第90話 This World And Times Past(現世と過去の時代) 10

 過去の時代……。サンドラ邸。


 「明日辺り、ようやくグアムスタンの雲が変わりそうだよ。だけど薄紫色かどうかまでは分からないんだがね。」

「ありがとう、サンドラさん。注意しておくわ。」

「それにしてもフリップグロスの人達、どうしてグアムスタンの雲が変わることが分かるの?」


 晩の食事の最中、リビングでのいつもの団欒。

サンドラは姉妹にグアムスタンの事を告げた。


 「あなた達の母親の声を聞きに行くんだろ?薄紫色になる日が明日かもしれないよ。」


 3人は食器を片付けながらも話している。


「そうさねぇ、あたしの場合は、雲の色が変わる時には、なんとなく耳鳴りがしたり身体のどこかが痛くなったりするんだよ。これは町の人それぞれかもしれないがね。」

「フリップグロスの人達は気圧の変化が分かるのね。」

「なんだい?そのキアツってのは。」

「普段の時と雲の色が変わる時の空気が変化する、その事です。」

「私でも分かるようになるかしら?」

「ライラの気持ち次第……とでも答えておくよ。で、レイラの言うキアツってのはあなた達の時代でもあるのかい?」

「もちろんですサンドラさん。同じ空に同じ曇……、同じ空気に同じ大地。同じ……。……。ママと同じ……。」


 レイラは現世を思い出してしまったのか、目に涙を浮かべ、言葉に詰まってしまった。


 「ごめんよレイラ。元の時代を思い起こさせてしまったね。……さぁさ、今晩はお茶でも飲みながら、もう少し話そうかね。」

サンドラはそう言うと、姉妹にティーセットを持たせ、自身は湯を沸かす用意を始めた。


 「ライラ、この時代には王都はあるかしら?」

「レイラ、まさか王都へ行くつもり?」

「ううん、違う。でも一国の中のフリップグロスでしょ?ブレインラードでは気にもしなかった、でも最近気になるのよ。」


 そこへティーポットを持ってサンドラが戻る。


 「王都ってほどでもないけど、王城は立派だと聞いたことがあるがね。」

「私達のような魔導士の話は聞きませんか?」

「それでレイラは王都が気になってるんだね。でも魔導士なんてのは聞いたことがない。この国は王城と小さな城下町にあちこちの小さな町だとしか聞かないよ。他の国はどうだか知らないがね。なんせあたしはこの田舎町しか知らないからねぇ。」

「この間、隣りのパイルグロスに行ったけど、フリップグロスと同じ様な町だったわ。それで、よその町や他の国、見てみたいって最近思うの。」

「レイラの好奇心は分かる。でも、それはママと繋がれたら考えましょ。結構な長旅だもの、ママが心配する。」


 ライラは言うとサンドラを見て、

「サンドラさんだって心配するでしょ。」

「別の町ならともかく、他の国ってのは難しいねぇ。あたしは知らないがかなりの長旅なのに違いないさ。」

「そうよね……。そう簡単じゃないものね。」


 その後は町の話など他愛もない事で話をしていた。


「さ、そろそろ寝ようかね。」

「あ、サンドラさん。私達で後片付けを済ませて寝ます。どうぞ休んでください。」


フリップグロスの町はすっかり夜も更けて、空には星が瞬いている。辺りには微かに虫の音が聞こえ、風が吹き始めた。

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