第73話 Encounter(出会い) 3

 やがてやって来たサンドラ邸。

軽く会釈するワンドル。


 「お帰り二人共。リュージンさんへ用事は済んだのかい?」


 ローが答えた。

「えぇ、ラビンをお裾分けしてきたわ。」

「リュージン夫妻、喜んでいました。」

「そこにワンドルさんがやってきて。」

「それから一緒にここまで来たんです。」


 サンドラが会話する度、短剣を確認しているのをワンドルは渋い表情で見ていた。

「こらこら、お前達。そう続けて話してはサンドラさんが困るだろう。少し間を入れて話しなさい。」

「いいんですよワンドルさん。もう慣れましたから。さ、お茶でも入れますよ。」


 姉妹は部屋に入りバックを提げるとリビングに出てきた。

「サンドラさん、グアムスタンの雲が薄紫色になるのって、今度はいつかしら?」

「サンドラさんは大きな岩が輝くのってご存知でしたか?」


 また立て続けの会話。ワンドルはここでも口を挟む。

「おい、お前達。そう立て続けに話すでない。サンドラさんが困るだろう。」

「いえいえ。私はこの子達の言葉の節々ふしぶしで分かりますよ。困るのはワンドルさん、あなたなんでしょ。」


 姉妹を両肩に抱えて、いたずらに微笑むサンドラであった。

実際サンドラの言うことは図星であった。

意識で区別するより勝るのかと苦笑いを浮かべるワンドル。


 「今日はローが頑張ったお陰で市場にも納めてきました。」

「今日の収穫ならお裾分けも出来るなって思ったから。」

 姉妹が話す度、確認していたわけではない。サンドラは既に聞いただけで姉妹が判別出来ている。

「サンドラさんにはかないませんな。私は今日会ったばかりの二人で、どっちが誰やら……。」

「しばらく過ごせば分かるってもんですよワンドルさん。」


 サンドラがキッチンに入り、他3人はテーブルに座った。


姉妹は無言だったがリンクで話していなかった。

そこへサンドラがお茶を運んできて座った。


 「サンドラさん。私の本当の名前、レイラっていうそうです。」

「私はライラ。ワンドルさんが教えてくれました。」

姉妹は申し訳なさそうに言った。


「レイラにライラ。そ、そうかい。……。良かった、本当の名前が分かったんだね。」

「え、えぇ。でもこの名前はまだ実感がなくて……。」

「そうなの、急に本当の名前って知らされても思い出せない……。ね、ロー。じゃないライラ。」

「それならあなた達、これからは本当の名前に慣れなきゃねぇ。せっかく叔父さんがここまで来てくれたんだからね。」


 その時、お茶をすする姉妹の脳裏にフラッシュバックが起こる。

それは馬から下りるガイラの姿。そして部屋で話しかけてくるガイラ。誕生日の日、そう、剣を与えてくれた時のシーンだった。


 リビングに戻って来たガイラの手には、短剣が2本。

「レイラ、ライラ。16歳の誕生日おめでとう。パパからのプレゼントだ。これは有名な術具を作る職人の短剣だ。攻撃魔術を助けてくれるだろう。」


 2本の短剣はお揃いの物。飾り石の色だけが違う。


 「このパワーストーンも魔術をサポートしてくれるものだ。2人の得意魔術に合わせているよ。手にしてごらん。」


 姉妹の脳裏に、ガイラの表情まで鮮明にフラッシュバックした。


 姉妹はワンドルを見据えた。そして声を揃えて、

「パパ。」

ワンドルは姉妹のフラッシュバックにまで干渉出来ていなかった。

妹ライラがワンドルにしがみつく。

「パパ。」

姉レイラもワンドルの肩に身を寄せた。

「パパ。」


 この時点でほぼ姉妹の記憶は元に戻っていた。

だが姉妹の前には父ガイラではない、兄のワンドルだった。


 「レイラ、ライラ。少し外へ出ようか。」


 ワンドルはサンドラに目配せし、姉妹を連れて外へ出て行った。

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