第6話 冒険屋たち(その6)

飛行車をけん引していたローランドグリフォンは、少しずつ速度を落とし、ゆっくりと下降していった。


無事着陸すると、2人の御者は、中にいるロウに声をかけた。


「お客人、到着しましたよ。」


御者は若いのと年配の二人いるが、声をかけてきたのは、若い方であった。


ロウ達は飛行車を降りると、目の前にある古の神殿を目の当たりにした。


「こりゃでけえな…」


ウォンはさっそく驚きの声をあげた。古の神殿は、広大な草原にそびえたっている、五階建ての建造物で、見た目は巨大な台形の建造物である。


元々、ガルディア寺院が管理していたため、この遺跡は神殿として扱われていた。


石を削り出して造られているのか、それとも他の何かで製造されたのかは定かではないが、のっぺりとした鉛色の外観で、張りがある以外はあまり飾り気のない建物であった。


頂上階は、少し小さくなっており、周囲にはバルコニーがあった、近づいて見ると、巨大な台形の上に、角ばった石が置かれているように見えた。


オーブから渡された資料には、古代の魔術師が、魔法で神殿の上を遠隔透視して撮影した写像があり、上から見ると八方型であることがわかる。


「確か、この近くにあったガルディア王国の王廟遺跡もこれを模して建造されたとか。」


ジュウベエはつぶやいた。


「あっちは九方型と聞いたぞ?」


ウォンは資料を見ながら言った。


「お二人さんよ、今日は飛行車で荷物を預かってくれるっていうから、必要最小限程度の荷物でいいみたいだぞ。」


話し込んでいるウォンとジュウベエにパグは声をかけた。


いつもは、一番力のあるパグが荷物を持ち歩き、戦闘の際は安全な場所に置いて、誰かが荷物番をしなければならなかったが、今回は飛行車の御者が預かってくれることになった。


しかも、宮廷御用達の飛行車なので、これほど安全なものはない。


ウォンはいつも以上にメモ用の巻紙を背嚢に詰めた。オーブから記録を頼まれていたのだ。


「それじゃ出発します。」


一同がグローブをはめるのを見届けると、ディアナは御者の二人に声をかけた。


「お気をつけて。」


御者の二人は一同を見送った。


ロウ達が立ち去ると、2人の御者のうち、若い方が年配に声をかけた。


「正直、ついていかなくてよかったすよ。ここの神殿って、気味が悪いですし。」


「まあ、確かにな。何しろ、あの英雄マックスが消息を絶ったって所だしなあ。」


年配の御者もうなずいた。


ロウ達は神殿の内部に入っていった。一階は巨大な柱が立ち並ぬ広大な空間になっていた。入口は、ロウ達が入ってきたところ以外にも数か所あり、建物が八方形であることから、八か所あると思われた。


文献によると、古い時代では寺院の僧侶たちが、ここで祭礼を行っていたと言われている。


あまりに壮大な空間にジュウベエ、ウォン、パグの三人は圧倒された。


「あんた達、気をつけなよ。確か、この辺りに魔物がうじゃうじゃいたからね。」


ディアナは三人に注意した。


「そうなのか?」


そう言って、ウォンは身構えた。しかし、パグとジュウベエが周囲を探ると、鼠一匹見当たらなかった。


「何もないみたいだな。」


パグはそう言った。ウォンは探知(サーチ)魔法で、羅針盤のような幻像を作り出すと、周囲に魔物がいないか探ってみたが、何もいなかった。


「変ね?五年前は、そこら中に魔物がいたのに。」


ディアナがそう言うと、ロウもうなずいた。


「この階をみんなに任せて、俺とマックスはイブリースのいる頂上階を目指したんだ。」


「ふうん、じゃあ、あんたらが退治して逃げちゃったんじゃないの?」


ウォンがそう言うと、パグは首を振った。


「魔物は基本的に、マナが集まるところに来る習性がある。だから、神殿や祭壇なんかは、魔物の巣窟になる。一度、追い払っても、時間がたてば、また集まってくるはずだ。」


「ああ、そう言えば、そうだったな…」


マナに関しては、魔導士のウォンが専門であったのに、失念してしまった。


「確かあの時は、戦いの途中で、マックスが転移魔法(リターン)を使って、あたしらは神殿の外に転送されたんだ。」


ディアナが言った。


「おれもだ。マックスと一緒に頂上階に向かったら、なぜか急にマックスは転移魔法で俺を外に出したんだ。」


ロウがそう言うと、ウォン、パグ、ジュウベエの三人は顔を見合わせた。


「マックスはあんたらを逃がして、自分だけでイブリースと対峙したってのか?」


ウォンはロウとディアナの二人に聞いた。


「だと思うんだけどもねえ?」


ディアナはロウの方を見ると、ロウは帽子を目深にかぶった。


「とりあえず、上に行こうぜ。神殿を調査しねえとな。」


ロウがそう言うと、一同は頂上階を目指した。一階の中央に、特殊な魔法陣があり、ウォンがそれを調べると、浮遊魔法を使った昇降機と見抜いた。


一同は魔法陣の中に入ると、魔法陣が描かれた床が浮遊し、ロウ達を二階にまで上がらせた。


「これ、古代人の造った昇降機ね。」


ディアナはそう言った。


「前の時は、これを使わなかったのか?」


ウォンが聞いた。


「壁の脇に階段があるんだよ。俺とマックスはそれを使った。まあ、あってもイブリースの奴が使えなくしていただろうしな。」


ロウは言った。


一同は二階に上がると、周囲を探った。二階には、巨大な石板が並んでいるだけで、何もなく、三階も同じであった。


四階には、机と椅子がいくつも並んでいた。棚のようなものがあり、そこにはタブレット(金属製の板、元は石板や粘土板を意味する言葉)のようなものがたくさんあった。


「何だろうな、これ?」


ウォンがワンドでタブレットを軽く突くと、タブレットが急に光り、文字が並んででてきた。


「こりゃ、古代人類の記録文献じゃないか!」


「内容わかるか?」


ジュウベエが聞いた。


「否、解読には時間がかかりそうだ。とりあえず、片っ端から記録するか?」


ウォンはそう言うと、背嚢から記録用の巻物を取り出して、ワンドを振った。すると、巻物はひとりでに開き、ウォンが持っているタブレットに表示されている文字を複写した。


「こりゃ、時間かかりそうだな。」


「下の階にあった石板も、もしかしてこれとおんなじ物なのかな?」


ウォンの手伝いをしながら、ジュウベエが言った。


「あっちは多分、情報が詰まっているんだと思う、こっちは端末かな?」


一同がわからないような表情を浮かべると、ウォンは解説しなおした。


「要するに、あそこの石板に色んな情報が宿っていて、こっちのタブレットで石板に宿っている情報を取り出しているんだよ。魔導士の中にはそうやって、知識を記録したり保存したりしている人がいるらしいんだ。」


「今ある魔法の大半は、もともと、古代人類が生み出したものだったというのは、本当なのか?」


ジュウベエが聞いた。


「さてね、ギルドでも学者でも意見が分かれているらしいからな。」


ウォンは言った。


ウォンの巻物が限界に達すると、一同は頂上階を目指した。


「ここだ、イブリースの奴とマックスが戦っていたのは。」


ロウがあたりを見渡すと、そこは、ほぼ何もない、広大な空間であった。

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