第69話 Pieces Of Memory(記憶のカケラ) 12

 ある日の陽が高くなる頃。

サンドラは姉妹のベッドの干し草を交換していた。


 「ごめんください。」


 サンドラ邸のドアにはノッカーは付いていない。

来訪者は声を張り上げるしかない。

 「ごめんください。」


 サンドラ邸に訪れたのは、リュージン邸から足を向けたワンドル

だった。

古い干し草を抱えて玄関に出るサンドラ。

「はいはい。どちら様?」


 ワンドルは眉間みけんにしわを寄せながら答えた。

「サンドラさんのお宅はここですか?」


干し草を抱えて応じるサンドラも、同じ様に眉間にしわを寄せながら応じた。


「どちら様で?」

ふもとのリュージンさんから聞きまして。こちらはサンドラさんのお宅でよろしいですか?」

「リュージンさんから……。確かにサンドラはあたし。……見るに旅の方のようだねぇ。あたしに何か御用かね?」

「はい、こちらに双子の姉妹がお世話になっていると伺いました。私はワンドル。姉妹の叔父です。」

「あら、あの子達の身内の方でしたか。……えぇ確かにここであたしが面倒見てますよ。」

「して子供達は今どこに?」

「まだラビン狩りに山に上がってるから、ここにはいないよ。そうだねぇ、陽が傾いたら下りてくる。ただねワンドルさん、あの子達はどうやら記憶を失くしてしまっているんだよ。二人には少し気を使ってあげておくれね。」

「分かりました、それでは山へ行ってみます。」


(やはりか……。可哀想に。サンドラさんには良くしてもらっているようだな、安心した。)


 ワンドルはサンドラ邸を離れた。


 バリスタン山に向かう道中、まだ陽が高いからか、鳥の鳴き声や虫たちが騒がしかった。


 一方、バリスタン山のラビンの狩場。


 「どうロー。今日あたり、リュージンさんにお裾分け届ける?」

「そうね、そうしましょうか。」


 姉妹に気付かれぬように近づいていたワンドル。

(おや?リンクで話している。あの子達は術式を覚えていたのか?)


 「ねぇアマ。ランチを済ませたらリュージンさんの所へ向かいましょうよ。」

「そうね。今日はお裾分けしても余るもの、そうしましょう。」


 遠めに見ていたワンドル。話し掛けるタイミングを失っている。


 ランチを済ませてまもなく。姉妹は山を下りて行った。

ワンドルも姉妹に気付かれないようにして追っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る