微笑んだ。やっぱ面白いなぁ。なんて思っていると、突然扉が開いた。そこにはアルフォンス様の姿があった。
同様に、アルフォンス様もアリスさんの姿を見て、驚き固まっている。
「アリス嬢、そのお姿...........え?どういうこと?」
もう素が出ちゃってるじゃない。
私もびっくりしたけれど...........いや、そんなことより。
「その格好、本当に突然どうしたの?」
私が聞くと、アリスさんは少し照れながら話し出した。
「近々、文化祭を控えているでしょう?私たちのクラスは男装喫茶を開くので、それ向けての採寸をしていたんです!」
ああ、確かにそういう話が出ていたわね。
「それで執事の格好なのね」
納得がいったところでふと思った。
改めてお2人を見ると、なんだかとてもお似合いな気がしてきた。
お2人は美しいから、まるで絵画のようにめちゃくちゃ絵になるんですが!
「わ、私..............精一杯頑張りますね!」そう告げる彼女の横顔は、とても凛々しく見えた。
私は密かに、彼女率いる執事喫茶が無事成功することを心で祈った。
「私、応援してるわ!アリスさん頑張ってね!!」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに笑う彼女の笑顔は、とても眩しかった。
それから私は彼女と別れ教室へと向かったのだった。しかし、この時の私は知らなかったのだ...............。
この後大変なことになるとは.............!
2時間目の授業が終わりに差し掛かった頃だっただろうか、突然廊下が騒がしくなった。
何かと思ってみてみると、そこにはとんでもない人物の姿があったのだ。
その人物とは、なんと攻略対象キャラの一人である『ヴィルフリート』だったのである。
彼はツンデレで、度々ヒロインを困らせていたキャラだ。
(えええ!?なんでここにヴィルフリート様がいるの!?)
突然のことに頭が追いつかない。一体どういうこと...............!?
「ヴィルフリート様!」女子生徒からの黄色い歓声が、教室に響き渡る。やはり彼は人気者のようだ。というかなんでここに...............?
すると、彼はこちらに向かって歩いてくると私の目の前で立ち止まった。そして、私の手を掴むとそのまま歩き出したのである。
ちょっと待ってよ、なんで私を連れてくの?わけがわからないのですが!?誰か説明してー!!
「え、ちょっと待ってください!!」
必死で訴えかけるとヴィルフリートはようやく足を止めてくれた。しかし手は離してもらえなかったので、そのまま連行される形になってしまう............。
「あの.............一体どうなさったのですか?」恐る恐る尋ねてみると、彼は少し考え込んだ後に口を開いた。
「............君に用があるんだ」
.............はい?どういうこと!?っていうかこの状況なに!?誰かー!!と 心の中で叫んだところで、誰かが助けてくれるわけもなく。
私は、ただ大人しく彼について行くしかなかったのである...............。
「ここでいいか」
ヴィルフリート様に連れられてやってきた先は、人気のない校舎裏だった。
「.............えっと、お話というのは.........?」恐る恐る尋ねると、彼は急に真剣な眼差しを向けてきた。
その眼差しに射抜かれてしまい、私は身動きが取れなくなる。こ、これは一体どういう状況なのよ!
早く帰りたいわ..............しかし、そんな願いも虚しく、彼はゆっくりと口を開いたのである。
「リーゼロッテ嬢」彼の声はとても低い響きをしていた。
「..............君は、アリス嬢が好きなのか?」
「ええっ!?」
いやいやいや、なんでそうなるの!?っていうかそもそも私はアリスさんに好かれちゃいけないんですけど!?「そんな訳ないじゃないですか!」と答えると彼はほっとしたような表情を浮かべた。そして安堵したように息を吐くと、私に向かって微笑みかけてきたのである。
その笑顔があまりにも綺麗で思わず見とれてしまったが、すぐにハッとして慌てて目をそらす。心臓に悪いので本当にやめてほしい.............。
「そうか」と嬉しそうに微笑む彼を見て思うことはただ一つ。
(なんかもう早く帰りたい.............!)
私がそう心の中で叫んでいると、彼は突然真剣な顔になった。
そして真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
(ちょ、ちょっとなんなの!?)動揺する私をよそに、彼はゆっくりと口を開いた。
「リーゼロッテ嬢」
「は、はい..............?」思わず声が裏返ってしまう。恥ずかしい。っていうか、この状況は何なのよ!
そんな私の心情などお構いなしに、ヴィルフリート様は言葉を続けた。
「頼む、アリス嬢との仲を取り持ってくれないか?」
「へ??」
私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。いやいや、なぜ私が!?
いやいや、なぜ私が!?
