第58話 Go Back In Time(時を遡る) 5

 300年前、改名間もなくのブレインラード。巨人の槍の側で野営しているワンドルがいた。ワンドルにはこの時代は分からない。


 「巨人の槍……いつの時代から存在しているのだろう。いつ見ても素晴らしい。子供たちは覚えているだろうか。」


 バリスタン山は今日ものどかな空気に包まれていた。

……が、グアムスタンの雲は淀んでいた。


 「じきにグアムスタンの雲が変わり始めるな。雨をやり過ごしたら麓に降りるとしよう。」


 やがてグアムスタン山から雷鳴が聞こえてきた。

 ワンドルはテントから顔を出して空を伺った。


 ポツポツと雨が降り始めてきた。その間にも雷鳴は鳴り止まず、稲光で辺りを照らしている。


 慌ててテントに引っ込むワンドル。

「マタスタシス=テクの習得を決意してやって来た時と似ている。あの時もひどい稲光だったな。こうして生きているのが奇跡のようだ。」


 呟きながら横になる。雷鳴は鳴り止まない。時折テントの中が照らされる程の稲光もあった。

その時、一際ひときわ大きく雷鳴がとどろき、テントの中もまばゆく照らされた。横になっていたワンドルの影が落ちる程だった。


 しばらくしても、辺りは光に包まれたまま。

 今まで感じた事のない光景に、ワンドルはテントの外を伺った。

そこで見た光景に慌てて外に出るワンドル。


 「なんなんだ、これは!巨人の槍が光っている。」


 ワンドルの目の前には、眩い光をまとった巨人の槍そのものが見えていたのだった。


 「何というエネルギー。稲光が巨人の槍に落ちて尚、光が衰えずにいるとは。」

雨のことは気にせず立ちすくむワンドル。


 まだ遠くで雷鳴が聞こえている。光っているのだろうが、それは巨人の槍の輝きに消されているようだ。


 ワンドルは降りしきる雨の中、光り輝く巨人の槍に恐る恐る近づいていった。


 どの位の時間が経ったのだろう。巨人の槍の輝きは依然変わらずにそこにあった。


 「岩の目の前に来ても何の影響も無い。」


 ワンドルは光る岩に触れてみた。

「何というパワー。稲光を受けてエネルギーを蓄えているかのようだな。……これは確認する価値はありそうだ。」

羽織っていたフードを脱いで、テントに入るワンドル。


 雷鳴は収まり、雨は次第に弱くなって霧雨きりさめに変わった。巨人の槍の輝きも弱くなり、まもなくして普段の巨人の槍の姿に戻った。

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