第67話 Pieces Of Memory(記憶のカケラ) 10

 不思議な力を使う者がいる遥か遠い国。


 姉妹は夜な夜なリンクで話を続けていた。


結局のところ、遥か遠いのでは無理な話。しかしその国の人に近しいのであろうという結論だった。


 陽が上り始める頃。

1人の旅人らしき人物がリュージン邸を訪れた。それは旅人にとって初めてではない。二回目の訪問だった。


 ドアノッカーをノックする。


 「こんにちは、町長さん。こんにちは。」もう一度ノックする。


 まもなくしてウェンドが応答した。

 「どちらさ……。あ、あなたは以前お越しになった旅の方。」

「こんにちは奥様。以前は早々に引き上げてしまい申し訳ありませんでした。その後町は平和に過ごせておりますか?」

「えぇ、この町は至って平和そのもの。もうあれから月日が経って、今の主人は町長ではありませんのよ。少しおまちくださいね。」


 ワンドルは姉妹を探して過去のフリップグロスのリュージン邸に訪れていたのだった。


 ウェンドは奥へ引っ込む。

しばらくして杖が床を突く音が聞こえてまもなくリュージンが出てきた。


 「こんにちは旅のお方。妻に聞いて驚きましたよ。再びお越しになるなんて。」

「以前お会いした時は大変失礼を致しました。」

「長い月日が経ちましたね。して今日は如何様いかようでここへいらしたのかな?今回は私からも一つ話があるが。」

「町長さん。」

「いや、今は町長の職にあらず。隠居の身です。あの時は名乗らなかった、私はリュージンです。」

「リュージンさん。あの時は名前も名乗らずいきなりお邪魔して大変失礼いたしました。私はワンドルと申します。」


 ウェンドがお茶を運んできた。リュージンは玄関脇のブランコに身を任せている。


 「ワンドルさん……でしたか。さ、お茶でもどうぞ。」


 小さなテーブルの前にかがみこみ、ワンドルはお茶をすすった。


 リュージンはブランコを揺らしながら口を開いた。

「ここへ再びいらしたのには何か理由わけがありそうですね。あなたがあの時見せていただいた不思議な力、それに関係がある話とお見受けしましたよ。」

如何いかにも。いや、今日は人を探してこの町に来ました。」


 妻ウェンドがブランコのリュージンの横に座ると、なにやら目配せしている風に見えた。

 「探している人というのは……。」

「可愛い姉妹のお話かしら。」ウェンドが口を挟んだ。


 「ど、どうしてそれを!?」

「やはりそうでしたか。ワンドルさん、私からも話があるのはその姉妹の事です。」

「その姉妹は!今どこに。私のめいなんです。」

「まぁまぁ、落ち着きなさい。……数日前、その姉妹もここへやってきましたよ、不思議な力の事を聞きにね。」

「そ、それで。あの子達はどこへ?」

「ワンドルさん、落ち着いて。……可哀想なことに、姉妹は記憶を失くしています。そう言っていました。」

「やはり……そうでしたか。」

「今はまだ思い出せないそうです。ですが彼女達なりに思い起こそうと頑張って過ごしていますよ。」

「ワンドルさん。あなたがあの子達の身内であるなら、会えば何か思い出せるかもしれません。東の方角のバリスタン山という山の途中にある邸宅、そこでお世話になっているんですって。とても元気に過ごしているわ。今は山で狩りをしてるって話してたの。」

「その家の主はサンドラという女性。行って訪ねてください。リュージンから聞いたと言えば歓迎してくれます。」

「ありがとうございます。これから山へ登ってみます。」


 ワンドルは、リュージン夫妻にサンドラ邸の場所を聞くと足を向けた。その頃にはもう陽が高くなっていた。

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