第40話 Another World(異なる世界) 5

 姉妹がここへ来て最初に通ってきた森。

その森を抜けて草原まで行くつもりだった。……と、森を抜ける辺りであの爪がまた光り出した。


 「見て!また光ってるわ。」

「何故光るのかしら……あ、消えないで。」

薄青く光っていた爪は、徐々に光が薄れ、元に戻った。



 「とにかく、私達が倒れていた場所まで行きましょう。」


 姉妹は転移された草原にやって来た。


 「私達、何故ここに倒れていたのかしら。」

「それが思い出せないのよ。」


 話していると、遠くから獣が走ってくる。姉妹に向かって来る様だ。1人の少女は、向かって来る獣に無意識に手を向けた。

すると、その掌から赤い球が発せられた。それは見事に獣に命中、獣はその場に倒された。


 「何なに!掌から赤い球が飛んだわ。」

「な、何だったんだろう、分からないわ。」

「私達の記憶のヒントになり得るものかも。」

「私達が双子なら、あなたも出来る事かも知れないわね。」

「ま、まさか。」


 もう1人の少女は掌を見つめている。

 しばらくすると、指先から光が発せられた。


 「な、何⁉︎指先が光った。でも赤くないけど……。」

「私の赤い球は、咄嗟とっさだったし、危ないと思って力が入ってた。あなたの指先、もっと力を込めてみて。」

「うん、分かった。」


 指先が光ったと同時に、黄金色の矢の様な物が指先から飛んでいった。

 「うわっ!何これ。」

「どうやら私達、ここの人達と違う何かの力を持っていそう。これも黙っていましょう。」


陽が高くなる頃……。

 サンドラから受け取ったランチバスケットには、サンドイッチと水筒が入っていた。


 陽が高くなる頃までに、2人は記憶を思い起こそうとしたが、ただ時間が過ぎるだけだった。


 「この短剣で私達は何をしてたのかしら……。」

「同じ短剣にストーンが付いてるけど、色は違うものね。」

「サンドラさんが言っていたけど、猟師でもやってたのかなぁ……。さっきの獣みたいな動物を狩って、食糧にしたとか、売りに出していたとか。」

「分からないわ、思い出せない。」

「爪が時々光るのは私達に関係ある事かしら。」

「それは何か有るかも。」


 話しながらランチを済ませて、あの時の赤い球と黄金色の矢の事を話し始めた。

 話をしながら、黄金色の矢を放つ少女は木の枝に指で切り込みを入れていた。


 「私、前にもこんな事を繰り返した気がするの。」


 もう1人の少女も、同じく話をしながら、赤い小さな球を空に放り投げながら、「私もそう思ってた。なんだろう、これで何か思い出せそうな気がするの。」


 すると、ポケットにしまっていた爪がまた薄青く光り始めた。

黄金色の矢を空に放ると、少女は爪を取り出し握りしめた。


 「何か前にも感じた感覚。いつどこでなのか思い出せないけど。……ねぇ、あなたも感じてみて。」

そう言ってもう1人の少女に光る爪を手渡す。


 目を閉じて何かを感じ取ろうとしている。

「うん。この感覚、私も感じた事がある。……どこでだろう。」

「この草原は何か有るかも知れないわね。」

「私もそう思うわ。あ、光が消えていく。……はいこれ。」


 爪をもう一人の少女に返す。

光が消えた爪を受け取るとポケットにしまった。


 その後何匹かの小動物を捉えてサンドラ邸に持ち帰った。


 「ただいまサンドラさん。」

「あら2人共、おかえり。……あら?、それは?」

「丘の草原で捕まえたのですが、役立ちますか?」

「役立つどころじゃないわ。市場に出せば売れるわよ。なんだか2人共凄いわね。……この町じゃこの動物はご馳走なのよ。とっても美味しいわよ。そうね、今晩はこれを料理してあげるわね。」


 2人の少女はキョトンとして顔を見合わせている。


 サンドラ邸の煙突からは煙が上り始め、辺りは美味しそうな香りに包まれた。


 そこへ初老の男が訪ねて来た。

「こんばんは、サンドラさん。」


 キッチンから慌ててドアに駆け寄ると、男を中へ招き入れた。


 「こんばんは町長さん。料理の最中でしたの。さ、かけてくださいな。」


 向かいには双子の少女が座っていた。


 「こんばんは。この町の町長のブレインです。初めまして2人共。君達の事はドクターから聞きましたよ。」

「は、初めまして町長さん。」

2人は声を揃えて挨拶した。


 「2人共お気の毒だったね。ドクターの話じゃ、記憶は時期に戻るだろうと話していたよ。他に大きな怪我は無かったのかい?」

「えぇ町長さん。怪我は有りません。」

「でもまだ何も思い出せなくて、今日は私達が倒れていた丘の草原に出掛けてました。」


 そこにキッチンから料理を手にサンドラが話に加わる。

「良かったら町長さんも召し上がって帰ってくださいな。」

「おぉ、美味しそうなラビンじゃないか。これは頂いて帰らなければ。」

「この子達が捕まえてきたんですよ。それも4匹も。」

「ほう。君達がかい?もしかしたら猟師をしていたのかな。」

「それは分かりません。私達にはこれくらいしか出来なくて……。お役に立つでしょうか?」

「もちろんですよ。そうだ。2人共記憶が戻るまで猟をしたらいい。私から市場の主任には話しておきましょう。こんな上物のラビンを捕まえられるのなら、しばらく猟で生計を立てていけばいい。」

「さぁ、あなた達も。冷めないうちに召し上がれ。」


 姉妹とサンドラ、それに町長がテーブルを囲んでディナーとなった。

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