第85話 This World And Times Past(現世と過去の時代) 5

 現世の時代……。

数日後の日中。


 ワンドルがミランダ邸にやった来た。


 「ワンドル。身体の具合はいかが?」

お茶を出しながらミランダが聞いた。


 ワンドルはゆっくり頷くと、

「今日はフリップグロスに行ってくる。子供達のパワーを確認してくるよ。」


 窓辺でパイプ煙草をくゆらせていたガムが言った。

「ワンドル様、先日パイルグロスで多くの妖魔が出現し、町人数人が犠牲に……。魔導士達で蹴散らしました。グランダは依然として妖魔を仕向けながら移動しているようです。」

「町人が……。そうか。」

ワンドルは手を合わせ天井を仰ぎ見た。


 「グランダは、私を探しているのよ。我が身の腕の復讐の為に。……恐ろしい力、身体を失っても意識だけでこの世に存在する。」

「グランダの事はフリップグロスで子供達とも話したが、マタスタシス=テクを習得したら……あの子達は、グランダ出現の時代を調べて仕留めるつもりでいる。」

「なんですって!!」

「グランダを仕留めたら、ガイラが元に戻ると思ったらしい……だが、それは叶わぬと伝えた。」

「確かに、そう考えるのも一理あります。しかしグランダ出現の頃に討伐したとすると、以後の未来が変わってしまう。もしくは何も変わらない。そうですよねワンドル様。」

「それは別の時代の者がそうした場合なんだよガム。その時代の者が出現当時のグランダを仕留めていたなら、未来にグランダは存在しない。別の時代の者がグランダを仕留めに別時代にやってきて、そこで討伐に成功したとて、以後の未来に変わりはないのだよ。」

「そうなんですね……。あの子達はこの時代に転移する前にグランダ出現の時代を探すのでしょうか。」

「心配なら、次の薄紫色の雲の時に伝えたらどうだい。……あの子達はもう全ての記憶が戻った。今は立派な魔導士だ。私は彼女達の考えを尊重してもいいと考えるが。」

「母親の考えを強要するのはよくない事。それは分かっているけど……。」

「あの子達のいる時代、魔導士はまだ知られていない。我々の術式を不思議な力と言っていた。魔導士はまだ王城に仕えていない時代だった。グランダはもっと後になって出現するのだと思うが、何をもって出現したのか、気にはなるが、仕留めるまでは考えなかったよ。……あの子達は、過去の時代において、何かやるんだろう。そう感じた。」

「転移術式を習得しても、この時代には戻らないと?」

「いや、先ずはここに戻るだろうが、それとは別の何か目的を持った。そんな内面の感情が伝わってきた。ミランダが側にいれば、それも感じ取れるんだろうがね。」

「やはり私が側にいてあげなければ。」


 ワンドルは玄関ドアに向かいながら言った。

「さて、行ってくる。」

 そう言ってドアを開けて出ていくワンドル。

黙って見送るミランダとガムであった。

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