シャイニングクルセイダーズ

蔵無

第1話 冒険屋たち

丁寧に切り揃えられた石柱が並ぶ、環状列石かんじょうれっせき型の遺跡に、緑色のローブを羽織った耳の長いエルフ系種族の青年と、黒いマントを纏った東洋系の小柄な男がいた。


エルフの青年は、魔導士のようで、茶色の髪をしていた。東洋人の方は、バサバサの黒髪を垂らした、少年のような見た目だが、目つきは鋭い。


少し離れた所には、白い毛並みで大柄な体躯をした猫科猛獣のような見た目の獣人と、魔導士の青年と同じ種族で、赤毛の女性が見張りをしていた。


石柱の下では、茶色のジャケットに帽子を被った男が、荷物と一緒に座り込んでいた。背中にはブロードソードを背負っている。


「ううん、この石柱の配列からして、天文学と方位学と関係のある魔術の儀式を取り扱った遺跡なのかな?」


魔導士の青年は、手に持っている図面を見ながら言った。


「ガルディア王朝ができてから、三百年くらいたって造られたものみたいだな。」


黒衣の少年は、周囲を見渡しながら言った。


「ガルディアは魔導士が統治していると聞いたけれども、これは王宮の魔導士たちが造ったって感じじゃねーな。」


そこまで言うと、ふと緑色の魔導士の青年は、足元に何かあるのに気づいて拾いあげた。それは、二つの翼が巴状にくっついた風変わりなタリスマン(護符)であった。


「やや、これは精霊の翼か?」


そう言って、黒衣の少年に見せた。精霊の翼とは、回帰魔法の力が宿った魔法道具である。


「まだ、使えるのか?これ」


黒衣の少年は聞いた。


「ああ、魔力を注入すればな、もったいない。」


精霊の翼は、結構な高級品で売れば高くつく。魔導士の青年が精霊の翼をハンカチにくるんでしまうと、周囲を見渡していた獣人の男がひょいと石柱に飛び乗って、あたりを見渡した。


「二人とも、お客さんだぜ。」


獣人の男は、魔導士と黒衣の少年にそう声をかけた。


ふと周囲を見渡すと、翼長二メートルはある巨大なコウモリや、大ねずみが現れた。

全員、環状列石の中央に集まると、警戒を高めた。


「ウォン、やれるか?」


帽子の男は緑色の魔導士の青年に声をかけた。


「まかせとけ、ロウ。」


そう言うと、ウォンは古いルーンの言葉によって構成された呪文を唱えはじめた。すると、持っている杖先から火の玉が現れた。


ウォンが杖を振ると、火の玉は飛び出し、遺跡の周囲を旋回して、モンスター達を威圧した。モンスターたちは、マナで作られた火にたじろいだが、遺跡から離れていく様子はなかった。


「パグはラット(オオネズミ)を、ジュウベエはオオコウモリをやってくれ。」


ロウがそう命じると、パグは槍を構えて、ラットを蹴散らした。ジュウベエと呼ばれた黒いマントの少年は、石柱を飛び乗ると、持っている大ぶりのジャックナイフでコウモリを切り裂いていった。


しかし、二人とも善戦をしているものの、モンスターは中々立ち去ろうとはしなかった。


「ありゃ、群れの中にリーダーがいるな。」


ロウがそう言うと、赤毛の女性が「まかせとけ」と言って弓を構えた。彼女は群れのリーダーらしい赤いオオコウモリに狙いを付けて、一気に弓を引いた。


放たれた矢に当たったオオコウモリは、そのまま落下していき、魔物達はすぐに逃げ出した。


「やったぜ!ディアナ」


ウォンがそう言うと、パグが「まだだ!一匹そっちに向かったぞ!」と叫んだ。


「へ?」


ウォンが虚をつかれた返事をすると、オオコウモリが一匹、ウォンにめがけて突撃してきた。


「こなくそ!」


呪文を唱える暇がなかったために、ウォンは杖でオオコウモリを叩きのめした。


「うわー!、離れろ!」


バシバシと音を立てて、思い切り杖で叩きつけているにも関わらず、尚も向かってくるオオコウモリに、ウォンはたじろいでしまった。


「世話がやけるわね。」


ディアナはそう言って、矢を放ってオオコウモリにとどめを刺した。


「オーイ、大丈夫か!」


パグとジュウベエが駆け寄ってきた。


「ああ!俺の杖が…」


オオコウモリを強く叩いたことで、ウォンの杖が無惨にも折れてしまっていた。


「何だ、杖か。」


一同は胸をなでおろした。


「何だじゃねえよ、修業時代からの愛用品だぞ。」


「まあ、しょうがねえじゃん、新しいのを買いなよ。」


と、ロウが言った。


「いや、ていうかさ…」


ディアナはロウの方に向くと、「あんたも働きなよ!」と言った。


「今、働いているだろう。」


「何を!」


「荷物番」


ロウはすました顔で答えた。確かに彼の傍には荷物がしっかりあった。


「リーダーの仕事じゃねえだろう!!」


一人を覗いた全員の合唱が遺跡にこだました。

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