第128話 This World And Times Past(現世と過去の時代) 35

 螺旋の石階段を降りていくと、正面に小さな古びたカウンターがあり、グルードが座っていた。


 ミランダに気が付くと立ち上がり、

「これはこれはミランダ。久しぶりに会うな。ガイラは残念なことをした。あなたはその後どう過ごされてました?」


 グルードはもう老体ではあるが、背筋は真っ直ぐに姿勢を正し、記憶力も衰えていないようだった。

 かつてミランダは中級魔導士の頃に、ここの書物を読みふけっては魔術を理解した。グルードとはその頃からの間柄だ。


 「ガイラは立派に死を遂げました。それよりグルード、ここへ来るなり申し訳ないのだけど、古い文献を探しに来たのよ。闘技場の過去を知りたいの。出来れば詳しい挿し絵のある書物を借りていきたいの。」

「闘技場……ヒュードルン闘技場かい?」

「えぇ。拳闘士の大会が始まった頃の時代の物を。」

「それは大変だ。大会は300回を迎え、閉会した。まぁ150冊の書物だがね。」


 そう言いながらグルードは奥へ入っていった。

 ここの蔵書の全てを把握しているグルード、ミランダは椅子に腰掛け待つことにした。


 30分程ののち、グルードが5冊程の書籍を抱えて戻ってきた。


 「これは第一回目の拳闘士大会から第十回目までの参加者名簿、勝敗、賞金、競技場の観客数。……また、闘技場周囲で賑わった露店の様子。巻末には、王族のコメントが記されている。」

「グルード。文字ではなくて、挿し絵は無いの?しかも詳細な綺麗なもの。」

「ページをめくって探すしかないかのう。……ヒュードルン闘技場に行けば、その地下には300回の歴代勝者の絵が展示、飾られているよ。寄ってみたらどうかね。」

「ありがとう、グルード。お元気そうで良かった。また来るわ。この書籍はお借りします。」

「大切に扱ってくれよ。我が魔導士界の宝物と言っても過言ではない代物だからのう。」

「大丈夫、ご心配なく。では失礼するわ。」


 ミランダは借りた書物を鞄に詰めると、また螺旋の階段を上がっていった。

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