「そ、それは一体どういう............」
そう聞くと彼は真剣な表情で答えた。どうやら本気らしい。
「先日は想いを伝えることができなくて後悔しているんだ。だから今度こそは.............」
もう十分伝えたでしょ!?まだ伝え足りないの!?どんだけなのよ............!!そもそも、私がそんなことして、アリスさんに怒られるじゃん..........!
「あの、ヴィルフリート様。私では力不足だと思うのですが.........」
私がそう言うと、彼は更に言葉を続けた。
「いや、君にならできるはずだ」
なぜそう思うのか不思議でならないが。でも、これ以上巻き込まれるのは困る!何とかして断らないと。
(そうだわ!)
私はあることを思いついてポンっと手を打った後、得意げに言い放ったのである。「それでは提案なのですが.............」
「そういうことでしたら、アリスさんに私が間接的に伝える形でいかがでしょうか?」
我ながら名案だと思ったのだ。これならまだアリスさんも納得するはず。
そう思っての提案だったのだが............。
「しかし.............」と、彼は困ったように言葉を詰まらせる。恥ずかしいのかしら?まあでも、アリスさんも間接的にでも確かにいきなり告白されたら戸惑うかもしれないわよね.............。よしっ!ここは私が一肌脱ぎますか!!
「任せてください!私が説得してみます!」
そう力強く宣言したのだ。 すると、ヴィルフリート様は驚いた表情を浮かべて言った。「君にそこまで言われたら仕方がない」と。
よし!なんとかなったわ..............!私は心の中で喜んだ。
後は、アリスさんにどう伝えるかだけれど.............どうしようかな?
とりあえず、教室に戻ろう。そう思ってヴィルフリート様と別れた後、私は教室に戻ったのだった。
「リーゼロッテ様!」アリスさんが、嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。きっと喜んでくれているのだろうと思い、私も自然と笑みがこぼれる.............のだが.............。あれ?なんか様子がおかしいぞ..........?
「どうかしましたか?」私が尋ねると、彼女は複雑な表情を浮かべて黙り込んでしまった。そして意を決したように口を開くと、とんでもない爆弾発言を放ったのである。
「あの、リーゼロッテ様は、ヴィルフリート様とお付き合いされたのですか...........?」
「............はあっ!?」
一瞬何を言われたのか理解できなかった。............え?なんでそうなるの!?
「まさか!そんなことないわよ!」
私が慌てて否定すると、クラスメイトの女子やアリスさんは一同ほっとしていた。なんでだ。
「では、ヴィルフリート様と何を話していたのですか?」
アリスさんが怪訝そうに尋ねてきたので、私は先程の出来事を説明した。すると、彼女は納得したように頷いた後で言ったのである。
「リーゼロッテ様、ご迷惑でなければ私が直接お伝えしましょうか?」............いや、それ絶対マズイでしょ!そんなことしたら、ヴィルフリート様も心の準備もできていないだろうし...........。
「い、いや。それはちょっと............」私が答えに困っていると、アリスさんは少し残念そうに目を伏せた。その姿を見て罪悪感が湧いてくる。どうすればいいのだろう。
私は必死に考えた末、一つの結論に至ったのである。そうだ!直接言うんじゃなくて、また間接的に伝えればいいんだ。そうと決まれば早速行動開始ね!!
先にアリスさんから告白の返事を聞いてから、まずはヴィルフリート様に連絡をして、放課後の教室で会うことを取り付けたのだった。
放課後になり、私は待ち合わせの場所である教室に急いで向かった。
教室の前で深呼吸した後、扉を開けると既にヴィルフリート様が待っていたようだ。私は彼の近くまで歩み寄ると挨拶をした。
「お待たせしてしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ」そう言って微笑む彼の表情はとても優しげで思わず見惚れてしまいそうになるが、私は頭を振って意識を切り替える。今はそんなことをしている場合ではないのだ!私は早速本題を切り出すことにした。
「あの.............実は折り入ってお話がありまして」
「話...........?」首を傾げる彼に頷いてみせると、私は話を続けた。
「はい、アリスさんのことなのですが............」
「アリス嬢の?」
不思議そうな表情を浮かべるヴィルフリート様に、私は意を決して言った。
「その...........アリスさんからお返事です。いくら告白されても、お受けできないとのことです。」
私の言葉を聞いたヴィルフリート様は、目を見開いて固まってしまった。まあ、いきなりこんなことを言われたら驚くよね。でも本当にどうしようかな..........と悩んでいると、声をかけられたのだ!
