第28話 Battle(戦い) 1

 ブレインラードからまだ距離の有る丘や野原を、攻撃してくる魔道士達を蹴散らしながら移動する妖魔神グランダ。


 「あの時の気配が近付いている。いよいよ復讐の時!あわよくば、魔道士供が語っていた姉妹に、我輩の術をお見舞いしてくれるわ。」


 多くの魔道士達の攻撃魔術をものともせず、移動を続けているグランダ。

グランダの後には、負傷した魔道士達が倒れている。


 一方、別の場所にいたガイラや魔道士達。

「ガイラ様。皆グランダの気配を感じ取りました。パイルグロスからブレインラードに向かっているものと思われます。私達も向かいますか?」

「うむ。急いで馬を走らせよう。ブレインラードの魔道士達にリンクを。皆、グランダの気配を見失うな。」

「かしこまりました。知らせておきます。」


 ガイラと多くの魔道士達は、隣町パイルグロスからグランダの気配のするブレインラード方面へ馬を走らせた。


 「ガイラ様に同行している魔道士からのリンクを捉えた。妖魔神グランダがブレインラードに向かっている。ガイラ様達も別の地域からこちらに向かっている。」

「我々で食い止めなければ。残る妖魔は存在せず。グランダの気配を見失うな!」


 「フハハハ。徐々にパワーを強く感じるぞ。待っていろ、目に物見せてやる。」

妖魔神グランダはブレインラードに近付きつつあった。


 陽が暮れ、バリスタン山の岩山から姉妹が戻って来た。

「2人共、少しは鍛練の成果は出てるの?」

「ママ、少しではないわ。私もライラも、今はママのパワーを目標に頑張ってる。」

「上級魔術として理解出来てるし、覚醒がどういう状態かも理解出来てるわママ。」

「あなた達のパワーはここにいても感じ取れてるわ。大したものよ。パワーの増幅には時間がかかるし、体力も消耗する。無理しないでね。……。」

そう言うと、ミランダは寂しげな表情を浮かべた。

姉妹はそれを察し、声を揃えて尋ねた。

「ママ?どうしたの?」


 ミランダはしばらく答えなかったが、晩の食事の支度をしながら口を開いた。


 「レイラ、ライラ。ママも魔道士の端くれ。妖魔神グランダがブレインラード近くに迫って来た……。」

「ママも一緒に戦いたいのね。」

「ママは最上級魔道士の身分を私達に隠して過ごしてきた。でももう私もレイラも大丈夫よ。」


 ミランダは暖炉に歩いていくと、フォトフレームの間に置いてあったグランダの爪を手にして、テーブルに戻ってくる。

そして2人に見せた。時折爪が薄青く瞬いている。


 「気が付いていたかもしれないけど、これが何か分かる?。」

「今まで何かの飾りにする為に置いてあったのかと思ってた。」

「私もライラと同じ様に思ってたわ。」


ミランダはしばらく沈黙していたが、話し始めた。


 「ママがまだパパと出会う前の事。多くの魔道士達と、ようやく妖魔神グランダを追い詰めた。グランダの力はそれは凄かったわ。何人もの魔道士達が負傷する中、ママは他の魔道士達の援護の末、やっとグランダにシンクロした。辛うじてグランダの右腕を操るところまできたの。振り払おうとするパワーが強かった……隙を突いて右腕だけを操り、身体を切り裂こうと試みたけど失敗。それでもママは全てのパワーを使って、グランダの左腕を引き裂くことに成功した。グランダは危険を察知したのかその場から逃げていった。……その時切り裂いた片腕。その戦果として爪を持ち帰った……それがこれよ。」


 ミランダは無造作に、ゴトリとテーブルに置いた。

姉妹は一瞬怯ひるんだが、レイラが口を開く。


 「暖炉の上に有ったのは前から気付いてたけど、あまり気にしてなかった……。この爪は獣なんかじゃなく、グランダのものだったのね。」

横のライラは両肩を抱え震えていた。

「最上級魔術のパワーブースト=リンク=テク。ママはこれにパワーブースト=シンクロ=テクを複合させてグランダの右腕を操ったのね。」

「そうよレイラ。全てのパワーを振り絞ったわ。身体は操れなかったけど、辛うじて右腕だけ操れた。そのまま胸に突き立てるつもりだった。」

「ママのパワーを察するわ。凄いパワーだったのね。」


 ライラは何かを決意したのかもう震えていなかった。

「ママ、私達のパワーを感じてて。必ず習得してみせる!……パワーブースト=リンク=テク、パワーブースト=シンクロ=テク。……レイラ、頑張ろ。」


 「それで2人に話があるの。ママも支度をして、明日魔道士達に合流する。あなた達が鍛練を続けるのもいいけど、そろそろふもとに下りたほうがいいわ。出来ればシュトランのガムの元に向かいなさい。」


 姉妹は声を揃えて答えた。

「分かったわママ。」

「危険を感じたらライラとここを離れる。」

「私達は大丈夫よママ。ママが素晴らしい魔道士なのはよく分かった。」

ライラはグランダの爪を手にしたままミランダに話した。


 ガイラはまだ戻ってこない。


 3人はテーブルを囲み、食事を始めた。

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