第5話 冒険屋たち(その5)
ガルディア王国にある古代遺跡「古の神殿」とは、建国以前よりこの地にあった古代遺跡であり、魔導士ギルドからは「神々の遺産」と認定されている遺跡である。
神々の遺産とは、約1000年以上前の古代文明遺跡の総称であり、その遺跡で発見されている遺物は、いずれも現在の技術を上回るほどの高水準の技術を使って、製造されている。
中には、国宝に認定されるほどの力を持った遺物も存在する、だが、用途のわからないものも多く、魔導士ギルドや寺院の研究者たちでも解析することが困難なものが多い。
「この古の神殿は、我が国が所持する貴重な神々の遺産ですが、五年前、ハドリアス帝国との戦い終了後以降、封鎖されたままの状態となっています。」
ノーバが説明すると、ウォンがおずおずとした口調で質問した。
「あの、神々の遺産をなんでそんなに放置していたんですか?」
「あそこはね、イブリースが一時的に根城にしていたのよ。」
ディアナがそう言うと、ウォン、ジュウベエ、パグ、そしてティオは、急にそわそわしはじめた。
イブリースとはハドリアス帝国の軍師を務めていた魔導士であった。彼は、当時の皇帝がまだ王であった頃に突如現れると、その才覚を王に見初められて臣下となったのである。
イブリースは、政治や軍事、古代文明に関する高い知識を持ち合わせており、ハドリアス王国の近隣諸国を侵略して、帝国にまで発展させた張本人であった。
西方大陸にあったハドリアス帝国であったが、とうとうガルディアのある東方大陸にまで覇権をおよぼし、ガルディアの先代国王を暗殺するまでに至った。
やがて、マックス達はクルセイダーズを立ち上げ、そして、苦労の末、ハドリアス本国まで攻め入ることに成功すると、イブリースは国外に逃亡し、皇帝とその娘は自害して果てた。
その後、マックス達はガルディアに帰国し、英雄として迎えられた。しかし、イブリースがガルディアの古の神殿に立てこもっているという知らせを聞いて、マックスは、仲間たちとともに駆け付けた。
やがて、マックスとイブリースは、神殿の最上階で一騎打ちしていたのだが、なぜか二人とも、消息を絶ってしまったのだ。
「イブリースは古代文明に精通していただけでなく、魔術にも長けていたゆえ、神殿に何かしらの細工をしていた可能性があったため、あの神殿を封鎖せざるをえなかったのです。」
ノーバは説明した。
「ですが、いつまでもこのまま放置しておくわけにはいけません。しかし、あのような事件があった後ですから、不用意に王宮の魔導士や軍を動かせば、国民を不安にさせてしまいます。そこで、まず、冒険屋の方々を先遣隊として派遣することにしたのです。」
アンナは言った。
「その時に、ティオから、ディアナが、まだこの国で冒険屋をやっていると聞いたので、あなた方に依頼したのです。」
アンナはデそう言って、ディアナに顔を向けた。
「いかがですかな?もちろん危険手当ははずみます。何より、事情を知っている者がいれば心強いですからな。」
ノーバがそう言うと、一同は顔を見合わせた。
「ガルディアの神々の遺産が拝めるのなら、魔導士として行かないわけにいかないっすよ。」
ウォンがそう言うと、パグも「俺も賛成だ」と言った。
「貴重な歴史的遺産を拝む機会でもあるしな。」
ジュウベエも同意した。
「危険手当が、がっぽりつくなら、引き受けないわけにいかないわね。」
ディアナも同意したが、なぜか、ロウだけは黙りこくっていた。
「ロウ、あなたはどうなのですか?」
アンナが聞くと、ロウは「うん?ああ…」お茶を濁したような返答ばかり返してきた。
「あなた、パーティのリーダーなんでしょ?しっかりなさいな!」
アンナが𠮟りつけると、ロウは「急にどうしたんだよアンナ、おれに惚れたか?」と茶化してきたので、アンナは「ロウッ!」と凄まじい目つきになって一喝した。
―アンナ様をあんなに怒らせるなんて、あの人一体…
初めて見るアンナの激昂する姿を見て、近くにいたティオは萎縮してしまった。
「わかった、わかった、行きますよ、行きます。」
ロウが大慌て言うのを見届けると、アンナは全員に向かって「それでは飛行車を手配しますので、荷物の準備をして、王都の停留所まで来てください。」と言った。
ロウ達が去ると、アンナはティオとノーバと共に執務室の方に移動した。
「アンナ様、冒険屋を雇って大丈夫ですか?」
ティオは、ソファでくつろいでいるアンナに質問した。
「あら、お姉さんのこと信用できないの?」
アンナは膝の上で寝ている使い魔のアレックスを撫でながら言った。
「いいえ、そうではなくて(弱冠それもあるけれども)、あのロウっていう人、アンナ様をいやらしい目で見ているものですから、つい…」
「私も、あの男がいたのは計算外だったけれどもね…」
アンナは少々顔をしかめた。
「まあ、ロウ殿もここぞというときはやってくれる男です。何よりもマックス殿のパートナーだった者、なんだかんだで勤めを果たしてくれるでしょう。」
ノーバは取り直すように言った。
「ノーバ様がそうおっしゃるなら、ただ…」
「まだ何かあるの?」
ティオが納得でき無さそうな表情をしているのを見て、アンナは聞いてきた。
「…子供を雇っているのが気になりまして、冒険屋稼業って危険な仕事のはずなのに。」
ティオはジュウベエの顔を思い浮かべながら言った。
「私も、疑問に思っていたわ…何か事情があるのかしら?」
アンナもいぶかしんだ。
「変ですな、記録上では二十代と、まあヒューマノイドの年齢はわかりづらいですからな。」
ノーバは書類を見ながら言った。
アンナは、机にアレックスを優しく置いてから、書斎机に飾ってある写像をちらりと見た。
―マックス
そこにはかつての戦友であり、そして自身が誰よりも愛した男の姿があった。
◇
ロウ達は、荷物を整えると、アンナが手配した飛行車に乗った。飛行車とは、錬金術師が製造した特殊なガスによって浮上させ、ローランドグリフォン(ヒッポグリフのこと、本作ではそう呼ぶ)に、けん引させて空を飛ぶ乗り物である。
「いやあ、やっぱり王宮の仕事はいいねえ、前金で新品の杖が買えたよ。」
ウォンはそう言って、買ったばかりのメタルスティックを頬ずりした。
「しかも、あの女王様、気前がいいだけじゃなくてさ、なんかこう、立ち居振る舞いに気品が感じられるんだよね。誰かさんと違ってさ!」
「誰かさんって誰のことだよ…?」
ディアナは肩眉をあげて聞いた。
一方、ロウはどこか心あらずで、窓の外の風景ばかりを見ていた。
「ロウ、どうしたんだ?」
たまりかねたようにパグが聞いた。
「うん?いいや別に…」
再びあいまいな返事をするロウに、ウォン、ジュウベエ、パグの三人は顔を見合わせた。
ディアナだけは、一瞬、訳を知っているような表情を浮かべつつも、結局黙りこくってしまった。
「搭乗者の皆様方、もうじき到着しますので、しっかりとベルトをしてください。」
グリフォンを操縦している御者の一人が、声をかけてきた。一同はベルトを締めなおすと、飛行車はゆっくりと着地した。
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