ブバリア

あませき

第1話

|『世界の均衡が崩れるとき、月の瞳と日の瞳を持った勇者が生まれる。彼の者が世界の均衡を正すだろう』__予言の書より


 シラーは呆然と立ち尽くしていた。今日は13歳の誕生日。祝いのための品を買い揃え、村に帰ってきたというのに、村は激しい炎に貪られていた。鼻をつく、家が焦げる臭いと村民の死を告げる血の臭いが、彼の頭を麻痺させた。

 だが、そんな暇はないことにすぐに気づく。まだ誰か助けられるかもしれない。シラーは村を駆け抜けていく。村の最奥までたどり着いたとき、焼けた家から誰か出てきた。

「シラー……?」

 身体中焼けていて、骨も折れて見る影もなかったが、自分の母がわからなくなるほど彼は反抗期ではなかった。

「……この手紙……読んで……。大体のことは……分かるから……。辛い思いさせて……ごめんね……」

 母親は、そこで息絶えた。何故こんなことになっているのか、何故村の人達は死ななければならなかったのか、という思いで血で汚れた手紙の封を乱雑に破く。

『貴方がこの手紙を読んでいるということは、私や村はもう悲惨なことになっているということでしょう。なぜこんなことになっているのか、それは魔王が貴方の力を恐れたからです。貴方が予言の通り生まれた勇者だからです。貴方は日の瞳と月の瞳を持って生まれ、勇者としての運命を背負っています。その勇者を恐れた魔王が、この村や私たちを……。いきなりこんなこと伝えても、実感がないかもしれません。しかし、貴方には「世界の均衡」を保つという使命があります。どうか魔王を、貴方の手で討伐し、世界の均衡を取り戻してください。……急に色んなものを背負わせてしまってごめんなさい』

 最後に、比較的新しい筆跡で一文が書き加えられていた。

『お誕生日おめでとう』

 頬を流れた涙を拭いつつ、シラーは踵を返す。もう二度と、こんな思いをする人を生まないために。魔王をこの手で討伐するために。彼の月の色と日の色に光る瞳は、決意と呪いが入り混じっていた。


 夜が明け、シラーは最寄りの国、ヒンバナガにいた。魔王を討伐するにしても、まず居場所が分からない。さらに言えば、正直1人では魔王討伐は難しいかもしれない。普通の人よりかは戦えるとはいえ、まだまだ未熟なのだ。

 ……さて、出てきたはいいものの、様々な問題がある。まずは、そこまで通貨を持っていないこと。(この世界に流通している通貨は統一されており、OGオレガノという。彼は誕生日で浮かれて散財してしまったせいで、僅かなOGオレガノしか持っていない)次に、魔王を一人で討伐できるほど強くないこと。今魔王のもとに行けば、まず骨が残るかどうかだ。

 ふと、一枚のポスターが目に入った。

「武術大会 開催!

 今年も武術大会が開催されます。世界各地から強者が集まるなか、勝利と栄光を手にするのは誰だ?

優勝賞金 20万OGオレガノ

 なるほど、武術大会か……。強者と戦うことによって、自分自身が鍛えられる。もしかしたら、そこで強い仲間も見つかるかもしれない。あわよくば、賞金も……。

 シラーは早速大会への参加を決めた。

 渡されたルールブックを見てみる。戦闘時の持ち込み物に不可なものはないようだ。剣でも杖でも良いらしい。勝利条件は「相手の防御魔法を破壊すること」か。本来であれば防御魔法は攻撃によるダメージを軽減するもので、壊すものではない。だが、大会が独自の防御魔法をかけるようだ。ダメージを肩代わりしてくれて、耐久の限界で壊れる、と。

 持ち込む武器は剣だろう。だが、今持っている剣は錆しか見えない銅製の剣だけだ。斬れ味はほぼゼロ。よく考えれば、これでよく魔王を討伐するとか抜かしてたもんだ。買い直すにも、金がない……。これは早々に詰んだか?

 ひとまず武器屋に足を運ぶ。一番安い剣でも、200 OGオレガノはする。どうしたもんか……。

 ふいに後ろから声がした。

「それ、武術大会のルールブックか?ということはお前も出るんだな!」

 振り向いてみると、いかにもという体格の格闘家?が仁王立ちしていた。

「その剣の錆、尋常じゃねえな。どれ……。おい、武器屋のオヤジ!金は俺が払うから、こいつに剣をくれてやってくれ!」

 格闘家の一言で、 武器屋の店主が剣をいくつか持ってきた。

 その中から自分のスタイルに合ったものを選び、会計は宣言通り格闘家がしてくれた。

 買ってもらった細身の剣は軽くて動きやすい。それでいて、充分な切れ味だ。

 でも、どうしてこの格闘家は剣を買う金を出してくれたんだろうか?

「なに、そっちの方がより面白くなると思っただけだ!」

 そう言って、格闘家は帰って行った。

 シラーは大会が始まるまでの間、鈍っていた剣の練習などで時間を潰した。


 武術大会当日。シラーの番号が呼ばれ、いよいよ対戦の時がやってきた。

 相手は魔法使いのようだ。両手持ちの杖を使うタイプということは、魔法の威力が高めだろう。代わりに機動力に欠ける。セオリー通りに距離を詰めて戦うべきだ。

 試合開始を告げる破裂音が響き渡った。

 同時に炎魔法が飛んでくる。ギリギリのところで躱したと思うと、次から次へと魔法がひっきりなしに飛んでくる。距離を詰めるはおろか、捌き切ることすら難しい。

 物量に押され、一方的にこちらが消耗していく。何とかしなければ……。



【あとがき】

 この小説を読んで頂き、ありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。作者が学生ということもあり、学業と両立させるために更新は不定期になります。どうかご容赦ください。ここからは特に必要ない情報ですので、めんどくさかったらさっさと読み飛ばしてください。

 実はこのシリーズは、途中までpixivで投稿していました。しかし見切り発車のツケがきて、段々とストーリーが作者の頭の中でこんがらがるという意味のわからない状況になり……。結果、ここで書き直すことを決めました。今度は結末も定めているし、ある程度の線引きはしてあるため、前回みたいなことにはならない……と信じたいです。しかしまだまだ未熟なことは確かですので、温かく見守っていただけると幸いです。

 あなたの人生のほんの一ページ、一行、一文、一文字を埋められるよう精進して参ります。

 よろしくお願いします。

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