第4話 冒険屋たち(その4)
ガルディア王国の城は、古代遺跡の上に建造されており、地下には巨大な空間があった。
この空間は、一説によると、初代女王が祭礼の際に使用していたとも言われてるが、現在では緊急時の避難場所としか、使用されていない。
また、坑道のようなものがあるようであるが、完全に封鎖されてしまっているので、今となってはいかなる用途で造られたのかわかっていない。
ロウ達は、城のバービカン(城門)で、手続きを行っていた。武器は兵士たちに預けることになり、一同は弱冠不満気味であった。
「ちょっと、厳重すぎない?」
ディアナがすかさず文句を言った。
「しょうがないだろう?五年前あんなことがあったんだしさ。」
背中にボウガンを背負ったエルフの兵士がそう言った。
「とりあえず、ティオ魔導官を呼んだから、待っててくれるかな?」
城の兵士はそう言った。しばらくすると、エメラルドグリーンのフード付きのマントに、えんじ色のローブを纏った魔導士の女の子が現れた。髪はディアナと同じ赤毛で、ポニーテールにしていた。
「お姉ちゃん、久しぶり!」
彼女は、ポニーテールの髪を揺らしながら、ディアナの元に駆けつけてきた。
「ティオ!大きくなったわね。」
ディアナはうれしそうな声をあげた。
「もう、この間あったばかりじゃない。」
そう言いつつも、ティオもどことなく嬉しそうだった。
「紹介するわ、妹のティオよ。」
「はじめまして、姉がいつもお世話になっています。ガルディア王国宮廷2等魔導官のティオと言います。」
ティオが礼儀正しく自己紹介すると、一同もつられて、それぞれに自己紹介をはじめた。
「おれはウォン、同じ魔導士です。」
「俺の名はジュウベエ。」
「パグ・ナクと言います。」
三人が紹介し終わると、ウォンが、ディアナに耳打ちしてきた。
「本当にお前の妹かよ、めちゃくちゃ礼儀ただしいじゃねえか。」
ウォンの言葉に、ディアナは「どういう意味よ、それ?」と眉をひそめた。
「まあ、母親は違うけれども…」
ディアナはこっそりつぶやいた。
「いや、こんな可憐なお嬢さんだったとは、あ、はじめまして、ディアナ君の上司で、ロウと言います。」
ロウは、気持ちが悪いくらい礼儀正しい言葉遣いをすると、懐から花をだして、戸惑っているティオに差し出した。
「お近づきにこれを…」
「はい、これは没収とさせていただきます。」
近くに居た警備の兵士が、ロウが渡そうとした花をとりあげてしまった。
「なにすんだよ!人の贈り物を!!」
ロウが抗議の声をあげた。
「あんたね、公務員に贈り物をしちゃいけないって決まり知らないの?」
花をとり上げた兵士は、冷たく言った。
「あやしいものじゃないよ!そこらに咲いていた花だよ!!」
「あんたね!そんなもんを妹にやるないでちょうだい!!」
ディアナが抗議の声をあげると、ティオは困惑した笑みを浮かべた。
「な、なんかユニークな人だね。」
「ユニーク程度じゃ、すまされないわよ。」
ディアナは頭を抱えた。
ティオはさっそく一同を城へ案内した。ガルディア王城は、思っていたよりも広く、巨大な柱が並んだアーチ型通路だけでも、町の道路より大きかった。
地下にある巨大空間は、この城より広いようなので、かなり広大な空間と思われた。
ティオの案内がなかったら、一同は城で迷子になっていたであろう。
ティオは、どこかの部屋の扉をノックすると、中から女性の声がした。ティオは静かに扉を開けると、静かにお辞儀して、部屋に入った。
「失礼いたします、アンナ様。客人をお連れしました。」
「ご苦労様です。客人たちを部屋の中にお入れなさい。」
部屋の中から穏やかそうな女性の声が聞こえてきた。
「はい、ただいま。」
アンナと聞いて、一瞬、一同は顔を見合わせた。するとティオが「皆さんどうぞ」と言って、全員を部屋の中へ招いた。
部屋の中には、銀髪で、肩にカーバンクルを乗せて、濃紺のドレスを着た女性がいた。まだ若く美しい彼女を見て、一同は驚いた。
ガルディア王国が運営している魔法学院のポスターの写像(魔法で紙に焼き付てけて撮影する写真のようなもの)に写っている、ガルディアの女王そのままだったからだ。
