第75話 Memories Returned(戻った記憶) 2

 「大丈夫、どこへも行かんよ。ほら、今日はもう遅い。二人共、また明日、ゆっくり話そうじゃないか。いいね?」


 「わかったわ、パパ。」


 ワンドルはサンドラ邸を出る時、外にサンドラを呼んだ。


 「申し訳ないサンドラさん。どうやら、子供達は私が父親だと思い込んでいるようだ。……実のところ私は、子供達の父親とは双子。しかも瓜二つのようなんです。記憶が戻った子供達には、私が父親に見えても仕方ないかもしれません。」

「なるほど、そういうことでしたか。ではあの子達の父親は今どこに?」

「それが……それがもう亡くなっているのです。」

「それであの場では無言になったのですね。では、あの子達にはなんと説明するつもりでいるのかね?」

「サンドラさん。私は一旦、子供達の母親に話そうと思います。また明日、早朝に伺います。」


 そう言うと、ワンドルは術式を使い転移した。

「あら、ワンドルさん?……やれやれ、自分中心な男は嫌いだよ。まぁ、双子の弟に見間違えられたら嫌な気も起るさね。突然消えてしまったが、これも不思議な力ってことかねえ……。」


 サンドラは中へ戻った。


 ワンドルは現世には戻らず、サンドラ邸から巨人の槍の前に移動しただけであった。

 (ミランダに報告したとて彼女をこの時代に上手く転移されられるものかは疑問だ。私はまだ術式を使って人を転移させたことはないからな……。やはりグアムスタンの薄紫色を待つとしよう。)


 翌日早朝。

 サンドラ邸の外にやって来たワンドル。ドアの前まで来ると、サンドラが出てきた。


 「あらワンドルさん、お早いのね。で、今日はどうするつもりなのかね?」

「えぇ。子供達の狩りのお供をと思いまして。」

「そうかい。少し話をするのもいいかもしれないね。まだ起きてくる時間じゃないから、中でお茶でも飲んでいくといい。」


 サンドラはそう言って中へ招き入れた。


 しばらくすると姉妹がリビングに出てきた。

「おはようございます、サンドラさん。あ、パパもいたのね。」

「おはよう二人共、顔を洗ったら狩りの支度をしなさい。ワンドルさんが狩りに連れてってほしいそうだよ。」

「パパも一緒に狩りに出掛けるの?」

「ライラ。また張り切って狩り?ケガだけは気を付けましょ。」

「パパの前だからって、無理しないでよレイラ。」

「ほらワンドルさんが返事に困ってるよ。二人共、さぁ山へ登る支度支度―。」


 姉妹が部屋に入ると、サンドラが言う。

「ワンドルさんが山で何を話すのか。山から戻ったら、あの子達は遠い国へ連れて帰るのかい?」

「その事もあなたに話さなくてはならない。山から戻るまでにまとめておきます。ところで、グアムスタンの雲が薄紫色に変わるのはあとどの位でしょう?」

「明日辺り、雲行きが変わりそうだがね。それが何か?」

「えぇ、その時にまた子供達を連れて山へ登ってきます。ちょっとした事情がありまして。」


 サンドラがキッチンに入った。ランチの支度。今日は3人分を作り、用意してリビングに出てきた。

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