テストのかけひき

牧田紗矢乃

テストのかけひき

「位置について――用意、スタート」


 先生の号令を皮切りに、クラスの全員がテスト用紙をめくりペンを走らせ始める。

 せわしない音を聞きながら、さてどうしたものかと俺は頬杖をついた。


 解こうと思えば解けないこともないのだろうとは思う。

 しかし、必死になって問題を解いたところでそれが何になる?

 労力に見合う報酬は、恐らくない。


 あー、でも赤点だと補習を受けなければいけないんだった。

 それは時間の無駄だから、簡単な問題を見つけて赤点を回避できる程度に解いておくべきだな。


 シャープペンを手に取って問題文に目を通す。

 問一は最初の問題というだけあって簡単な穴埋め問題。

 しかも親切に語群までつけてくれている。


 これで十五点も稼がせてくれるなんて涙が出そうなくらい優しい先生だ。

 きっと補習をするのが面倒なんだろうな。

 あとは記号を選ぶ問題を解いておけば安泰だ。


 そう思いながら何気なく目を通した文章にペンを動かしていた手が止まった。


 ――これ、アイツが苦手だって言ってたところだ。


 テスト前日の昨日になって俺に勉強を教えて欲しいと言ってきた幼馴染。

 高校に入ってからよそよそしくなったと思ったら都合のいい時だけ俺を利用しやがって。


 ……そういえばアイツと約束したんだっけか。


「点数が低かった方は、高かった方の言うことを何でもひとつ聞くこと!」


 毎回赤点ギリギリで、今までのアイツだったら絶対に言ってくるはずのないセリフ。

 それを言ってきたということは今回のテストにずいぶんと自信があるのだろう。


 なら、本気で相手してやるのも悪くないかもしれないな。

 テスト時間だってまだ半分も残ってる。


 ――同じ赤点ギリギリでも俺はやればできるんだ。

 嘘じゃないところを見せてやるよ。

 何でも言うことを聞くって言ったのは向こうだし、彼女にでもして勉強を教え込むのも悪くないかもしれないな。


 読むのが面倒で飛ばしていた文章題に戻り、俺はペンを動かし始めた。

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