第3話 冒険屋たち(その3)

ロウは夢の中で、5年前の僧侶時代に戻っていた。遺跡の内部で、彼は、階段を大急ぎで昇って行った。


やがて、遺跡の上部にある部屋に入ると、鎧を纏った一人の男がいた。


彼と自分との間には結界が張られ、男は強力な魔法を使った名残からか、結界に残留魔力が反射し、周囲に光が立ち込めているため、黒い影のようなシルエットしかわからなかった。


その影がいかなる人物なのか、ロウにはわかっていた。


「マックス!」


ロウは、結界の外からその影に言った。


「どうしたんだよ!俺がわからないのか?」


ロウは声をかけたが、再び光が周囲を覆ってしまった。すると、ロウはそこで目を覚ました。


「どうした?」


近くにいるジュウベエが声をかけた。ロウは周囲を見渡すと、自分が夢を見ていたことと、野営していることに気づいた。


雨が降っていたため、一同は石柱の一つに天幕を張り、そこで睡眠をとっていた。


「なんだ。お前は見張りか?」


ロウはジュウベエに言った。よく見ると、ジュウベエは何か書き物をしていた。


「記録か?」


「ああ、ここの遺跡と周辺の歴史を記録している。」


「ああ、そういやお前、歴史学者になりたいんだっけな。」


「ああ。」


「まあ、がんばれよ。そういうのも金になるからさ。」


そう言って、ロウは近くにあった酒瓶に雨水を入れて飲んだ。


   ◇


ガルディア王国は、この世界にある2つの大陸のうち、東方大陸の海岸沿いにある。初代女王が魔術の達人であるため、多くの魔導士がいる国でもある。


さらに、武術、芸術などにも力をいれており、多くの武人や芸術家も輩出している。


また、今までの魔導士は徒弟制で育成されていたが、現女王が魔法学校を設立したため、さらなる優秀な魔導士が育成されていった。


近年は、蒸気機関の発達とキャタピラー式の車輪が開発されたために、キャタピラーで走る蒸気機関車が発明された。


強靭な大型機関車の開発により、移動中に襲い掛かってくる魔物の脅威から、乗客を守ることができ、安全な交易が行われことに成功した。


そして、これにより、隣国との商業が円滑に行われるようになったのである。


それでも、魔物の脅威が無くなったわけではなく、また、古代の魔導士の作って放置された祭壇や、戦争で建造された砦に魔物が住みつき、問題となっていた。


この問題は世界各国で存在しており、また一方で、退役した兵士の再雇用場所としての必要性から、ストライダー(冒険屋)ギルドが設立された。


ガルディアでもストライダーギルドがあり、パブ(公衆酒場)の地下に存在している。


ギルドには冒険屋だけでなく、彼らを雇ったり武器や道具を売りつけるために商人や職人、魔導士が頻繁に出入りしていた。


パブでは先ほどから、ウォンが遺跡で拾った精霊の翼を、魔術商人の老婆に売りつけていた。


「うーん、ちょっと傷があるねえ。」


老婆は天使の羽を、これでもかとばかりに検分していた。


「ちゃんとマナもチャージしたし、使う分には問題ねえだろう?」


「うーん、使い古しだしねえ。」


「頼んますよ、婆さん、否、おばあ様、マダム…」


ウォンが必死で老婆を説得にかかっていると、同席していたジュウベエは、ふいに老婆に向かってこう言った。


「姉さん、ここは器の大きい所を…」


すると、老婆は上機嫌になり「ヒヒヒヒ、そうこなくっちゃねえ。ホレ、持ってけドロボー!」と言って、いくばくかの貨幣をウォンに渡して立ち去った。


「助かったぜ、ジュウベエ。」


「効くもんだな…」


二人は仲間たちのいる席に戻っていった。


「売れたか?」


パグは二人に声をかけた。


「おう、ジュウベエのおかげでな。」


「それじゃ、さっそくその金でうまい肉でも食うか。」


ロウがそう言うと、ウォンは「冗談じゃねえ!貯金だ!」と言った。


やがて、一同の前に、キュノケファルス(犬型獣人)の女給が大盛りの海鮮パスタを運んできた。


「はい、お待ちどうさま。」


「おお、うまそう!」


大皿から漂ってくる芳醇な香りに、一同は色めきたった。


女給は、海鮮パスタの大皿をテーブルに置くと、ディアナの方を向いた。


「ディアナさん、妹さんから魔法伝報が届いていたわよ。」


そう言うと、一枚の紙をディアナに渡した。


魔法伝報とは、遠くにいる人にメッセージを魔法で紙に焼き付けて、知らせる機械である。パブには、そうした機械が存在し、頼めば伝言を受信したり、送信したりすることができる。


ディアナは紙を受け取ると、メッセージを読み始めた。


「妹さんって、確か魔法学校に通っているんだっけ。」


パグはそうつぶやいた。


パーティのメンバーは、以前、ディアナの妹が魔法学校に通っていると聞いたことがあった。


「いや、今はもう卒業して、王宮で働いているって言ってたわね…うん?王宮から、あたしたちに仕事を頼みたいって?」


伝報を読んだディアナは、驚きの声をあげた。


「まじかよ、王宮の仕事なんて上玉じゃねえか!」


ウォンが色めき立った。


「こいつは、断る道理はないな。」


パグもうれしそうな声をあげた。


「とりあえず、今日は休んで、明日の朝一で向かうというのはどうだ?」


ジュウベエがそう提案すると、ディアナも満足げに頷いた。


「そうね、じゃあさっそく伝報を…」


「君たち、何をしているのかね、早く支度をしたまえ。」


いつの間にかロウがバリッとした礼服に着替えていた。


「何着てんだ!」


「明日だっつってんだろうが!」


「つーか、買ったの?それ!!」


ジュウベエ、ウォン、ディアナが口々に言った。ディアナは、きつい一撃をロウに食らわせて、礼服をとり上げると道具屋に返品した(その際、自分にツケたと知って、さらに怒りを強めた)。


ディアナが魔法伝報を妹に送ると、一同に「それじゃ明日、朝一で出発ね。」と言った。

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