第二話

 次から次へと、炎魔法の物量におされ、防御魔法がジリジリと削られていく。このままでは普通に負けてしまう。

 また炎魔法が飛んでくる。咄嗟に、剣で受けてしまった。

 刹那、炎魔法は剣に纏わりつき、剣に付着していた魔力を使って燃え上がり始めた。これなら、剣で炎魔法を捌けるかもしれない。

 次に押し寄せてきた魔法を、全て斬り払う。

 敵に一瞬の動揺が見えた。その隙を見逃す彼ではない。一気に距離を詰める。途中の炎魔法も斬り捨てつつ、敵を剣の間合いに入れる。剣に魔力を流し込み……。

 暴れ回る炎が、敵の防御魔法を粉砕した。


 一回戦に勝った後。シラーは深刻な金不足に陥っていた。この大会は、世界中から参加者が集まる最大規模のものだ。そのため、開催期間も長きに渡る。その間の諸経費は、全て選手持ちなのだ。大会が終わるまであと二週間……。そんな金はない。何か金を稼ぐ手段が必要だ。街の掲示板を見ていても、せいぜいボランティアの募集くらいしかしていない。

「なんだ?金に困ってるのか?」

 声がした方を向くと、以前剣を買ってくれたあの格闘家が立っていた。

「その歳で金に困るとはな……。よし、着いてこい」

 言われた通りついて行くと、古ぼけた家?にたどり着いた。看板に書いてある文字はかすれていて読めない。

 入ってみると、よく異世界転生もので見るようなギルド?の受付が広がっていた。

 まあ、受付嬢は腰が60度に曲がったおばあちゃんだけど。普通こういうのって、元気な若い娘がやるもんじゃないの?

 ……いや、失礼なこと考えてるな、俺。

「おお……。孫か……。元気にしとったか……?」

「俺は孫じゃねえ!よく見やがれ!」

「最近はこんなに大きくなってしまったか……。お年玉でもあげようか……」

「あんたの孫はまだ10歳だ!あとお年玉のシーズンはもう終わったから!」

 格闘家がワタワタしているのを見るのはちょっとだけ面白い。

 その後、耳が遠いおばあちゃんの受付嬢となんとかコミュニケーションを取り、シラーはこの組織「アゴラ」で依頼をこなせる運びとなった。仕事を斡旋してくれる代わりに、手間賃が報酬から引かれている、という仕組みで成り立っているらしい。これでここに来ている依頼をこなせば、報酬が貰えるってわけだ。

 届いている依頼も様々で、『庭の草刈りの手伝い』から『人探し』に、挙句の果てには『魔物討伐』なんてのもある。

「お、この依頼良さそうだな!」

 格闘家が持ってきた依頼は『キューブ型古代遺物の制圧』か。難易度高くないか?

 この世界には、古代に滅びた文明の遺物が数多く残っている。魔法学が確立される前の文明のため、基本的に全て物理攻撃だ。だが、その遺物が飛ばしてくる「弾」は魔法弾より遥かに早く、現代の防御魔法でもダメージをゼロにすることは難しいとされる。その上、物理攻撃も魔法攻撃も通りにくい装甲を持っているため、基本的に近づいてはならないものとされている。

 依頼主は古代文明の研究のため、遺物を調べたいとのことだが……。並大抵の戦士ではまず勝てないため、こんな危険な依頼は誰も受けないだろう。いくら金払いが良くても、ね。しかし、この二人は並大抵ではない。

「この依頼、俺も手伝うぜ!ほら、行こうぜ!」

 二人はこの依頼を受けることにした。


 対象の古代遺物があるとされる洞窟にやってきた。中を少し進むと、寂れた遺跡にたどり着いた。さらに奥へ進み、中身を失った宝箱と共に、今回の対象である遺物を発見した。

『ガガガ……ピー……』

 孤独に現代を彷徨う哀れな遺物は、こちらを『敵』と認識した。

『……パァン!』

 銃から破裂音がしたと同時に、シラーは右腕に焼けるような痛みを覚えた。すぐに血が溢れ出す。

「回復に専念してろ!……おらぁっ!」

 格闘家は近くに落ちていた鉄パイプで思い切り遺物を殴りつけた。鈍い音はするものの、破壊とまではいかないようだ。

『ピー……パァン!』

 格闘家は銃弾を躱し、絶え間なく殴りつける。そのおかげで少し装甲が剥がれ、内部露出するようになった。が、やはりこの厚い装甲を破壊するには時間がかかりすぎる。銃弾に当たってしまい二人とも死、なんてのが最悪のパターンだ。

 ひとまず腕を撃たれた傷は魔法で治したが、どうしたものか。

 シラーは立ち上がり、剣を収めて遺物に近づく。

「……!?おい、何してんだ!」

 戸惑う格闘家を横目に遺物に触れ、内部にシラーの魔力を流し込む。異変を察知した遺物はシラーに向けて発砲しようとするが、もう遅い。

 シラーの魔力を伝って発動した氷魔法が、氷柱となって遺物の内部コアを貫いた。

『ガガガ……ガガガガガ……。』

 ついに遺物は大人しくなった。これで、「アゴラ」にも依頼完了の報告書が提出できるはずだ。


 その後、依頼完了の報告書は正式に受理され、シラー達には報酬の1000OGオレガノが支払われた。報酬の半分を格闘家と山分けしようとしたが、気にするな、自分の意思で手伝っただけだと言って受け取らなかった。

 その金でしのぎつつ、なるべく戦闘がある依頼をこなし、順調に準々決勝まで勝ち進んだ。


 準々決勝まで来ると、観客も増えてくるようだ。大体初戦の3倍ほどだろうか。

 相手はシラーと同じく剣士のようだ。若い女性、10~20代だな……。今推測できるのはこのくらいか。互いに剣を抜き、構える。

 試合開始を告げる破裂音が響き渡った。

 どちらも剣を軸に攻める。純粋な剣術勝負だ。

 暫く一進一退の攻防が続く。片方が攻撃をすればもう片方が防御するし、反撃が来れば躱す。

 技術的には向こうの方が上だろう。太刀筋に多彩さがありながら、精度がほとんど落ちていない。力で勝てないのを補おうとする動きだ。繊細で、相手が適応してきたところに変化をつける。そして少しづつダメージを通していく、という戦い方らしい。

 このままだとダメージが増えすぎて負けてしまう。何とかしなければ。

 ひとまず退いて炎魔法を放ってみる。氷魔法で撃ち落としつつ、距離を詰めてきた。剣に全体重を乗せて迎え撃つ。一際大きな金属音が鳴り、互いに膠着状態となった。

 この膠着状態で何か行動を起こさないと、押し切られてしまう。シラーは焦りから、炎魔法を連発する。負けじと相手も氷魔法で相殺……。

 少し相手が剣を押す力が弱まったような……?それに、一箇所ずつしか対応できていない……?

 シラーはすぐに様々な方向に炎を出し、相手を取り囲んで……そのまま一度に炎を放つ。

 やはり相手は一箇所ずつしか対処できないらしく、大ダメージを与えることができた。

 そうなったら距離を取ろうとする動きは読めている。バックステップに合わせて踏み込み……。敵の腹を突き刺した。

 防御魔法が砕ける音が鳴り、試合終了を告げる音も鳴った。これで残りは準決勝と決勝の二試合となった。

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