「わたくしが、今回あなたがたに依頼する、アンナ・ガーランドと申します。」
その美女は名乗った。
「アンナ・ガーランドって、ガルディアの女王…陛下でしたか?」
ウォンはそう言うと、「は、はじめまして、自分は魔導士のウォンと申します。」と、緊張しながら自己紹介すると、「ああ…もっといいローブ着てくりゃよかった」と言って、自分の今着ているローブを見返した。
ウォンが今着ているのは、冒険屋稼業をしているときに着ている、裾の破けたローブではなく、しっかりとしたデザインであったが、それでも、引け目を感じてしまったようであった。
ジュウベエとパグも緊張しながら自己紹介をしていった。ディアナは、ぎこちない挨拶をする彼らを横目で見て、「だらしない男子たちね」と言いながら、前に進み出た。
「女王陛下、この度はお招きいただいて、ありがとうございます。」
ディアナは厳かに挨拶してから、急に笑い出した。
「なんてね、久しぶり!アンナ。」
「あなたも変わりないようね、ディアナ。」
不躾なディアナの挨拶に戸惑うこともなく、アンナ女王は笑みを浮かべた。
「ちょっと、お姉ちゃん!何を!」
ティオは姉の振る舞いを見て、大慌てでたしなめようとした。
「大丈夫よティオ、彼女は、あれ?もしかして、何も言ってないの?」
アンナは、ディアナの方を向いた。
「いや、ちょっと照れくさくてさ…」
「ティオ、彼女はね、わたくしと同じ、クルセイダーズのメンバーだったのよ。」
「えええ!」
アンナの言葉に、ティオはショックを受けてしまった。その様子を見て、アンナはクスクスと笑いを浮かべた。
「そう言えば、ガルディアの女王様って、魔導士としてクルセイダーズの一員に加わっていたと聞いたな。」
ジュウベエはウォンとパグに言った。
アンナは15歳の時に、先代国王が暗殺されたため、王女としての地位を捨て、クルセイダーズの一員となったのであった。そして、戦いが終わると、彼女の功績を知った国民に望まれるように、十代の若さで女王に即位した。
「やれやれ、水くせえなお前って奴はよ。」
急にすかした言葉が聞こえて、全員は言葉の出どころの方を向いた。
「お前が一声かけてくれば、おれは世界の果てからでも、すっ飛んできたってのによ。」
ロウは帽子を押さえながら、気取った表情でアンナに言った。
「ロウ、あなたは相変わらずですね…」
にこやかではあったが、アンナからヒヤリとした空気が出てきた。
「おおよ、おめえもイイ感じの美女になったじゃねえか!」
急にはしゃぎだしたロウを見て、アンナは静かな口調でこう言った。
「言っておきますけれどもね、ロウ…、五年前と同じことをしたら、国外退去じゃすみませんからね…」
アンナが言葉の最後のところに威圧感を込めて言うと、ウォン、ジュウベエ、パグの三人は一斉に「お前、何やったんだよ!!」とロウに詰め寄った。
「やだな、あれはコミュニケーションですよ!王族を慕う国民の悪ふざけ!!」
「ほう…」
まるで悪びれる様子の無いロウに、アンナは静かな怒りを見せた。
すると、扉がノックされ、片目に眼帯をした竜人族の老人が入ってきた。
「随分とにぎやかですな。」
「ノーバ様。」
アンナは声をかけてきた。
「おやおや、久しぶりに見る顔がいますな。」
ノーバはディアナとロウを見て声をかけた。
「どうも、久しぶり。」
「ノーバさんもお変わりなく。」
ロウとディアナはノーバに挨拶した。彼は、ガルディア王国の政治参謀にして、アンナの後見人であり、そしてクルセイダーズの軍師を勤めた人物でもある。
ノーバが入ってくると、アンナはロウ達をソファに座らせた。ディアナは腰を落ち着けるなり、オーブに声をかけた。
「ノーバさんまで出てくるなんて、どういうこと?」
「特に大事というわけではありません。今回あなたがたに依頼する内容というのは、ガルディア王国にある遺跡、古の神殿の調査なのです。」
オーブは持ってきた資料を机の上に広げながら言った。
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