「そうか............ありがとう、リーゼロッテ嬢。君のおかげで、彼女の返事を受け止められそうだ。」
そう言って微笑むヴィルフリート様を見て、私は心の中で安堵の息を吐く。良かった..........伝わったみたい!そう思いつつ教室を去ろうとしたところで、腕を掴まれた。驚いて振り返ると、そこには真剣な表情をしたヴィルフリート様がいたのだ。
一体どうしたんだろう?機嫌を損ねてしまったのかしら?と疑問に思っていると、彼は言ったのである。
「リーゼロッテ嬢はこのまま帰るのか?」「え?そ、そうですけれど.............?」
私が首を傾げるとヴィルフリート様は更に続ける。そして、次の瞬間信じられない言葉を口にしたのだ。
「だったら少し付き合ってもらえないか?」
「え.........?えっと..............?」どういうことか理解できず困惑していると、彼は私を真っ直ぐに見据えて言った。
「今回のお礼に、美しい景色が見えるところに連れて行ってあげよう。」
「いえ、お礼なんて結構ですわ」慌てて首を横に振るが彼は全く聞いてくれない。それどころから私の手を掴むと強引に歩き出してしまったのである。
「さあ、行こう」
「ちょ、ちょっと待ってください..........!」
しかし、ヴィルフリート様は聞く耳を持たずに歩き続ける。なんて頑固な方なのかしら!?
こうなったら仕方がない..............!覚悟を決めよう!私は諦めて、彼についていくことにしたのだった。
そして、そのまま校舎を出てしばらく歩いたところで、目的地に着いたようだ。目の前に広がる光景を見て、私は思わず息を飲んだ。
そこには、美しい夕日とオレンジ色に染まる街並みが広がっていたのだ。
「すごい............!綺麗ですわ...........!」思わず感嘆の声を上げると、ヴィルフリート様は優しく微笑んでくれた。
「喜んでもらえたようで、何よりだ」
「本当に素敵ですね!ありがとうございます、ヴィルフリート様!」私がお礼を言うと、彼は照れたように頬を搔いた後で言った。
「お易い御用だ。もし辛くなったら、ここに来たらいい。俺も、たまに来ることにしているんだ。」
そう言って優しく微笑むヴィルフリート様に、私は感謝の念を感じた。
「ありがとうございます、ヴィルフリート様」
その後私たちは世間話をしながら、各々自宅に戻ることにした。
本当に楽しかったな。でも、まさかヴィルフリート様とお話する日が来るなんて思ってもみなかったよ................。まあでも、上手くいったならそれでいいか! そんなことを考えながら、私は軽やかな足取りで帰宅したのだった。
翌朝登校すると、下駄箱でヴィルフリート様と遭遇した。挨拶を交わした後、一緒に教室へと向かうことにする。そして教室に入るとそこには既にアリスさんの姿があったのだが、何だか様子がおかしかったのである................!彼女はいつもと変わらない微笑みを浮かべているように見えたのだが、心なしかよく見ると、目が笑っていないように感じる。
(どうしたのだろう?なんだか元気がないわね.............)
不思議に思いながらも、自分の席に着くと、隣に座っていたアリスさんが小さな声で話しかけてきた。
「リーゼロッテ様、おはようございます」
「アリスさん、おはよう............どうかしたの?」私が尋ねると、彼女は一瞬戸惑った様子を見せた後で言った。
「いえ、なんでもありませんわ」と答えた彼女の表情には、明らかに疲れの色が見える。昨日の出来事で何かあったのだろうか?しかし、それ以上追及するのも躊躇われて私は口を噤んだ。
するとそこにアルフォンス様がやって来て言った。
「リーゼロッテ嬢!アリス嬢、おはよう」その声に反応して振り向くと、そこにはアルフォンス様の姿があった。相変わらず、朝からとても爽やかな笑顔だ。
「おはようございます、アルフォンス様」私が挨拶を返すと、彼はなぜかじっとこちらを見つめてきた。不思議に思って首を傾げると、彼は少し言いづらそうにしながらも口を開く。
「昨日、ヴィルフリート様が、リーゼロッテ嬢を家まで送っていったと聞いたんだが..............」そう言われて、昨日のことを思い出す。
あ!そういえばそうだったかも!でもどうしてそれを知ってるんだろう.............?不思議に思っていると、突然アリスさんが立ち上がったかと思うとこちらに向かって歩いてきたのだ!
どうしたんだろう?そう思っているうちに、彼女は私の両手を包み込むようにして握りしめてきた。そして、真剣な表情で問いかけてくる。
「リーゼロッテ様、ヴィルフリート様と一緒に帰られたというのは本当ですか?」
「え............ええ。本当ですけれど............」私が答えるとアリスさんはますます強い力で手を握り締めてきた。これは絶対に怒ってるよね!?助けを求めるように、アルフォンス様の方を見るが、彼は口元に笑みを浮かべてはいたが、目は笑っていなかった............怖い............!アルフォンス様もこれ絶対怒ってるやつだ!どうしよう!?
焦っていると、突然背後から声をかけられたのだ。驚いて振り向くと、そこにいたのはヴィルフリート様だった。
「おはよう、リーゼロッテ嬢」「お、おはようございます..............」
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