第20話 Chapter(章) 18

 姉妹の攻撃魔術が覚醒したバリスタン山に3人はいた。


 「ここがミランダ様が言っていた岩山だね。確かに攻撃魔術はここで全て習得出来そうな環境。……レイラはバースト系にパワー系を合わせて攻撃、ライラはムーブ系にサンダー系で追い討ちをかける攻撃。……2人共逆の攻撃魔術を使ってみよう。苦手だと思わずに、レイラはライラの気持ちになって。ライラはレイラの気持ちになるんだ。術式の強さや大きさはお互い知っているだろう?それに気を配ってやってごらん。」


 姉妹は言われた通り、得意とは逆の魔術の鍛練に取り掛かる。


 2人は少し離れ、上級覚醒した時の術式の強さや大きさを思い起こしながら始めている。

ガムはそれを遠目に見ながら2人にリンクしていた。


 「レイラ。ムーブで浮かせた岩に対してのフルサンダーの強さが弱い。ムーブに気を取られない様に。……ライラ。目標物の岩との距離を感じ取ってフルバーストの強さとスピードを変えなきゃダメだ。何度かやってごらん。」

リンクで話しかけながら、気が付いた欠点を教えている。


 「術具の短剣にも集中する。レイラはフルサンダーの時の短剣の振り方に注意する。……こうしながらムーブで浮かせた岩に振りかざす気持ちで。」

時々シンクロして身振りを操りながら教えているガム。


 「ライラはフルバーストの強さが限界点に来たらすかさず短剣を振りかざす。このスピード感がまだ足りてない。素早くだ。……こう構えて、強さが限界点に達したらすぐ、こうして相手に振りかざす。」


 鍛練しながらリンクで話すレイラとライラ。


 「ライラ。ガムさん、凄い!まるで側に付いて身振りを教えてくれてるみたい。」

「うん。レイラの言う意味が良く分かる。ママの指導と違ってこれなら苦手とは思わないわ。」

「おーい、お二人さーん。鍛練に集中集中―。続けて続けて!」

当然ガムは常にリンクしていて筒抜けの会話。


 姉妹はかなり疲弊してきた。

「はい、2人共ここで休憩にしよう。」

と、ちょうどそこにミランダもやって来た。

「聞いてたわよ。2人共鍛練中は私語厳禁。」


 レイラとライラは疲れていた様だが、ミランダが持ってきたのがランチと分かり、表情が変わった。


 「ママ。ガムさんはシンクロで身振りを操って教えてくれたの。すごく理解出来てるわ。」

「私もレイラのバーストの強さが理解出来たわ。」

「ガム。シンクロまで使って教えてたの?私はやらなかったのに。だから2人共、得手不得手えてふえてかたよっていたのね。私も今後はそうしてあげる事にするわ。……さぁ皆んな。ランチにしましょう。」


 焼きたての短いバゲットの入ったバスケットを、4人で囲んでランチタイムとなった。


 遠くにはまだ熱が冷めない幾つもの岩が、薄赤く瞬いていた。

更に遠くにはグアムスタン山の雲が白く見えていた。


 「ミランダ様。彼女達は苦手と思い込んでいただけで、力も強さもスピードも上級覚醒に相応ふさわしい出来栄えです。レイラ、ライラ。今後は苦手とは考えない事だ。上出来でしたよ。」

「ありがとうございますガム師匠。」

2人は声を揃えて答えた。


 「問題はリンクとシンクロの覚醒なの。ガムの場合はどうだったかしらね。もうずいぶん前の事だから忘れてしまったわ。」

「僕の場合、妖魔を操ったんですよ。忘れてしまったんですかミランダ様。もうあの時は無我夢中でしたよ。一体の妖魔の意識を掴んで様子を伺っていたら、急にミランダ様がもう一体の妖魔を誘き寄せて。慌てて意識を掴んでいた妖魔にシンクロして、妖魔同士で相討ちにさせたんですから。」

