第三話
今度は準決勝である。相手は小柄な男の子だろうか。手には彼の身長の2倍もありそうな槍。
例の如く試合開始を告げる破裂音が鳴り響いた。まずは距離を詰めて接近戦に持っていこうか。
しかし、その目論見はすぐに迫ってくる槍によって阻止されてしまう。リーチが長すぎる。距離を取って魔法を当てようとするが、身長が小さいため当たらない。槍の攻撃はかなり鋭く、シラーを一撃で貫こうとしている。まともに食らえば大ダメージは避けられないだろう。最悪、防御魔法が一撃で破壊されるなんてこともあるかもしれない。
突き出された槍を横に飛んで躱し距離を詰めようとするが、補助で魔法を使うらしく近づけない。これがリーチの暴力というやつか。
相手の鋭い攻撃をなんとか避けつつ、シラーはこの状況を打破する術を考える。この槍をどうにかして利用できないだろうか、と。
そのうちに、シラーはある案を思いつく。
意を決して剣を収め、迫ってくる槍に注目する。
タイミングを見計らい、横に躱してすぐさま槍を横から掴む。同時に自分の近くに支点となる平らな氷柱を生成する。相手が小さく非力なことと、てこの原理を使ったことにより相手を持ち上げる。振り回し、槍を奪い取る。落とした相手にすぐさまトドメを刺しに行く。
防御魔法が力なく壊れていった。
次は決勝戦である。準備期間に特に面白いようなことはなかったため、さっさと試合に移行する。
対戦相手は……。
「あ、お前あの時の!やっぱり思った通り、面白いことになってきたな!」
誰かと思えば、金銭問題を緩和してくれた格闘家である。確かに共に遺物を相手にしたときは相当の手練であることがわかったが、大会にここまで勝ち上がっているとは思わなかった。
こんな少女マンガみたいなセリフをこのゴツイやつに言われるとは。不覚。
この大会最後となる、試合開始を告げる破裂音が鳴り響いた。
敵は拳でなんとかする21歳……くらいの男。拳ということは、基本的には近づかせないスタイルが良さそうだ。なら、魔法主体で攻めて……。
考えているうちに、一瞬で距離を詰められる。考えている時間は二秒もなかったはずなんだが。
眼前に迫ってくる拳をギリギリで躱し、仕方なく剣を抜く。下がって距離を取ろうとするが、読まれていたらしく、さらに踏み込んでくる。アッパーを咄嗟に剣で受けたとき、鈍い感覚が剣から伝わってきた。
その異変に気づき、剣に視線を落としたときには、刀身が七割ほど無くなっていた。
次の一手を考える間もなく、体を掴まれ、上空に放り投げられた。このまま着地に失敗すればきっと防御魔法は割れる。成功したとしても着地の隙を狩ろうとしている。まずは着地を成功できるように敵をどかさないと。
シラーは炎魔法を着地点に予めばら撒く。予想通り、敵は着地点からどいた。だけどこの場合……。
着地に成功し、すぐに敵の次手に備える。これまた予想通り、ばら撒いた炎魔法が消えた瞬間、着地を狩ろうと足を払ってきた。ほぼスライディングだ。反応してジャンプで躱す。そのまま敵の顔面を踏み台にし、さっさと距離を取る。間抜けな声が聞こえたが気にしない。
敵の攻撃のスピードよりもこちらが思考するスピードの方が速い。とはいえ、そこまで猶予はなさそうだ。
まずは折られた剣の変わりとして、錆しか見えない銅の剣を抜く。斬れ味などもちろんありはしないので、致命傷を与えるには工夫が必要となる。その工夫をしたとしても、チャンスは一度きりと見るのが妥当だ。確実に当てるために、少し準備をする。
軽く息を吐き、空気を大きく吸い込む。
少し強めの魔法を使うには、詠唱が必要だ。
敵も詠唱に気づいて、より一層速度を上げる。
さて、踏ん張りどころだ。ここから敵の攻撃を全力で避ける。加えて、下手に息継ぎをしようものなら精製した魔力が乱れてしまう可能性があるため、息継ぎなしで詠唱を終わらせる。目に集中力を全て集めた。
右。左。足払い。左。右。左。回って蹴り。
詠唱はあと十秒ほどで終わる。だが、息が続かなくなってきた。十秒……。保つだろうか……。
九。八。七。
右。左。右。左。下から蹴り上げ。
六。五。四。
左。右。左。右。掴み。
三。
スライディング。
二。
跳んだところに起き上がりつつ攻撃。
一。
……詠唱完了。
空気中の魔力が氷に変わっていき、敵を氷漬けにする。特に足の部分の氷を厚くしておいた。足止めをしているうちにもう一度息を吸い直し、跳び上がる。
敵が氷を割り、動き出そうとした瞬間……。
錆で火力がより上がった炎の剣が、防御魔法を打ち砕いた。
歓声が一度にあがり、ようやく勝利したという実感が湧いてきた。
「いやー、完敗だ!」
起き上がった格闘家は止まない歓声を無視して続ける。
「お前、その歳でそんな強さとは……。ただ者じゃねえな!」
表彰式を無事に終え、高額な賞金を手に入れたシラーは、決勝で戦った格闘家「タイム」と話していた。
「なるほどなあ、つまりは村の仇を取るために、旅を始めたわけか……。よし、お前について行けば退屈せずに済みそうだ。俺も同行させてくれ!」
お節介な格闘家「タイム」が仲間に加わった。
あとがき・作者の言い訳
更新が三ヶ月ほど止まってしまい本当に申し訳ありませんでした。理由として、まず学業に追われていたこと。次に、戦闘シーンを描くのに苦労したことです。夏休み中にできればもう一つ更新したいなーと思っております。
あなたの人生の一ページ、一行、一文字になれるように精進して参ります。応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます