第2話 冒険屋たち(その2)
冒険屋とは、遺跡の探索や魔物退治や狩り、キャラバン(行商団)の護衛等、多岐にわたる荒事を引き受けている者である。
パーティのメンバーは、魔導士のウォン、レンジャーのパグ・ナク、アーチャーのディアナ、シーカー(斥候)のジュウベエ、そしてリーダーのロウの五人である。
ロウは、元僧侶の剣士という風変わりな肩書の持ち主であるが…良いリーダーとは言い難い。
ウォンは、隣国のアルトロン帝国出身で、エルフ族の亜種、ピクシー族の魔導士であるが、かの国では魔導士が冷遇されているため、ガルディアにやってきた。
パグ・ナクは、山岳地帯の多いバルザック国出身の獣人族で、狩猟の名手である。魔物狩りの仕事では、彼の技能が要となる。持っている槍は、故国で狩ったドラゴンの骨を削って作ったドラゴンホーンという槍である。
ディアナは、ガルディア国出身のアーチャーで、ウォンと同じピクシー族の女性である。
ジュウベエは、トウア国という島国出身で、あまり過去を語ろうとしないが、単なるシーカー以上の技能を身に着けており、故国では何か特別な仕事をしていた。ガーディアナに来る前から、ウォンと知り合いであったようである。
一同は、狩った魔物を調理して鍋にした。魔物の肉はマナ(魔力)がふんだんに含まれているので、大変な美味であることが多い(ただしまずい物もある)。
解体する理由の一つに、魔物の骨や皮は、加工して道具にしたり、魔法薬の材料にもなったりするので、冒険やの貴重な収入源となっている。
また、魔物は、体内に食った人間の遺品であるコインや貴金属などが残っていることがあり、これを回収するのも冒険屋の仕事である。そして、そのまま解体した魔物の肉を食らうことで、犠牲者を埋葬する風習がある。
元々、狩猟をしていた者達の風習であるが、僧職をはじめとして、近年は嫌厭しているものも多く、都会育ちのウォンは当初ひいていた。
だが、僧侶であったはずのロウは、積極的に調理していた。
薬草を刻み込み、魔物の肉と一緒に煮込んで魔物鍋を作り上げた。一同はグローブを外して、鍋を囲み、肉を口に入れて舌鼓を打った。
焚火を挟んで一同がくつろいでいる中、ウォンは、ため息をつきながら、折れた杖を削ってワンド(小さな杖)にしていた。
「あーあ、修復はもう無理か。」
「過ぎたことを言ってもしょうがないでしょ、あっ何か、矢にするのにちょうどいいサイズじゃない。」
ディアナが削られている杖を見ていると、ウォンは「やめろよ、小さくても使えるんだから!」と言って、削った杖をディアナから遠ざけた。
「大陸の人間は、杖が無いと、魔法を使うのに支障をきたすのか?」
ジュウベエはウォンに聞いた。彼はいくつかの魔法が使えるが、杖を必要とはしていない。
「使えないことはないけれども、大がかりな魔法は杖があった方がいいし、細かいところはワンドを使ったほうがいい。」
そう言ってウォンは、作ったばかりのワンドを一振りして、魔法で木くずを焚火に放り込んだ。
「まあ、解析や分析だったら杖はいらないけれどもね。この遺跡も解析して、記録にすれば高く売れそうだな。」
そう言って、ウォンは遺跡を見渡した。
一口に遺跡と言っても、色々あるが、古代の魔導士や僧侶が建造した祭壇や神殿には、それまで公表されていない未知の魔法が宿っていることがあるため、解析して王宮や魔導士ギルド等に売れば、高い値段で買ってくれることがある。
ただし、遺跡はマナを溜め込むように設計されているため、放置していると、魔物の巣窟となってしまう。
「お前は、大魔導士の称号が欲しいんだものな。」
ジュウベエは言った。
「ああ、だからこそ、魔法が盛んなこの国に来たのさ。」
「その意気だ。ガンバレよ!」
ロウはそう言って激励すると、手に持っていた金属製の瓶に口をつけてラッパ飲みした。
「あんた!何飲んでんのよ!!」
ディアナが叫ぶと、ロウは「酒」と顔色も変えずに言った。
「まだ、冒険終わってねえぞ!」
「酔っぱらっちまったらどーすんだ!!」
「帰るまでが冒険だぞ!!!」
ウォン、ジュウベエ、パグが口々に言った。
「心配すんなって、俺はこの道5~6年のベテランだ。この程度で酔いつぶれりゃしねえって。」
ロウは、そう豪語したが、5分後には酔いつぶれて寝てしまった。
「言わんこっちゃない、だから飲むなと…」
ウォンが呆れた表情で、だらしなく寝ているロウを横目で見た。
「まあ、魔物は一端追い払えば、しばらくは警戒して来ないから、大丈夫だろう。」
パグは取り直すように言った。
「にしても、こいつは本当にクルセイダーズの一員なのか?」
ウォンはそう言いながら、バックからケースを出すと、中からキセルを取り出して火を点けた。
「まあ、昔はもうちょっと、マシだったんだけれどもね。」
ディアナも少々あきれ顔になった。彼女とロウは、かつて、クルセイダーズと呼ばれる義勇軍の一員だったのだ。
「一応、こんなんでもマックスの相棒だったし。」
そう言って、ディアナは眠っているロウを、顎でしゃくった。
「マックスって、クルセイダーズのリーダーのマクスウェルだよな。」
ジュウベエが言った。
「とても、そうは思えない。」
パグは弱冠、半信半疑であった。
「まあ、確かに僧侶としちゃ生臭い方に該当するけれどもね、腕利きであったことは間違いなかったわね。」
「今や、腕利きの荷物番だよ。」
ウォンはそうつぶやいた。
「まあ、女癖が悪いのは事実だったわね。しかも、獣人や鳥人にも目をつけていたくらいだし、そのうちケンタウロスにも手を出すんじゃないかって、あの頃の仲間も…」
そこまで言うと、ディアナは、一同が呆れ顔をしているのに気づいた。
「それのどこがマシなんだよ…」
「今と対して変わってねえじゃねえか。」
ジュウベエとウォンがそう言うと、ディアナは弱冠慌てて、「いいや、違うのよ、あたしはえーと、その…」
「オイ、雨が降りそうだぞ。」
パグがそう言うと、くだらない話はこれでおしまいとばかりに、一同は天幕を張った。
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