【短編賞創作フェスお題:スタート】亀は待つ

和泉歌夜(いづみ かや)

なにこれ

「スタートと言ってからスタートします」

 そう言ってから五十年が経過した。

 観客が皆帰り、スタートの合図をする人も帰ってしまった中、一人だけ待っている者がいた。

 亀である。

 亀はこの日のために血の滲むような努力をした。

 甲羅に重りを付けて、半日以上かけてマラソン1m進むのを毎日やった。

 その結果、亀人生で最高のコンディションが出来上がった。

 だが、この状況のせいで、未だお披露目出来ていなかった。

 普通なら二時間ぐらいで帰る所だが、亀は気が長いので半世紀も待つ事ができた。

 百年経った所で、遅いなと思うようになった。

 しかし、そうなる頃には運動場は取り壊されていた。

 けど、亀は待ち続けた。

 待って。

 待って。

 亀は待ち続けた。

 ある時、子供達が音のなる銃で遊んでいた。

 その音を聞いた亀はようやくスタートの

合図だと喜び、走り出した。

 その時、長年待ち続けたのが功を奏したのか、神から仙人的な力を手に入れた亀はたちまちマッチョになり、地球を半周ぐらい走ったとさ。

 めでたし、めでたし。

 

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【短編賞創作フェスお題:スタート】亀は待つ 和泉歌夜(いづみ かや) @mayonakanouta

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