「危機が思わぬ力と発想を与えてくれた。だから上級覚醒出来たんじゃない。」

「ミランダ様は意地悪すぎましたっ。」

「そういうタイミングが良かったんじゃない、そう思わない?」

「以前のママは想像つかないわ、ね、ライラ。」

「うん。かなりのスパルタよね。」

「かなりなんてもんじゃない時ばかりでしたよ。まだガイラ様のが的確に指導してくれました。」

「この子達の前でよく言ってくれるわねガム。いつも半べそかいてたくせに。」

「ママのスパルタかー。今は想像つかないわー。」

「レイラの言う通り。ママは意識を掴んで見てくれてるけど、スパルタなママも見てみたいわ。」

「あら、2人共強がり言ってると後で痛い目に遭うわよ。ねぇガム?」

「え、は、はい。そうなる事もしばしば……。」

「げっ!」

レイラとライラはパンを片手に後ずさってしまった。


 「大丈夫だよ2人共。ミランダ様だって手加減はしてくれてましたから。」

「ところで、遠くの岩を見るところ、攻撃魔術から鍛練した様だけど、2人共苦手は克服出来そう?」

「もう苦手は持たないわママ。ガムさんが教えてくれた。私もライラも苦手と思ってただけ。もっと鍛練すれば大丈夫よ。」

「そこまで変わったの?……ガム、本当?」

「大丈夫でしたよミランダ様。苦手なんて事は感じませんでした。しっかり身に付くと思います。」

「ありがとうございます師匠。」

2人はまた声を揃えて言うと、バスケットに近寄った。


 「あとはリンクとシンクロね。ママは2人の意識だけ掴んでおくわ。しっかり教わりなさい。」


 後片付けをして山を降りるミランダ。


 姉妹はガムに向かって意識を掴み、リンクの鍛練だ。

……が、ガムは掴まれた意識をすぐに振り払う。

再び意識を掴みにいこうとする2人。


 「2人共。相手の意識を掴みにいくだけじゃダメだ。僕に意識を掴まれっぱなしなのに気が付かないかい?僕が妖魔だったら、逃げ場を失ってしまうよ。意識を掴まれた事を感じ取る事が出来ないと、振り払う事も上達しない。結果妖魔に接近されて、果ては死に繋がる。行動と同時に守る事も大切だ。」

「ガムさん、意識を掴まれた感覚を身に付けるって事ですか?」

「その通りだよライラ。今も2人の意識は僕に掴まれっぱなしだよ。気付かないかい?」

「分かりません……。」


 「よし。一旦2人の意識を離すよ。その瞬間と掴まれていない時の自分の身体に注意してみて。……じゃ離すよ。はいっ。」

「はっ!心の中が軽くなった様な気がする。」

「分かってるじゃないかレイラ。それが正解。もう一回2人の意識を掴むから、心の感覚を研ぎ澄ませて感じてみて。……掴むよ。……はいっ。……違いが理解出来たかな?」

「うーん、微妙に心が重々しくなった気はします。」

「ライラはどうかな?違いが感じ取れた?」

「レイラと同じ。心が重々しくなった気がするけど……。」


 「リンクで意識を掴む時、ガッチリ掴まない事。それが極意。僕から言わせてもらうと、かくれんぼしてる様な、そっと掴むと言うか、相手に悟られない位の強さで十分リンクは可能なんだよ。さ、今度は2人が僕の意識を掴んで見て。僕は気が付いたら振り払う。立っていても疲れるから、座ってやってみようか。」


 3人はその場で向き合って座った。

 レイラとライラの2人はガムの意識を掴みに行く。

が、すぐ振り払われてしまう。


 「2人共、かくれんぼしてるつもりで掴めば良い。慌てないで。探ろうとすると気が付かれる。」


 何度かガムは掴みにきた2人の意識を振り払ったが、ようやく掴む事が出来た2人。

ガムは気が付かなかった。


 「ガムさん、意識掴めてます。」

「私も。」

「リンクフル。」

ガムが呟きながら2人に掴まれた意識を増幅した。


 「あ、振り払われた。…どうして?」

「良い質問ライラ。上級魔術リンクフルはリンクの増幅がコントロール出来る。それと同時に感覚も鋭くなる。そして掴まれた意識を振り払う事が出来た。……と言う訳だよ。リンクフルにはリンクフル以上でないと振り払われるだけ。今はリンクフルで意識を増幅しただけなのに振り払う事が出来た。上達すれば、振り払うと言う感覚は持たなくても、リンクフルで強さをコントロールするだけで意識を掴まれても振り払えるのさ。」

「相手がリンクを覆い被せてくる感覚?」

「レイラはもう近いところまで来たね。……そう。意識を掴まれている感覚が無いとこっちの行動が筒抜けだ。それを常に避けるために、リンクフル以上の術式で相手の意識をおおかぶせる形になる。手を掴まれたとして、更に掴み返す感覚が1番近いかな。……今度は3人が好きな行動をしていよう。そこで意識を掴みにいく。かくれんぼの様に。そうしたら相手の強さを感じながら掴んでいる事。相手がリンクで覆い被せて振り払おうとする。更に強いリンクの力で覆い被せる。掴んで離さない事。リンクの力のコントロールが大切だよ。さぁ、3人別々の行動をしよう。」


 ガムはポケットから本を取り出し読み始め、レイラはメモにガムの言葉を書き留めている。ライラは花を摘んで、花びらをつまんでは地面に並べている。


 姉妹はそれぞれガムの意識を掴んだ。……が振り払われた。

ガムは2人の意識を同時に掴もうとしている。

姉妹は気が付かない。


 また2人がガムの意識を掴んだが、すぐに振り払われた。

その間にガムは2人の意識を掴んでしまう。


 「はい、そこまで。今僕は2人の意識を掴んでいる。振り払われていない。こう言う場合は滅多に無い事だけど、常に意識を掴まれる危機感みたいなものを持って、定期的にリンクの強さを上げる事で、弱い力で掴まれているなら振り払う事も出来る。掴む事、定期的にリンクの強さをコントロールしておく。すると、振り払う事が出来なくても意識が掴まれている事に気が付けるんだ。」

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