第8話 冒険者たち(その8)
ケンタウロスは、主に平原で暮らしている種族で、下半身には強靭な四脚の足がある。
屈強な体は、ヒューマンの5倍以上、ドワーフの3倍以上の力を持っている。脚力は、遅くても70キロは出すことができ、連携すればドラゴンすら倒すこともできる。
生まれながらの狩人にして、優れた戦士であり、ハドリアス帝国が全盛期の頃は、大勢のケンタウロスを騎士として雇ったことから、西方大陸のほとんどを手中に収めることに成功していた。
「とりあえず、ささと、グリフォン達を救出して、速やかに転移魔法を使って、撤収てのが一番だと思うのよね。」
ディアナはそう言った。
「否、それが無理みたい。」
以外にもウォンが否定の声をあげた。
「今、探索(サーチ)魔法を使ってみたら、どうやら周囲に結界を敷かれているみたいで、多分、転移魔法の類が使えないみたい。」
「ええ?」
ディアナが声をあげた。
「じゃあ、何か?もう一人、魔法が使える敵がいるってのか?」
ジュウベエが聞いた。
「否、魔法で探りを入れてみているけれども、どうも、ここら辺にいないみたいだな、あの騎士が身に着けているものの中に、結界を張る魔法道具があるんじゃないか?」
ウォンはそう言った。
「何もんだよ、あの騎士。」
ロウはつぶやいた。
「今は、騎士の正体について、論じている暇はない、とりあえず、あの騎士を倒す以外に、グリフォンを救うこともここから脱出する術もない。」
ジュウベエが言った。
「でも、どうするの?相手は騎士の上位職のヘヴィーナイトよ。」
ディアナが質問した。
「探索魔法が使えたってことは、魔法そのものは、問題ないのか?」
ジュウベエが、ウォンに確認をした。
「ああ、問題はないみたい。ただ、空間を歪めるタイプの結界だから、あんまり射程距離の長い魔法はだめだな。」
「魔法が使えるなら、なんとかなるかもしれない。」
ジュウベエはちらりと、外を見ながら言った。
即興ではあるが、ジュウベエは、頭の中で戦術を打ち立てていた。
一方、騎士は、二頭のグリフォンを文字通り、その蹄のある足で蹴散らすと、ランスでとどめを刺そうとした。
すると、上の方から、グリフォンを呼ぶ笛の音が響いた。遺跡のバルコニーから、ジョウンズとルークが、グリフォンを呼び寄せたのだ。
グリフォンはすぐに空を飛んで、主たちの元に戻っていった。騎士は、少し考えてから、遺跡の中に入ろうとした。すると、中から、強力な冷気を浴びせかけてきた。
内部では、自身の周囲に魔法陣を開いたウォンが、氷雪魔法を使ったのだ。彼が使っている魔法は、第二段階の威力であり、術者の身をまもるために魔方陣を張らなければならない。
魔法で呼び寄せた氷の塊のような精霊核は、ウニのような鋭角な形状となっており、霊気だけでなく、雪や氷を浴びせかけてきた。
騎士は、とっさに盾で、冷気を防いだ。ケンタウロスは魔法こそ使えないものの、体内にマナやジン(精)を大量に含んでいるため、魔法に対する抵抗力は高かった。
加えて、盾にはウォンの見込み通り、護法が仕掛け垂れており、第二段階の氷雪魔法でも、苦も無く防ぐことができた。
しかし、目くらましには最適であった。
ロウ、パグ、ジュウベエの三人が、遺跡の入り口から出てきて、騎士に切りかかった。
三人の攻撃を盾ではじくと、ロウ、パグ、ジュウベエの三人は、騎士の周囲を囲んだ。
騎士もまた、三人を見渡して、体の向きを変えると、上から、ディアナの矢が飛んできた。
ルークとジョウンズとともに、バルコニーに潜んで、騎士を狙撃したのだ。
しかし、騎士は、後ろ足で矢をはじいてしまう。ロウは、とっさに横から切りかかったが、騎士がランスを使って防ぎ、逆にロウは薙ぎ払われてしまった。
「こっちだ!!」
パグは、正面から騎士と対峙した。猫科猛獣の獣人である彼は、メンバーの中でも一番身体能力が高い。
騎士のランスと、パグのドラゴンホーン(ドラゴンの骨を削って作った槍)が真っ向からぶつかり、両者は力比べをすることになった。しかし、四足歩行である騎士の方が突進力が強いのか、パグは、そのまま押されてしまう。
すると、わずかな隙をついて、ジュウベエが切りかかった。いつものナイフではなく、トーア国特有の「刀」と呼ばれる鋭い片刃の剣で、騎士の盾を切り裂いてしまう。
騎士は、パグを弾き飛ばすと、舌打ちして、盾を放り投げてしまう。
「ウォン!」
ジュウベエがウォンに確認した。
「だめだ!まだ結界は継続している!!」
騎士は、ジュウベエに向かって突進していったが、ジュウベエはギリギリで交わすことができた。
「この野郎!」
ロウは、強化魔法で体を強靭にして、騎士に切りかかった。だが、それでも騎士はロウの攻撃をいなしていった。盾を捨てたことで、逆に動きが良くなったようだ。
ロウは、力負けして倒れてしまうが、とっさにウォンが浮遊魔法で救出した。すると、上からディアナが矢をつるべ撃ち(続けざまに撃つこと)してきた。
騎士は、ランスを振り回して、ディアナの矢を防いだが、このときパグはとっさに手甲型のかぎ爪を使って、騎士の背中を思いっきり攻撃した。
鎧である程度ふさがれていしまったが、それでも背中には大ダメージを負って、騎士は倒れこんでしまった。
ケンタウロスは、背中に副脳(もう一つの脳)があるため、背中を攻撃すると、ショックで倒れてしまうのだ。
「終わった。」
ロウ達がへたり込むと、ジュウベエとパグは用心しながら、騎士の足を縛り、一同は、騎士を取り囲んだ。
「オイ、ケンタウロスのあんちゃんよ、これから俺たちの質問に正直に答えるんだ。さもないと、痛い思いじゃすまないことになるぜ。」
ロウは、ケンタウロスを見下ろしながら言った。
「あいつ、本当に元僧侶なのか?」
「完全に、ギャングじゃないかよ。」
パグとウォンが呆れたように、言った。
一方、ジュウベエは何か嫌な気配を感じた。そして、ロウに向かって「離れろ!」と言った。
ロウはとっさにケンタウロスから離れると、ケンタウロスは急に炎となって燃え上がった。
炎は、青白く、普通の魔法で生み出された炎とは思えなかった。
「まずい!」
とっさにウォンは、氷雪魔法で、騎士の炎を消そうとしたが、間に合わず、結局、騎士はそのまま死んでしまった。
ジュウベエと、パグは、周囲を見回したが、誰もいなかった。
「結界が解除されているが、魔法は探知されていない。」
ウォンは、魔法の羅針盤を幻像として映し出したが、魔導士らしき存在は、この周辺に見当たらなかった。
「長距離から魔法を飛ばしてきたか?あるいは、探知されないように身を隠したか?いずれにせよ只者じゃない。」
ウォンは感心したような、驚いたような声をあげた。
「どちらにせよ、こいつが何者で、何で俺達を襲い掛かってきたのか、分からずじまいとなったな…」
ジュウベエは、黒焦げになった、騎士の死体を見て言った。
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